産業・技術動向

2023年8月29日 (火)

「2022年度 分野別動向調査報告書」発行について (MMC「国内外技術動向調査委員会事業」)

 マイクロマシンセンターでは、国内外の最新かつ詳細なマイクロマシン・MEMSそして近年活発化しているナノ関連の研究開発の情報を収集・分析し、その技術動向を把握することを目的に、各年度MEMSの分野で代表的な国際会議を定点観測して、分野別動向調査報告書にまとめています。

 2022年度は“APCOT 2022(The 10th ASIA-Pacific Conference of Transducers and Micro-Nano Technology)”と“MEMS 2023(The 36th International Conference on Micro Electro Mechanical Systems)”を調査しました。

 “APCOT2022”は、アジア、太平洋地域でのMEMS/ナノテク分野の研究開発事例が発表される国際会議で、2002年に中国・アモイ市で第1回が開催されて以来、2004年は札幌、2006年シンガポール、2008年台湾・台南、2010年オーストラリア・パース、2012年中国・南京、2014年韓国・大邱、2016年金沢、2018年香港と、国際会議Transducersの開催されない年に隔年で開催されています。
 第10回が開催予定であった2020年は新型コロナウイルス感染拡大のため中止となり、2022年 5月29日(日)~6月1日(水)の日程で開催地を上海としてハイブリッド形態で開催されました。
 投稿件数は129件で、前回の157件から僅かに減少しました。その中から118件(前回143件)の論文が採択され、採択率は91%(前回91%)でした。
 国別では中国が72件(前回45件)でトップ、2位、日本33件(前回42件)と続きました。次いで、台湾とシンガポールが3件、タイとオーストラリアが2件、韓国が1件となりました。
 発表内容の大分類別では、Fundamentalsが33件(28%), Applied Devices/Systemsが83件(71%)、どれにも該当しないものが1件(1%)で、応用分野に関する発表と基礎分野に関する発表の割合は、前回とほぼ同等でした。発表件数が多い分野は、Fundamentals Othersが16件と一番多く、Chemical Sensorが13件、Design and Modeling、OpticalおよびRF-MEMSで11件となりました。

 次に、“MEMS2023”は、IEEEのMEMS技術に関する国際会議で、毎年開催されています。36回目にあたる今回は、2023年1月15日~19日の日程で、独 ミュンヘンで開催されました。
 投稿件数は636件(前回600件)で、昨年より6%程度増加しました。採択された論文数は全体で314件(前回275件)、採択率は約49%(前回46%)でした。プレナリーを含む地域別発表論文数は米州43件(前回56件)、欧州57件(前回41件)、アジア太平洋212件(前回172件)となり、前回とほぼ同水準でした。
 地域別ではアジアが多く、昨年に続き中国が83件(前回70件)でトップ、日本54件(前回57件)、米国40件(前回54件)と続きました。このほか、アジア諸国では、台湾33件、韓国23件で、欧州では、ドイツ13件(前回5件)、オーストリア11件(前回1件)、オランダ6件(前回10件)となりました。
 発表件数が多い分野は、Mechanical Sensor(65件)、Radiation/Material Substance Sensor(66件)、Fabrication Technologies (non-Silicon)(47件)、Fluidic(42件)、Design and Modeling(38件)、Others (Applied Devices/Systems)(38件)、Actuators(35件)となりました。

 報告内容の詳細は、2022年度分野別調査報告書冊子のほか、マイクロマシンセンターのホームページ内の賛助会員のページにてご覧になることができます。

(調査研究・標準部長 藤澤 大介)

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2022年9月29日 (木)

「2021年度 分野別動向調査報告書」発行について

 マイクロマシンセンターでは、国内外の最新かつ詳細なマイクロマシン・MEMSそして近年活発化しているナノ関連の研究開発の情報を収集・分析し、その技術動向を把握することを目的に、各年度MEMSの分野で代表的な国際会議を定点観測して、分野別動向調査報告書にまとめています。

 2021年度は“Transducers 2021(The 21th International Conference on Solid-State Sensors, Actuators and Microsystems)”と“MEMS2022(The 35th International Conference on Micro Electro Mechanical Systems)”を調査しました。

 “Transducers 2021”はマイクロセンサ、マイクロアクチュエータに関する最先端の研究開発事例が発表される国際会議で、1981年にボストン(米)での第1回会合以来、隔年に開催されています。
 今回は21回目となります。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2021年6月20日から25日にヴァーチャルで開催されました。
 投稿件数は550件で前回の1528件より64%減少しました。採択件数は395件(口頭136件、ポスター218件、その他41件)で、採択率は71.8%(前回42.9%)でした。
 地域別ではアジアが多く、国別では中国が40件(前回41件)でトップ、前回最多であった米国が29件(前回57件)で2位、日本29件(前回40件)と続きました。アジア諸国では台湾12件(前回10件)、シンガポール8件(前回1件)でした。欧州は、ドイツ6件(前回14件)、ベルギー6件(前回3件)、スイス5件(前回6件)等となりました。
 発表件数が多い分野は、Mechanical Sensor(38件)、Radiation/Material Substrate Sensor(14件)、Medical Power-MEMS(13件)、Fabrication Technologies (non-Silicon)(12件)、Medical Systems(12件)、Actuators(11件)となりました。

 “MEMS2022”はIEEEのMEMS技術に関する国際会議で、毎年開催されています。
今回は35回目となります。コロナウイルス感染拡大の影響で、2022年1月9日から13日にハイブリッドで開催されました(対面開催地は東京)。
 投稿件数は600件(前回518件)で、昨年より16%程度増加しました。採択された論文数は全体で275件(前回250件)、採択率は約46%(前回52%)でした。
 地域別ではアジアが多く、国別では、昨年に続き中国が70件(前回89件)でトップ、日本57件(前回41件)、米国54件(前回56件)、と続きました。アジア諸国は、台湾19件(前回13件)、韓国10件(前回9件)でした。欧州は、オランダ10件(前回2件)、イタリア7件(前回4件)、スイス6件(前回8件)、ドイツ5件(前回6件)等となりました。
 発表件数が多い分野は、Mechanical Sensor(68件)、Fabrication Technologies (non-Silicon)(42件)、Actuators(41件)、Design and Modeling(38件)、Fluidic(38件)、Tissue/Organ & Medical Applications(38件)、Radiation/ Material Substance Sensor(36件)、Material(33件)となりました。

 報告内容の詳細は、2021年度分野別調査報告書冊子のほか、マイクロマシンセンターのホームページ内の賛助会員のページにてご覧になることができます。

(調査研究・標準部長 時岡 秀忠)

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2022年2月 2日 (水)

MMC創立30周年記念講演会(1月28日)開催報告

 「MEMSセンシング&ネットワークシステム展2022」の最終日に、東京ビッグサイト会議棟にてMEMS協議会フォーラム「MMC創立30周年記念講演会」を開催いたしました。

● 1月28日 10:15-11:45:MMC創立30周年記念講演会 @607+608会議室
第1部 TIA-MEMSウィンターセミナー MEMS講習会
    「MEMS分野の産業動向と注目技術」

 午前中の第1部は主に学生や若手技術者向けに「TIA-MEMSウィンターセミナー MEMS講習会」を開催しました。
 初めに、MMCの長谷川専務理事からMMC産業動向調査委員会によるMEMS技術の進展の歴史と、今後20年のMEMS関連技術の進展予測した調査結果を報告しました。
 次に、静岡大学橋口教授から、近年注目されている環境発電デバイス(エナジーハーベスタ)などの新機能MEMSに使われるエレクトレット技術について、そして立命館大学の小西教授から、長年MEMSの国際会議運営に携わってきた先生によるMEMSの研究開発動向と、つい先日に開催されたMEMS2022の速報を交え、MEMS関連研究開発動向について報告がありました。

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写真1 MEMS講習会

● 1月28日 13:15-16:00:MMC創立30周年記念講演会 @607+608会議室
第2部 「MEMSの過去30年と今後の20年の技術展望」と
     パネルディスカッション

 午後の第2部は、MMC30周年特別企画として、30年の歴史をMEMSなどの微細加工、半導体製造技術の進歩とともに振り返り、未来へ続いていくために必要なことを、産業界、大学、国立研究所を代表する方々による基調講演とパネルディスカッションで展望しました。
 山中MMC理事長による開会挨拶と、経済産業省産業機械課の安田課長からの来賓ご挨拶の後、基調講演の1番目として、「MEMSの発展が世界を変革 ~過去、現在、未来~」というタイトルでSPPテクノロジーズエグゼキュティブシニアアドバイザーの神永 晉氏から、過去数10年にわたって著しい発展を遂げたMEMSの原動力であったシリコン深掘り技術を中心とする微細加工技術の更なる進化と、今後どのような世界を創出するかの展望が語られました。
 次に基調講演の2番目「オタクあがりのモノづくり人生」というタイトルでMEMSコアCTOで、東北大学マイクロシステム融合研究開発センター シニアリサーチフェローの江刺 正喜先生から、半導体微細加工をベースにしてセンサなどの多様な部品をつくるMEMSの研究を自作した装置などを使うことで、費用がかからず自由度の多い形で研究を行っていたという半生が紹介されました。
 そして、最後は「これからのMEMSの技術展望」について、基調講演のお二人に加え、パネリストとして、富山県立大学学長の下山 勲先生と産総研の上級執行役員 金丸 正剛TIA推進センター長の4人でモデレータの長谷川専務の進行でディスカッションしました。 我が国としてMEMSの技術面で、どこをどう伸ばしていくべきかとか、MEMSによって描くことのできる未来の産業や社会の姿などについて、会場で聴講されていた、西安交通大の前田龍太郎先生も交えて、熱く議論がされました。

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写真2 パネル討論会

(MEMS協議会 八嶋 昇)

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2019年7月24日 (水)

JCK MEMS/NEMS 2019 参加報告(7月16日-18日)

7月16日(火)から7月18日(木)に北海道の旭川クリスタルホールで開催されましたJCK MEMS/NEMS 2019に国際交流活動の一環として、参加するとともに、今年の3月に終了したRIMSプロジェクトの成果広報を行って参りましたので、報告致します。JCK MEMS/NEMS 2019は今年記念すべき第10回を迎えた日本―中国-韓国のMEMS/NEMSに関するジョイントの会議です。 2006年に第1回が開催された中国と日本のMEMS/NEMSのジョイントセミナー(第1回:2006年、北京、第2回:2007年、東京、第3回:2009年、無錫)と2008年に釜山で開催された第1回の日本と韓国のMEMS/NEMSのジョイントセミナーを合体させ、2010年に日本―中国―韓国のジョイント会議として第1回JCK MEMS/NEMSが 札幌で開催されました。それ以降以下のように、日本、中国、韓国が持ち回りで開催し、今回第10回を迎えました。


・第1回:2010年、日本、札幌、(投稿数:34)
・第2回:2011年、韓国、済州島、(投稿数:46)
・第3回:2012年、中国、上海、(投稿数:57)
・第4回:2013年、日本、仙台、(投稿数:60)
・第5回:2014年、韓国、ソウル、(投稿数:23)
・第6回:2015年、中国、西安、(投稿数:38)
・第7回:2016年、日本、札幌、(投稿数:41)
・第8回:2017年、韓国、ソウル、(投稿数:40)
・第9回:2018年、中国、大連、(投稿数:65)
・第10回:2019年、日本、旭川、(投稿数:75)


今回は第10回の記念大会ということもあり、投稿数は過去最多になり、99人(中国26人、韓国17人、日本37人、企業14人、US1人、台湾1人、シンガポール1人、ベトナム2人)の参加がありました。今回のジェネラルチェアは鳥取大学の李教授でした。李教授による開会挨拶の様子を写真1に示します。

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写真1 李教授開会の挨拶の様子


第10回の記念大会ということで、メモリアルトークとして、江刺先生(元東北大教授、現(株)メムス・コアCTO)から「MEMS on LSI for Heterogeneous Integration and Hands-On Access Fabrication」と題する講演(写真2:江刺先生の講演の様子、写真3:会場の様子)がありました。

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写真2 江刺先生のメモリアルトークの様子

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写真3 会場の様子


その他に以下の4件のプレナリートークと4件の招待講演がありました。
【プレナリートーク】
① Moving from IoT to 5G Era - Si MEMS and Flexible Sensors (Chengkuo Lee, National University of Singapore)
② Micro/Nano Manufacturing and Its Applications ? Under One Roof Report ? Part VII (Dongfang Wang, Jilin University)
③ Opportunities and Challenges of Vitro Diagnostic Rapid Tests (Yu-Cheng Lin, National Cheng Kung University)
④Advancement of Micro/Nano Electro-Hydro-Dynamic Printing (Sukhan Lee, Sungkyunkwan University)


【招待講演】
① Flexible and Stretchable Energy Storage Devices (Seung-Min Hyun, Korea Institute of Machinery & Materials)
② Directing and Visualizing Mechanical Motion at the Nanoscale (Zenghui Wang, University of Electronic Science and Technology of China)
③ Current status of Korea’s Additive Manufacturing Technology (Nak-Kyu Lee, Korea Institute of Industrial Technology)
④ Large Scale Production of Metal Oxide Nanoribbons Using Scratch Lithography (Jeong-O Lee, Korea Research Institute of Chemical Technology)


プレナリートーク②ではWang先生(写真4:Wang先生講演の様子)が、これまでの10回のJCK MEMS/NEMSを外観するとともに、他の分野での日本―中国―韓国 (JCK)のジョイント会議にも言及し、工学以外でもバイオメディカル、化学、教育、地理学の分野でも日本、中国、韓国の交流が活発に行われている状況の説明があり、MEMS/NEMS分野でもこの10回の記念大会をマイルストーンに、「一つ屋根の下」として、さらに20年、30年を目指して発展させていこうとの呼びかけがありました。

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写真4 Wong先生講演の様子


一般セッションでは、24件の口頭発表と41件のポスター発表(写真5:ポスターセッションの様子)がありました。トップの口頭発表としては、慶応大学の三木教授より「MEMS-Based Human Interface Devices」と題する発表がありました。キャンドルタイプのポリマーベースのマイクロニードルにより、髪の毛のある通常の状態での人間の脳の活動計測が可能なことが示されました。武田もNEDO委託事業として実施したRIMS(Road Infrastructure Monitoring System)プロジェクトの紹介を口頭発表(写真6:武田講演の様子)致しました。非常に興味深い発表だとのコメントを多数頂き、RIMSの研究成果の広報ができたと考えます。

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写真5 ポスターセッションの様子

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写真6 武田講演の様子

今回JCK MEMS/NEMS2019に出席して、隣国の中国、韓国の研究者と活発に議論ができ、MMCの国際交流活動の一環としても成果を上げられたと思っています。また、JCK MEMS/NEMSは、最近では3国の研究者のネットワーキングを使って、シンガポールやベトナム等の東南アジアからの参加者もくるようになっており、より大きなコミュニティに発展してきているとの印象を受けました。次回のJCK MEMS/NEMS 2020は2020年7月1日~3日に韓国、高陽市にあるKINTEX(Korea International Exhibition Center)で開催されますが、引き続きMEMS/NEMS分野の国際交流の場として活用していきたいと思います。

(MEMS協議会 国際交流担当 武田 宗久)

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2018年11月15日 (木)

米国研究開発動向調査

 2018年11月6日(火)~11月14日(水)に米国の研究機関及びベンチャー企業を訪問して、米国におけるMEMS、IoTセンサ及びピコセンサ技術に関する最新の研究開発動向調査を行いましたので、以下にご報告致します。今回調査したのは以下の7機関です。
 1. eXo Imaging
 2. Stanford Uiversity, Roger Howe研究室
                 3. Stanford Nanofabrication Facility (SNF) &
                  Stanford Nano Shared Facilities (SNSF)
                 4. MIT, Biomimetics Robotics Lab
 5. ORIG3N
                 6. Stanford University, Khuri-Yakub研究室
                 7. Graftworx 
以下に各訪問先での調査結果を示します。

1. eXo Imaging
(1)面談者:Janusz Bryzex, Chairman & Chief Visionary Officer
      Sandeep Akkaraju, CEO & President
(2)訪問日:2018年11月6日(火)
(3)調査結果
                ・eXo ImagingはTrillion Sensors Initiativeを提唱した主宰者のJanusz BryzekがTrillion Sensorsの動きから出た初めての新ビジネスとして2016年に設立したベンチャー会社です。超音波(PMUT)による画像診断(エコー)を、ポータブル機器として開発しています。

                ・ピエゾMEMSを使って、既存の医療用の超音波診断装置を現状の超音波プローブの大きさに収めた製品を来年の9月にFDA認許をとって販売しようとしていました。

                ・超音波診断子はFDAの認可が必要ですが、非侵襲機器であるため、FDA取得はそれほど大変ではないとのことでした。

                ・通常MEMSではアイデアから製品まで27年かかっていますが、それを3年で実現できると言っていました。

                ・超音波診断子ではインピーダンスマッチングが必要で、ピコセンシングで考えているインピーダンスマッチング層には大きなニーズがあることが分かりました。

                ・今後はピエゾ MEMSが大きな広がりを持つとの考えで、多くのアプリ例を出して説明してくれました。今製品化を進めている超音波診断子はその第一歩との考えでした。

                ・トリリオンセンサのフェーズ1は2016年に終了しましたが、Januszは現在トリリオンセンサのフェーズ2(安く大量に製造するためにプリンテッドエレクトロニクスの革新が中心技術になるとの考え)をSEMIと画策しているとのことでした。

・写真1にeXo Imagingの入り口でのJanuszとの写真を示します。

                  

写真1  JanuszとeXo Imagingの入り口で
                  
               

2. Stanford Uiversity, Roger Howe研究室
(1)面談者:Charmaine Chai, PhD student
(2)訪問日:2018年11月7日(月)午前
(3)調査結果
                  ・MEMSの大御所のひとりのRoger Howe教授の研究室を訪問しました。生憎Howe教授は出張中で不在でしたが、PhDの学生であるCharmaineに実験室を案内してもらいました。

                  ・Howe教授はMEMSからバイオセンサの方に研究テーマをシフトしているとのことでした。

                  ・タンパク質の分析を行うバイオセンサの開発をしているとのことでしたが、分子識別能を使うのではなく、トンネル電流をローノイズで検出する方式のバイオセンサを開発しているとのことでした。

                  ・また、開発したバイオセンサのベンチャーも立ち上げているとのことでした。

                  ・実験室を案内してくれましたCharmaineはアプリケーションよりはnAレベルの微小信号を検出するためのトンネル電流検出プローブやローノイズ回路等の要素技術を開発しているとのことでした。

                  ・微小信号を検出するということで、ピコセンシングと通じるものがありました。現状はノイズ等により検出できる電流はnAレベルで、pAまでは検出は困難とのことでした。但し、現在考えているバイオセンサではnAで十分とのことでした。

・写真2にSanford大Howe研究室でのCharmaineとの写真を示します。

                  

写真2  CharmaineとHowe研究室の実験室で
                  
               

3. Stanford Nanofabrication Facility (SNF) & Stanford Nano Shared Facilities (SNSF)
(1)面談者:Dr. Mary X. Tang, Managing Director, SNF

             Dr. Shivakumar Bhaskaran, Coordinator, SNSF
                 Clifford F Knollenberg, Cleanroom Science & Engineering Associate, SNSF

(2)訪問日:2018年11月7日(水)午後
(3)調査結果
                  ・MEMSプロセス施設のSNF及びSNSFをManaging Director のMaryとCoordinatorのShivakumarとに案内して頂きました。

【SNF】
                  ・SNFは10,000 sq ftのクリーンルームを有する施設で、建設当初はStanford大学でCMOSを製作するめに建設されましたが、最近は半導体からMEMSを中心とする種々デバイス製作の施設に移行しており、全米に16あるNanofabrication Facilityの一つと位置付けされているとのことでした。

                  ・基本的には4インチのラインで、一部6インチウエハの処理が可能な装置があるとのことでした。年末年始のメンテナンス期間(20日程度週)を除くと1日24時間、週7日フル稼働しているとのことでした。日中は企業等の外部からの使用が多く、学生はむしろ深夜に使用しており、深夜の装置稼働率の方が高いとのことでした。

                  ・メインのCRはクラス100で写真3にレイアウトを示すように、一通りの装置が揃っていました。また、メインが大学の研究用なのでいろんな材料を使ったデバイスを製作できるように、写真4に示しますように、ExFabと呼ばれるグレイな領域も設けているとのことでした。

                  ・外部使用は20~25%で、後は学内の使用とのことでした。

・スタッフはSNSFと合わせて35名程度で、SNFは18.6人とのことでした。学生への装置トレーニングが主な仕事で、実際の装置操作は学生が実施するのが多いとのことでした。
・また、学生が使用するので、写真5に示しますように、主要な場所は一括でモニタできるようにして、監視しているとのことでした。
・写真6にMaryとSNFのファブの前での写真を示します。

                  
 
                  写真3 SNFメインCRのレイアウト
                  
                  
                  写真4 ExFabのレイアウト
                  
                  
                  写真5 CR監視モニタ
                  
                  
写真6 MaryとSNFの前で
                   

 【SNSF】
・SNSFはStanford大学のナノテク関連の高性能なプロセス装置及び評価装置を共同で利用するために作られたサービスセンターで、以下の4つのグループから構成されています。
① Nanofabrication
② Electron & Ion Microscopy
③ X-ray & Surface Analysis
④ Soft & Hybrid Materials
                  ・SNSFでは学内外合わせて年間約850件のサービスを実施しており、そのうち約750件がStanford大学内の25の学科からの使用とのことでした。

                  ・装置は3つのビルに分かれて設置されています。そのうちメインのSpilkerビルの装置レイアウトを写真7に示します。主要な装置を見学させて頂きましたが、さすがスタンフォードで、高価なプロセス装置や分析装置がたくさんありました。

・NaofabricationのマネジャーのClifford F Knollenbergとの写真を写真8に示します。

                  
                  

写真7 SNSF- Spilkerビルの装置レイアウト
                  
                  
写真8 CliffordとSNSF-CRの前で
                  

4. MIT, Biomimetics Robotics Lab
(1)面談者:Dr. Quan Nguyen, Post-Doctoral Fellow
(2)訪問日:2018年11月9日(金)午前
(3)調査結果
                  ・MIT の4足歩行ロボット「Cheetah(チーター)III」を開発しているBiomimetics Robotics Labを見学し、ポスドクのQuanから説明を受けました。

                  ・CheetahIIIは視覚を使わず、接触検出アルゴリズムによりTV等でも話題のボストンダイナミクスのSpotMiniより外力に強くなっているとのことでした。

                  ・但し、触覚センサは搭載しておらず(足に市販の触覚センサをつけたが、ジャンプ等の衝撃に耐えうるものはなかったそうです。)、各モータにつけたエンコーダと慣性ユニットで足の接地場所を計算しているとのことでした。

・各足に3軸のモータとエンコーダを搭載し、胴体部分に慣性ユニットを搭載していました。
                  ・今年10月に開催されましたThe 2018 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent                   Robots and Systems (IROS 2018)でお披露目となり、不整地や階段歩行、その場回転、ジャンプや棒でつついても倒れないデモ等をこなし、話題となっている4足歩行ロボットです。(http://news.mit.edu/2018/blind-cheetah-robot-climb-stairs-
                  obstacles-disaster-zones-0705
)

                  ・写真9にCheeterIIIの外観を写真10に説明してくれているQuanの写真を示します。

                  

写真9 MITの4足ロボットCheeterIII
                  
                  
写真10 説明しているQuan
                  
               

5. ORIG3N
(1)面談者:Kate Blanchard, Founder & COO
(2)訪問日:2018年11月9日(金)午後
(3)調査結果
                  ・ORIG3Nは2014年に設立された遺伝子検査を行うベンチャーで、COOのKate Blanchardに会社概要を紹介頂いた後、会社見学(写真11、写真12:事務所の外観、写真11奥にPCR解析装置が写真12に幹細胞貯蔵用の冷凍タンクが置かれています)をさせて頂きました。

                  ・PCRによる遺伝子解析装置を使った人間のDNA検査(FDAの認可は不要)をサービスとしており、フィットネスDNA検査キット等20種類($24~$149)のDNA検査キットを現在ドラッグストア等で販売する一方で、幹細胞やiPS細胞を培養して、医療応用を目指した研究の2本柱で会社運営をしようとしていました。

                  ・DNA検査キットの方はドラッグストア等で販売するビジネスモデルである程度の成長はするとは感じましたが、現状は人をターゲットにした検査だけを考えているようで、リピータの確保が難しく、検査時間も2,3週間かかるとのことでしたので、成長には限界があるように感じました。

                  ・製品としては、パッケージの中に口内の皮膚細胞を採取する検査綿棒が入っており、それでDNAを採取して、内蔵されているビニール袋と封筒に入れて送付するだけで、結果は専用のアプリをダウンロードすることでスマホから見れるというものでした。

                  ・技術的には同じなので、食品やセキュリティ分野でMEMS技術を使ったリピータの確保が可能なポータブル検査の方向も考えた方が良いように思いました。

・幹細胞やiPS細胞の医療応用ビジネスに関しては、まだまだ製品には遠そうな印象を受けました。
                  ・DNA検査キットに関しては、現在は米国での販売ですが、1,2年後にはアジアを含めた海外展開を考えているとのことでした。

                  ・試しに、フィットネスDNAテスト($149のもので6種類の検査を行う)をして頂いたので、結果楽しみですが、フィットネスDNAテストで$149は少し高いようにも感じました。

                  ・TVを見ているとORIG3N以外の会社から自分のルーツを探るDNA検査キットのコマーシャルが流れていましたので、米国では遺伝子検査ビジネスはかなりポピュラーになっているように見受けられました。

・写真13にORIG3Nの玄関の製品陳列棚の前でのCOOのKateとの写真を示します。

                  

                  写真11 ORIG3Nの事務所外観(1)
                  
                  
                  写真12 ORIG3Nの事務所外観(2)
                  
                  
写真13 ORIG3N玄関の製品陳列棚の前でのCOOのKateと
                    
                  

6. Stanford University, Khuri-Yakub研究室
(1)面談者:Dr. Butrus (Pierre) T. Khuri-Yakub, Professor
       Dr. Kamyar Firouzi, Research Associate
        Dr. Quintin Stedman, Research Associate
              Dr. Minoo Kabir, Post-Doctoral Fellow
              Dr. Bo Ma, Post-Doctoral Fellow
              Farah Memon, PhD Candidate
(2)訪問日:2018年11月12日(月)午前
(3)調査結果
                  ・Khuri-Yakub先生はゼロックスでインクジェットプリンタの開発をされておられた方です。ゼロックスはプリンタの事業からは撤退し、その技術は製薬開発に使う液滴滴下装置に転用されLabcyte(                   https://www.labcyte.com/ )という会社に引き継がれているとのことでした。

                  ・また超音波のCMUT(Capacitive micromachined ultrasonic transducers)の考案者で基本特許を持っておられた方です。1.のeXo ImagingではピエゾMEMSが今後広がるとJanuszさんが言っていましたが、超音波診断子としてはCMUTの方が広帯域、高感度で優れているというのがKhuri-Yakub先生の主張でした。

                  ・また、超音波プローブだけでスマホに接続できるCMUTの製品はButterfly (https://www.butterflynetwork.com/)という会社から1年前に製品化されているとのことでした。ここでもeXo Imagingは出遅れているように感じました。

・また、0.75agの重量を検知できるCMUTを使った化学量センサ(ガスセンサ)の開発をされており、まさにピコ(10-12)どころかアト(10-18)グラムの検出が可能とのことでした。但し、ガス吸着の高分子膜の開発が必要になりますが、それは専門外とのことでした。実際の化学量センサ(写真14)をDr. Quintin Stedmanに説明頂きました。
・そのほかカプセル超音波センサ(カプセル内視鏡のように飲んで超音波診断を行うもの)や脳の活動量モニタリング等の研究をされておられました。
                  ・写真15に教授室でのKhuri-Yakub教授と写真を示します。

                                      

                  写真14 agの検出可能な化学量センサ
                  
                  
写真15 Khuri-Yakub教授と教授室で
                   

7. Graftworx
(1)面談者:David J. Kuraguntla, CEO
      Anthony F. Flannery Jr. Vice President
(2)訪問日:2018年11月12日(月)午後
(3)調査結果
                  ・CEOのDavid J. KuraguntlaとVPのAnthony F. Flannery Jr.に対応頂きました。Davidから会社概要、Anthonyから来年にFDAを取得して発売予定の透析患用のモニタリングシステムの技術的な説明をパワーポイント及び試作品を使って受けました。

                  ・モニタリングシステムは①スマートパッチ(写真16)、②携帯対応データハブ(写真17)、③データ蓄積クラウドと④診断用フロントエンドから構成されていました。

                  ・スマートパッチはマイクロフォン、3軸加速度センサ、高精度温度計と光学の脈波センサ(PPG)を12mm角の基板に実装し、特注のバッテリを搭載したパワーマネージメントユニットとマイコン、メモリー、通信(BLE4.2)ユニットを耐久性のあるフレキシブル基板で接続し、シャワーでも使えるIP64相当を有するコーティングで実装したものでした。

                  ・脈波センサの詳細は分からなかったですが、ピコセンシングで考えている脈波センサのアプリの例として参考になると思いました。

                  ・また、システムとして製品化するためには、MEMSそのものよりは、耐久性、データのセキュリティ、診断技術等周辺の技術が大事とAnthonyは言っておりました。

                  ・本システムではハブにセキュリティ機能を持たせ、スマートパッチからスマートフォンにデータを直接やり取りすることはやめ、ハブを介することでセキュリティを高めたと言っておりました。

                  ・AthonyはInvenSenseの創始者でしたが最近はMEMSそのものよりは医療用デバイスとして役にたつものを開発したいと言っておりました。その他有意義なディスカッションができました。

・写真18に会議室でのDavidとAnthonyとの写真を示します。

                                      

写真16 スマートパッチ
                  
                  
写真17 携帯対応データハブ
                  
                  
写真18 会議室でDavid(左)とAnthony(右)と
                  

以上

                  
(一財)マイクロマシンセター 武田宗久
                  
               

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2018年3月 2日 (金)

米国研究開発動向調査

 2018年2月25(日)~3/2(金)に東京大学情報理工学系研究科の下山教授の「空間移動時のAI融合高精度物体認識システムの研究開発」の動向調査と並行して米国西海岸の研究機関を訪問して、米国の研究開発動向の調査を行いましたので、以下にご報告致します。今回調査したのは以下の5機関です。
 1. University of California, San Diego (UCSD)
 2. University of California, Los Angeles (UCLA)
 3. California Institute of Technology (CALTEC)
 4. NASA Jet Propulsion Laboratory (JPL)
 5. Microsoft Research (MSR) 
以下に各訪問先での調査結果を示します。

1. University of California, San Diego (UCSD)
(1)訪問先:Albert P. Pisano (Dean, Jacobs School of Engineering)
            Miwako Waga (Director, International Outreach)
(2)訪問日:2018年2月26日(月)午前
(3)調査結果
・Pisano学部長は元UC, BerkeleyでMEMS研究を初期から牽引してこられたMEMSの大御所です。現在、UCSDのJacobs School of Engineeringの学部長を務めています。
・UCSDのJacobs School of Engineeringは 6つの学科(①Bioengineering, ②Computer Science & Engineering,③Electrical & Computer Engineering, ④Mechanical & Aerospace Engineering, ⑤Nanoengineering, ⑥Structural Engineering)から構成されDigital Futureを目指して以下のテーマに注力して研究開発を行っています。
 -Context-aware robotics
 -Nano for energy and medicine
 -5G and future of communication
 -Wearable sensing and computing systems
 -Cyber and digital security
 -Data science and machine learning
・アメリカのホットトピックスに関して意見交換を行い、以下のような意見が出ました。
 -AIに関してはIBMとUCSDでAI for Healthy Living Centerを立ち上げているとのことでした。
 -医療に関してはDigital Health, Precision Medicine, Personalized Medicineが挙げられるとのことでした。
 -構造物モニタリングに関してはUCSDではサンディエゴ市とスマートシティの一環としてBuilding Structural Monitoringを行っているとのことでした。
 -医療認証に関しては、米国のFDAは世界一厳しいとのことでした。
・Pisano学部長がおられるUCSD Jacobs Hallの入口の写真を写真1に、Pisano学部長室の前で、Pisano学部長との写真を写真2に、和賀所長、Pisano学部長との写真を写真3に示します。

12_ucsd
   写真1 UCSD Jacobs Hall入口     写真2学部長室の前でPisano学部長と

3_ucsd_pisano_2      写真3 学部長室の前で和賀所長、Pisano学部長と

2. University of California, Los Angeles (UCLA)
(1)訪問先:
① CJ Kim (Professor, Mechanical & Aerospace Engineering Department)
② Verronica J. Santos (Associate Professor, Mechanical & Aerospace Engineering Department)
③ Tsu-Chin Tsao (Professor, Mechanical & Aerospace Engineering Department)
④ Jacob Rosen (Bionics Lab Director, Mechanical & Aerospace Engineering Department)
(2)訪問日:2018年2月26日(月)午後
(3)調査結果
① CJ Kim 教授
・CJ Kim教授はMEMS分野の権威で、Kim教授のMicro and Nano Manufacturing Labでは、特に表面張力を利用したマイクロナノデバイスの研究を積極的に行っています。
・UCLAはMedical Centerが近いので、医者との連携は容易であり、共同の研究はしていますが、初期はお金がないので、細々と進めざるを得ないとのことでした。但し、試作品が認められれば、病院は寄付によるフレキシブルな予算があるので、大きなプロジェクトにすることは可能とのことでしたが、コンセプトからは5年程度かかるとのことでした。
・CJ Kim教授室の前で、Kim教授との写真を写真4に、下山教授のKim教授への説明の様子を写真5に示します。

45_ucla_kim
   写真4 教授室の前でKim 教授と     写真5 Kim教授と下山教授

② Santos准教授
・Santos准教授は把持、触覚、義手、人工刺激、機械学習等の専門家でSantos准教授のBiomechatronics Labでは、人工触診(Artificial haptic exploration)、触覚センサ、把持等の研究開発を行っています。
・海軍の予算で義手の研究を行っているとのことでした。その他遠隔操縦や砂の中の触覚による物体認識や把持のための触覚センサ等の研究を行っていました。
・触覚センサは買い物とUniversity of Washingtonで作ってもらったものを使用しているとのことでした。
・Santos准教授室の前で、Santos准教授との写真を写真6に、写真7に遠隔操縦用双腕マニピュレータ、写真8に人工ハンド、写真9に指の触覚センサ、写真10に実験室での説明の様子を示します。

67_ucla_santos1
写真6准教授室の前でSantos准教授と 写真7 遠隔操作用双腕マニュピュレータ

89_ucla_santos2
    写真8 人工ハンド         写真9 指の触覚センサ

10_uccla_santos_2          写真10 実験室での説明の様子


③ Tsao教授
・Tsao教授はダイナミックシステムのモデリングと制御の専門家です。
・アメリカのホットトピックスのキーワードの一つとして、Co-Robotが挙げられるとのことでした。Co-Robotは人間とロボットとの物理的干渉に関する研究です。その場合には触覚センサが重要になるとのことでした。
・もう一つのキーワードとして、 Distributed Sensingが挙げられるとのことでした。Distributed sensingではデータ処理のためAIが必要になるとのことでした。
・アメリカでは義手・義足の研究も負傷した帰還兵のニーズが高く、保障の観点からも盛んとのことでした。
・UCLAではMedical Centerが近いので、医療応用の研究も盛んとのことでした。NIHでは手術用ロボット等治療に係るテーマは良いですが健康に関してはあまり取り上げてもらえないとのことでした。
・Tsao教授室の前で、Tsao教授との写真を写真11に示します。

11_ucla_tsao           写真11 教授室の前Tsao教授と


④ Rosen教授
・Rosen教授は医療用ロボット(手術用+リハビリ用)や遠隔操作の専門家でUCLAのBionics LabのDirectorです。
・Rosen教授に研究室を案内してもらい、アメリカのホットトピックスのキーワードについて討議しました。
・手術用ロボットでは力制御が重要であり、狭いところでも作業できるように、狭いところにマウントできる触覚センサの開発がMEMSに期待するところとのことでした。
・現状はダビンチが市販されている唯一の手術用ロボットですが、最近2社が新たに製品化をしようとしているとのことでした。UCLAではリサーチラボで使うオープンプラットフォームの手術用ロボットの研究開発をしているとのことでした。
・ダビンチはS/Wは公開されていないので、研究開発用としてH/W,S/Wともオープンソースの手術用ロボットの開発は意味があるとのことでした。
・手術用ロボットのFDA認可には、$100million必要ですが、市場は$30billionと言われており、認可にお金がかかっても十分事業として成り立つとのことでした。
・手術用フォースセンサとしては直径5mmに収める必要があるとのことでした。但し、長さ方向に制限はないとのことでした。鉗子の先端に付けるためには幅2mm、長さ2~4mmに収める必要があるとのことでした。
・鉗子は$1200で10回の使用で交換するとのことでした。これは小型のプーリー等が劣化・破損するためとのことでした。これに適用するためにはセンサのコストは安くないと使われないとのことでした。
・この分野のキーワードとしては、Automated Surgeryが挙げられるとのことでした。現状は遠隔操作ですが、場所、縫合数等を与えるだけで自動的に手術をしてくれることが最終目標とのことでした。機械学習等もこの中に含まれるとのことでした。
・現在はサブタスクレベルでのトライアルがなされているレベルであるとのことでした。
・ハンドは2本指で全作業の95%が実現できるとのことでした。3指あれば100%の作業が実現できるとのことでした。人間が5本指なのは冗長性を担保するためとのことでした。
・人間の5指は長さが違うのに、曲げるとそろうのはスライド機構が備わっているためであるとのことで、スライド機構が備わったハンドを作られていました。
・腱機構は先端部を小さくはできますがプーリー部が壊れやすいとのことでした。
・Rosen教授室の前で、Rosen教授との写真を写真12に、写真13に手術用ロボットの全景写真、写真14に手術用ロボットの手先部拡大写真、写真15に鉗子部、写真16に手術ロボット操作コンソール部、写真17に指マスター部を示します。

1213_ucla_rosen1
  写真12教授室の前でRosen教授と    写真13 手術用ロボット全景写真

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  写真14 ロボット手先部         写真15 鉗子部

1617_ucla_rosen
   写真16 操作コンソール部           写真17 指マスター部

3. NASA JPL
(1)訪問先:Dr. Won Soo Kim
(2)訪問日:2018年2月27日(火)午前
(3)調査結果
・NASA JPLのWon Soo Kim博士を訪問し、von Karman Visitor Center、Space Flight Operations Facility、the Spacecraft Assembly Facility、In-situ Instrument Laboratoryを案内して頂き、火星探査車を中心に説明を受けました。
・火星探査車としては、1997年にマーズ・パスファインダーに搭載され着陸に成功したソジャーナ、2004年にマーズ・エクスプローレーション・ローバに搭載され、着陸に成功したスピリットとオポチュニティ、2012年にマーズ・サイエンス・ラボラトリーに搭載され、着陸に成功したキュリオシティがあるとのことでした。
・マーズ・エクスプローレーション・ローバまではバルーンに入れて火星に落下させましたが、マーズ・サイエンス・ラボラトリーでは重量が重いため、キュリオシティをワイヤーで吊って、地表面に到達後すぐにワイヤーを切って逆噴射でマーズ・サイエンス・ラボラトリーを遠ざける方法に変更したとのことでした。
・火星探査車には種々のセンサが搭載されているとのことでした。キュリオシティにはオポチュニティの10倍の化学探査機器が搭載されており、火星が生命を保持する可能性について調査しているとのことでした。
・ミッションを成功させるため、デバイス、コンポーネント、システムレベルでの耐久性評価を行っているとのことでした。
・写真18にオペレーションルーム入口、写真19に衛星組立て工場の入口、写真20にKim博士の居るIn-Situ Instrument Labの入口、写真21にソジャーナ(右)とオポチュニティ(左)の模型、写真22にキュリオシティの模型、写真23にキュリオシティの模型前でのKim博士と下山教授を示します。

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写真18 オペレーションルーム入口  写真19 衛星組立て工場の入口

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写真20 In-Situ Instrument Lab入口   写真21オポチュニティ(左)とソジャーナ(右)

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   写真22  キュリオシティ模型         写真23 下山教授とKim博士

4. CALTEC
(1)訪問先:Yu-Chong Tai (Executive Officer and Professor, Medical Engineering)
(2)訪問日:2018年2月27日(火)午後
(3)調査結果
・Tai教授はMEMSの大御所の一人ですが、15年くらい前からMEMSそのものの研究から医療用MEMSに研究を集中させ、役に立つMEMS の開発を行っているとのことでした。
・アメリカではNIHが医療用で大きな予算を出しており、有望なテーマとしては癌治療や心臓病にかかわるものがあるとのことでした。
・また、DARPAでは1年単位の契約で有望なものは1年単位の更新が基本ですが、NIHでは1年、2年、3年、4年、5年といった種々の枠組みがあり、成果をだせば延長可能で、Tai教授は5年ものを継続させ20年研究開発しているものもあるとのことでした。
・FDAの認可をとるのは大変でコストもかかりますが、認可されれば逆にFDAが守ってくれるので、逆にメリットになっているし、米国では医療用の市場は$400billionあり、他の分野より大きいし、また数はそれほど出さなくても利益率の高い商売ができるとのことでした。
・電気・電子の世界は、数はでますが、コストも下げられ、利益率も悪いし、60年前にトップ60に入っていた企業で今もトップ60に入っているのは3社だけですが、医療は60社がすべてそのまま生き残っているので、医療は非常に安定した業界であるとのことでした。
・VR、ARはこれから伸びるとの意見でした。また、VR、AR絡みでOptical MEMSはまたブームになる可能性はあるとのことでした。
・ビジョンに関してはプライバシーを侵害するものは受入れられないので、注意する必要があるとのことでした。グーグルグラスも当初一般用に考えていたために、撤退を余儀なくされ、最近医療用等の特定分野に限定することで復活したとのことでした。米国では法律でプライバシー保護がなされるので、プライバシーを侵害するものは注意が必要とのことでした。パーソナルユースにするか公共で使うものに関してはホームランドセキュリティにかかわるものしかダメとのことでした。
・IoTに関しては、民生品の分野で有望との見解でした。
・エネルギ分野に関しては、米国では昔はDOEから活発な国の支援が行われましたが、シェールオイルが出てきてからは、米国ではエネルギ関連の予算はほとんどなくなったとのことでした。但し、日本や台湾のようにエネルギを他国に依存しているところは別かもしれないとのことでした。
・MEMSの産業化は、信頼性、再現性等が満足されなければ、無理だとのことで、産業化を考えるにははじめからこれらを考慮する必要があるとの見解でした。
・クリーンルームの前で、Tai教授との写真を写真24に示します

24_caltec_2        写真24 クリーンルームの前で、Tai教授と

5. Microsoft Research
(1)訪問先:
Research Program Managerの公野氏にアレンジして頂き、下記4名の研究者とディスカッションを行いました。
①Yutaka Suzue, Principal Software Development Engineer
②Sing Bing Kang, Principal Researcher Interactive Visual Media
③Gang Hua, Research Manager Machine Perception and Cognition Group
④Sudipta Sinha, Researcher, Aerial Informatics and Robotics (AIR) Group
(2)訪問日:2018年2月28日(火)午後
(3)調査結果
① Dr. Yutaka Suzue
・Dr. Suzueはペッパー、HSR等のロボットを使って、エンタープライズとしてどんなことができるかのシナリオつくりが仕事とのことでした。
・CES (Consumer Electronics Show)ではスマートスピーカを中心とするホームIoTがホットだったとのことでした。
・会議室で、公野氏、鈴江氏への説明の様子を写真25に示します。

25_msr__2       写真25 会議室で公野氏、鈴江氏への説明の様子

② Dr. Sing Bing Kang
・Dr. Kangの研究テーマはエンハンストビジョンやシネマグラフです。360℃カメラの映像をある人が興味のあるものを中心に再構築して、表示させる技術等を開発していました。
・会議室で、Dr. KangとDr. Huaとの写真を写真26に、Dr. Kang、Dr. Hua、公野氏との写真を写真27に示します。

2627_msr
 写真26 Dr. Kang,Dr. Huaと  写真27 Dr. Kang,Dr. Hua,公野氏と

③ Dr. Gang Hua
・Dr. HuaのグループではVision Analysis, Machine Reading, Machine Learningを研究しているとのことでした。
・Dr. HuaはStyle Transferの研究で、ある絵を別の特徴を持つ絵に変えたり、人の表情を変えたりする研究を行っていました。
・ホットトピックスのキーワードとしては、Co-Robotがあるかもしれないとのことでした。

④ Dr. Sudipta Sinha
・Dr. Sinhaは3Dコンストラクションやステレオマッチング、Mixed Reality、AR、VRの研究を行っていました。
・また、HoloLensの開発を行ったとのことでした。
・キネクトやXBox、Bing検索等がMicrosoft Researchから製品化されたとのことでした。
・会議室で、Dr. Sinhaとの写真を写真28に示します。

28_msr_sinha_2           写真28 会議室でDr. Sinhaと

          (一般財団法人マイクロマシンセンター 武田宗久)

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2016年11月11日 (金)

北米出張報告


 2016年10月30日~11月11日の間、国際交流、および産業・技術動向調査を目的に北米(オーランド、アトランタ、サンフランシスコ、スコッツデール)を訪問したので報告する。

【IEEE Sensors(10月30日~11月2日)】

 今年のIEEE Sensorsは、米国フロリダ州オーランドで10月30日〜11月2日に開催された。本学会には3年ぶりの参加だったが、図1にポスター展示の様子を示すが、以前に比べてますます盛況になっていた。特に驚いたのは日本からの参加者が2倍近く増えていたこと、エネジーハーベスタのセッションが新たに新設されていたことである。IoT社会・トリリオンセンサ社会に向けて、自立型センサネットワークへの関心が高まってきていることのあらわれだろうか?

 一方で、上記IoT社会に向けて企業からの発表が増加していることを期待していたものの、ほとんど大学や研究機関からの発表であり、ビジネス展開については正直なところ期待外れであった。本学会の参加は技術研究組合MEMS技術研究機構として出席したので、発表内容は省略し、以下に大学訪問、およびMEMS & Sensors Executive Congressの参加報告を記載する。


図1 IEEE MEMSのポスターセッションの様子


【研究室訪問】

① フロリダ大学

 IEEE Sensors最終日に東京大学教授の鈴木雄二先生とフロリダ大学に訪問した。MISTセンター(Multi-functional Integrated System Technology)の主にRF-MEMS、および低消費電力MEMSセンサを担当されているProf. Yoon氏、およびProf. Nishida氏にMISTの紹介をいただき、クリーンルームを見学させていただいた。クリーンルームの見学では、専任の方(Dr.)に案内をしていただき(図2)、装置管理や教育体制が行き届いている印象を受け、まるで企業のクリーンルームのように感じた。見学後には、Prof. Yoon氏、鈴木先生と近くのステーキハウスで晩ご飯を食べながら楽しい一時を過ごした。(図3)

図2 MISTのクリーンルーム案内の様子 図3Yoon先生、鈴木先生との会食の                          様子

② ジョージア工科大学

・Prof. Ayazi

 ジョージア工科大学では、BAW(Bulk acoustic wave)を用いたジャイロスコープやMEMS振動発電の研究を行っているProf. Ayazi氏の研究室を訪問した。Ayazi氏とは後述するMEMS & Sensors Executive Congress の会場でもお会いし、振動発電、自立型センサ端末に向けた低消費電力のMEMSセンサ等、自立型スマートセンサに向けて多くの議論ができた(図4)。技術研究組合NMEMS技術研究機構での振動発電の取り組みを紹介したところ、エレクトレットの形成手法であるアルカリ熱酸化+高温電圧印加(BT処理)に強い関心を示された。Prof. Ayazi氏のところでは、X-Yの平面で多軸MEMSアクチュエータによる圧電方式の振動発電を研究されており、発電量は少ないものの静電誘導型でも参考となる構造であると感じた。

・Prof. Tentzeris

 また、環境RFから給電するアンビエント・エナジーハーベスタの研究をされているProf. Tentzeris氏の研究室を訪問した。無線等のRF環境がある領域において、エネルギーを取り込み、LEDを発光させるデモを見せていただいた。この発電方式は、RF環境によるところが大きいが、10μW程度までの発電が可能である。課題としては特に周波数が高い場合、電圧出力がとれないとのことである。電圧出力のとれる太陽電池や振動発電等の別のエナジーハーベスタと融合し、ハイブリッドの発電構造とするのが良いだろうとのことであった。 NMEMS技術研究機構で取り組んでいる静電エレクトレット方式の発電とのコラボレーションの話があったが、NEDOテーマであり、すぐに対応できない状況である。まずは、個別企業への技術紹介までとする。図5に実験室でのメンバと一緒に撮影した写真を示す。


 図4 Prof. Ayazi氏と会議室にて 図5 Prof. Tentzens氏と実験室にて

・見学

 両研究室の訪問の間に、Prof. Ayazi氏の研究室の研究員に約1時間ジョージア工科大学のキャンパス&クリーンルームを案内していただいた。ジョージア工科大学のクリーンルームの一部を図6に示すが、とても広く、また装置も新しい設備が多く、大学保有の研究室とは思えない規模であった。読者のみなさまも機会があれば訪問されることをお勧めする。

  図6 ジョージア工科大のクリーンルーム(一部)

③ BSAC

 スマートダストの生みの親である、カリフォルニア大学バークレー校BSACのProf. Kristofer Pister氏の研究室を訪問した。 Pister氏は短パン姿でフランクに迎えてくれた(図7)。まず、最初に当センターでの活動紹介、現在の開発テーマの紹介を行った。振動発電について、ホワイトボードを前にセンサの消費電力低減、低リークキャパシタ等今後の進展を考慮し、リチウムイオン電池2400mAhであれば、センサ端末の寿命が20年以上もつことを式で示された。振動発電をウェアラブル端末等の市場に使うにはまだまだ時間がかかるだろうが、一方で、センサ等の消費電力の大きいアプリケーション、無線頻度が高いアプリケーション、そして、インフラモニタリング等の長寿命のセンサ端末が必要なアプリケーションには、まだまだ振動発電デバイスの必要性があるだとうということであった。
 また、Pister氏から、今後の取り組みとして、1cm□程度のマイクロロボットのポンチ絵を紹介してくれた。CCDとマイクロフォンを内蔵して動く昆虫形であり、6足の昆虫型やドローン構造のマイクロロボットを紹介していただいた。有害な昆虫の撃退やミツバチの代わり等、様々なアプリケーションが考えられるが、軍事用途を考えると恐ろしさを感じた次第である。

        図7 Prof. Pister氏と研究室にて


【MEMS & Sensors Executive Congress】

 本出張のメインイベントとして、MEMS & Sensors Executive Congressに国際交流およびMEMS産業動向調査の一環として参加した。この会議はMEMS & Sensors Industry Group(MSIG)が主催する会議であり、2016年は11月9日~11日にアリゾナ州スコッツデールで開催された。

 筆者は2年前にも参加したがその時には、日本からはオムロンの関口氏と筆者のみの参加であり、日本のMEMSへの関心の低さを感じていたが、今回はSPPテクノロジーズの神永氏、東北大学の田中秀治先生はじめ10人近くの出席者があった。これは、IoT社会に向けた関心の向上と、昨年度からトリリオンセンササミットをMSIGが巻き込んだことによるものではないかと考える。

 会議自体は、11月10日・11日と2日間の開催であり、講演会はMEMSやセンサ、センサ応用に関する講演が続いた。講演者はMEMS企業のトップが登壇することもあり、技術的な講演から、事業的な内容まで多岐にわたる。今回、約200名の人が参加していたが、企業トップや、投資家、研究機関などが主要な参加者であった。この会議の一番の特徴は、休憩時間や昼食では、懇親の時間がたっぷりととられており、このような場でコミュニケーションを通じて、人的ネットワークの構築を高めて、ビジネスや研究に活かしていくきっかけをつくることであることであろう。図8、9に休憩時間の様子やBanquetの様子を示す。 この会議の期間中に、InvenSense社が日本の企業に買収されるかもしれないという噂が聞こえてきたが、企業間の動きはこのような場が一つのきっかけなのかもしれないと感じた次第である。

 今年の会議の内容について、IoT(Internet of Things)への期待はこれまで同様であるが、さらに、今回は自動車関連の話題が多かった。車載用途での高性能ジャイロスコープについて、先に報告したジョージア工科大学のProf. Ayazi氏(ジョージア工科大発ベンチャーの米Qualtré社)から、バイアス不安定性の原因を取り除く独自の技術を報告されていた。また、IHSからもクリーンカー、コネクテッドカ―等の自動車動向、MEMS&センサーの動向、市場予測の報告があった。

 

図8 休憩時間の様子      図9 Banquetの様子


【所 感】

 今回、大学訪問やMEMS & Sensors Executive Congressに参加して多くの方々と会話をした。 一方で、会話する相手の方々も何らかの価値を期待しており、特に、日本の企業・大学とのコラボレーションの機会を探っていることが多かった。 事前に訪問先を国内企業に紹介して、関心のあるメンバと同行して参加する等の活動も今後必要ではないかと思う。なお、詳細は2017年1月30日に当センターで開催する海外出張報告会にて報告する予定である。


 

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2016年8月 5日 (金)

平成27年度産業動向調査報告書をホームページに掲載

 平成27年度に調査を進めてきた「スマートセンシング&ネットワークの産業動向調査」の結果をまとめ、ホームページに掲載しました。賛助会員は賛助会員ページより全文をダウンロードできます。賛助会員以外の方は目次を閲覧できます。
 
 マイクロマシン/MEMS 技術は、センサ・アクチュエータなどトランスデューサデバイスの基盤技術と認識されており、例えばスマホなどの情報通信機器ではマイクロホンや高周波信号のフィルターとして、自動車産業ではGPS(Global Positioning System )を構成する加速度センサ等として、またFA(Factory Automation)産業におけるロボットの触覚センサ等々、民生品や社会生活に密着した産業分野で大きな市場を形成しつつあります。更にIoT(Internet of Things)やCPS(Cyber Physical System)の構成デバイスとしても、MEMSは中核を成す戦略技術の一つとして認知されつつあり、MEMSの応用範囲の拡がりとMEMS産業発展の加速が社会から熱望されています。
 
 マイクロマシンセンターではこのような状況認識に立って、MEMS関連産業の更なる発展を図るために必要な同産業の現状及び将来展望を把握することを目的に、平成19年度より調査研究事業委員会の下に産業動向調査委員会を設けました。
 
 これまでは、MEMS技術による高付加価値デバイス、応用される産業分野、アプリケーション機器がどのように展開していくかを把握し、MEMS産業の市場拡大に向けての道筋を明らかにするとともに、急速に発展しつつあるMEMS産業の動向を調査・分析し、MEMS産業戦略策定のために必要な基礎データをまとめてきました。しかしながら、マイクロマシン/MEMS技術の応用はここ数年の拡がりから推測すると拡大の一途であり、MEMS市場やMEMSに関わる産業の構造など、その全体像(産業像)はなかなか見えていませんでした。

 以上の背景に鑑み、平成27年度報告書は、MEMS産業の動向をまとめた後、特にMEMS産業の躍進にとって重要でありかつ日本再興戦略で重要な役割を担うIoT/CPS技術に着目し、先ずは最近における日本のIoT/CPSの施策と産業動向を俯瞰しました。引き続き、その動向を背景としてマイクロマシンセンターが立ち上げたスマートセンシング&ネットワーク(SSN)研究会を説明し、次に産業動向調査委員の各位がSSNに関連した社内商品例を多数詳述し、最後にSSNのプラットフォームとなるIoT端末の内容をハンドブック的に纏めました。この報告書が各方面において広くご利用頂ければ幸いです。
                         (産業交流部 松本)

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2014年12月17日 (水)

2014年度 ナノマイクロ領域での欧州産業技術調査(その2:セミコンヨーロッパ2014および国際MEMS/MST産業化フォーラム)

 2014年10月6日から9日まで、フランス・グルノーブルで開催されたセミコンユーロに参加しました。昨年まで過去数年間はドイツのドレスデンで開催されていましたが、今年からグルノーブルとドレスデンで隔年、持ち回りで開催されるとアナウンスがありました。グルノーブルはフランスアルプスの最南端にあたる山々に囲まれた天空のお城と路面電車でおなじみの古都です。ナノマイクロの関係者のとっては欧州を代表する研究所であるCEA-LETIの本拠地でもあって、多くの方は馴染みが深いと思います。この有名な都市の割には交通が結構不便で、グルノーブルに空港はあるものの、通常は北西にあるリヨンから電車、或いは高速バスで移動します。写真にもありますように意外にもリヨンへの旅客機は比較的小型のジェット機でした。単にローマからリヨンまでの便が小型機だったのかと思いましたがリヨン空港に並んでいる航空機は皆小型機で、なんだか親しみを持てる印象です。リヨン空港からグルノーブルまでは高速バスが一般的なようで1時間に1本以上の割合で出ています。グルノーブルに近くなると固有のメサ型の山が見えてきます。メサは半導体やMEMSでは馴染みのある構造なので、これもまた親近感を感じます。セミコンユーロの会場は、イゼール河のほとりのグルノーブルの古都、ダウンタウンから南に5km程度離れたALPEXPOと言う展示会場で開催されました。ALPと言う名前を冠しているのでどんなに美しい山々を望めるかと期待していたのですが、写真にあるようにちょっと期待外れでした。会期中は天気が悪かったので晴天時にはもっと遠方の美しいアルプスが見えたのかも知れません。

 昨年も同じイベントに参加しましたが、併設されている「国際MEMS/MST産業化フォーラム」は、世界有数の企業や専門企業、および産業技術を主体とする研究所から最先端のデバイス、MEMSを支える最先端の装置や材料技術、世界中のMEMS産業動向調査等が発表され、2日間で全容を理解できるフォーラムであって、私の知る限り(全世界を見渡しても)最も充実しているものと思います。

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写真1. 開催地のグルノーブル近隣のリヨン空港、小型旅客機

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写真2. グルノーブルに近いことを知らせるメサ形状の山々

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写真3. セミコンユーロの開催会場 ALPEXPO

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写真4. 会場から見えるフランスアルプス

 最初に「国際MEMS/MST産業化フォーラム」を報告します。このフォーラムはセミコンユーロ前日の6日と7日の2日間で開催され、20件の講演がありました。

 キーノート講演が最初に2件ありました。まずSEMIのHeinz Kundert氏から, MEMS産業の全体概要の講演です。引き続き高い伸び率でMEMS産業が推移していることを強調されていました。2件目は、直近のMEMSの売り上げがSTマイクロを抜いてBoschなったことを反映してと思いますが、Bosch SensortecのJeanne Forget氏からThe future of MEMS sensors in our Connected Worldと言う演題でした。自動車用MEMSからスタートしたBoschらしく、MEMSの産業推移を第一波が自動車、第二波はコンシューマシステム、そして第三の波はIOTとのことです。またIOTの前にウェアラブル機器が一般的になって沢山のMEMSが利用されると言う展開です。Boschのお得意の集積化モーションセンサーの展開が講演のかなりを占めていましたが、最後に環境センサとして湿度センサーの紹介がありました。1.8V-15μAの低パワーで、1秒の高速応答、しかも3%の精度を確保できると言う優れた性能です。技術的なことには殆ど触れていませんが、写真を見る限りポリマーを用いた静電検出と思われます。お得意の周辺回路を別のチップに作ってハイブリッド構成にしています。集積化センサー技術を知り尽くした専門企業が本気で作った自信作と言えます。

 6件目は、Fingerprint Cards 社のJan Johannesson氏です。これは最新のiPhoneに搭載されている指紋センサーの紹介でした。Fingerprint Cards 社は1997年にスウェーデンの生体認証に特化して創立された企業で、15年以上のタッチセンサーの技術を磨いています。指紋検出は、光学式や超音波式がこれまで多用されてきましたが高価であるとの課題がありましたが、静電容量方式にすることで大幅なコストダウンと大量生産を可能にしたとのことです。

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写真5. MEMS産業化フォーラムの会場

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写真6. チェアのBosh Senontec のLammel氏

 9番目の講演は東北大学の田中先生から、高速通信バスと触覚センサーの集積化の発表です。センサー部はMEMS技術による圧力センサで、個々のセンサーモジュールは薄膜CMOS基板の上にMEMSセンサーを積層した実装となっています。個々のセンサーモジュールに通信プロトコルを含む信号処理回路が含まれ、45MHzのクロックを用いて高速の通信を行うと同時に256個のセンサー信号を高速に検出・送信できる能力があります。

 10番目の講演はNasiri VenturesのSteve Nasiri氏によるMEMSベンチャーに関する講演です。Steve Nasiri氏はInvenSenseの創立者であり、ご自身で6個のベンチャーを立ち上げた強者です。今回の講演は「InvenSenseをどうやって成長させたか」でした。2003年に設立して約10年でSTマイクロやBoschと常に競合しながら売上を増やしています。成長は年率約50%です。InvenSenseは技術的には、CMOSウェハーにMEMSセンサーウェハを直接接合する他社よりも、明らかにチップサイズを小型化可能な技術で競争に打ち勝ってきたとのことです。

 12番目の講演はAlissa Fitzgerald氏で、ご自身の名前を持つAMFitzgerald社ですが、一般財団法人マイクロマシンセンターにも一度訪問されて、米国の大学の施設を用いて安価な研究開発受託サービスをされていました。今回はRocketMEMSと言う概念で、今まで18ヶ月かかっていたMEMS開発を4-5 ヶ月に飛躍的に開発期間を短縮する仕組みの紹介です。その仕組みは、センサーの仕様や性能を物理モデル化して、設計時に性能を精密に予測できるようにしたこと、標準化可能なプラットフォームやプロセスをレディメードにしたことです。最先端の設計理論や仕組むを駆使する所が米国の研究者発ベンチャーらしい取り組みです。

 17番目はオーストリア大:Alexander Nemecek氏による、マイクロホットプレートを用いた集積化ガスセンサーです。CMOS基板上に周辺回路とガスセンサー用のマイクロホットプレートを集積化するもので、大学の研究としては完成度の高いものです。このようなスマートガスセンサーは大手のセンサーデバイス企業が製品化を考えていて、質問が大変活発でした。

 最後にMEMSマーケット予測では、MEMS分野の二大調査会社であるiSuppliとYole Developmentから発表がありました。この「国際MEMS/MST産業化フォーラム」の特徴は、産業化のセミナーとして産業動向・産業技術の最新情報に加えて参加者が特に興味を持ちそうなテーマを挙げ、世界中から発表者を贅沢に集めていること、大学からの講演は少なく、殆どは企業や、産業技術に特化した研究所からの発表である点です。

S7 写真7.セミコンユーロの展示会場

 次に「セミコンユーロ」展示会です。規模としては昨年と同規模ですが、半導体関連製造装置メーカからIMECやフラウンホーファー研究所、LETIのような半導体を含めた国際連携を強力に押し進めている研究機関の広い展示面積があること、更にMEMSを中心に欧州の産業の活況、また印刷電子機器と言った新規な取り組み等の話題性は昨年と同様、多いと感じました。出展者としては、半導体やMEMS、電子デバイスの製造装置メーカ、半導体センサーやMEMS、パワー半導体、三次元実装関連の研究所や企業とバランスの良い展示がされていたと感じています。 日本の展示会と異なるのは、非常に多いベンチャー、専門企業の活力が高いこと、地域性を前面に出して地域単位で展示していることです。 引き続き欧州でのマイクロナノ分野は有望であると感じました。

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写真8. 過去の展示コーナ並べられた懐かしいタイピュータ、テープ読み取り機

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写真9. 日本製の観察顕微鏡

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写真10. イノベーションビレッジと言うベンチャーコーナ

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写真11. WiFiやZigBeeの発明者Cees Links氏

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写真12. トヨタのパーソナルモビィティ

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写真13. このパーソナルモビィティの後部座席に乗せて貰いました。

 今回の展示で新しいと感じたことは、3つあります。最初はイノベーションビレッジと言うベンチャーコーナです。このコーナには30近いベンチャーが展示をしていました。またこのベンチャーが5分程度の告知を行うエレベータピッチセミナーも同時開催されて最新のスタートアップの状況を見ることが出来ました。私の専門であるMEMSカンチレバーを用いた化学センサーのベンチャー企業もそこで巡り合い、LETIを訪問した時に企業訪問を行う約束を取り付けました。何故か?アイデアだけで出展・発表しているベンチャーもありましたが、欧州らしいと思いました。第二は過去の半導体製造装置やコンピュータの展示コーナです。ここでは4インチの研究開発・生産の世代の蒸着装置やウェハーが展示され懐かしさ一杯です。私が学生時代に使ったコンピュータ読み取り紙テープを作成するタイピュータは本当に懐かしいものでした。第三はトヨタのパーソナルモビリテイ(TOYOTA i-ROAD)の実演展示でした。会場の一部をグルグル旋回するこの小型車は、一人乗りですが、転ばない電動バイクと言った感じです。載せて欲しいと懇願しましたが、流石にそれは駄目で、後部の荷物置き場に乗せて貰って、その感覚を楽しむことが出来ました。バイクと同じで狭いですが後部に乗ることはOKのようです。

 最後のトピックスは、セミナーでWiFiやZigBeeの発明者であるCees Links氏に逢うことが出来たことです。今ではその恩恵を受けることがない人はいない、ぐらいWiFiは有名ですが、ルーセントテクノロジーに在籍していた当時は、開発しても殆ど用途はなく、Apple社がコンピュータに搭載して爆発的に広がったようです。ZigBeeはWiFiの信頼性を引き継ぎながらセンサーネットワーク用に超低消費電力を達成した無線システムです。このZigBeeは秋葉原の電子工作屋で購入できる数少ない高度な無線モジュールですが、私も最近使い始めてその性能や信頼性に感動しているこの頃です。このZigBeeの大ファンであることを告げて写真を撮らせて貰いましたが、一緒の写真を撮れなかったことを今も後悔しています。

 このナノマイクロ領域での欧州産業技術調査(セミコンヨーロッパ2014および国際MEMS/MST産業化フォーラム)と欧州の研究所の訪問、ブラジルで開催されたマイクロマシンサミット、幾つかの都市で開催されたトリリオンサミット、米国MIGコンファレンス、国際標準活動等の海外産業技術調査の報告会は、2014年度も来年の年明けすぐ、1月13日(金)に一般財団法人マイクロマシンセンター7F、テクロサロンにて開催予定です。交流会もありますので沢山の方々のご参加を期待しています。(MEMS協議会 三原孝士)

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2014年12月16日 (火)

米国のMEMS産業動向調査の報告

 米国MEMS Industry Group主催で、2014年11月6日・7日、米国アリゾナ州スコッツデールにて開催されたMEMS Executive Congressに国際交流およびMEMS産業動向調査の一環として参加しました。
 この会議は毎年この時期に開催されているもので、講演やパネルディスカッション、休憩時間等の空き時間でのインフォーマルな会話を通して、情報交換、人的なネットワークを形成するとともに、MEMS関連産業のビジネスチャンスを見つける場となっています。MEMSを中心とした研究開発そのものに関するものではなく、事業化をどう促進するかを議論していく会議であることが特徴となっています。
 昨年のカリフォルニア州ナパでの開催に続き、今回はアリゾナのリゾート地のスコッツデールを会場として企業間を中心とした交流の場として盛り上がりました。
 参加者は欧米を中心に、300名近くの方が参加されていました。日本からはオムロン株式会社マイクロデバイス事業本部長の関口氏とマイクロマシンセンターから私の2名のみの参加ということで、海外MEMS産業の元気さとは裏腹に日本のMEMS産業の寂しさを感じた次第です。
 会場に前日夕刻に到着すると早速交流会が始まっていました。講演会場の様子からも日本人が少ないことが伺えるかと思います。参加者はMEMS企業、装置企業以外にもアップルはじめMEMSを活用する企業、各国の研究機関、そして調査会社、ジャーナル紙などのMEMSを取りまく様々な関係者が参加されていました。講演は成長続けるMEMS産業の次の展開について、ウェアラブルセンサ、スマートホーム、スマートカー、スマートシティーなどいたるところにセンサが付けられてくるトリリオンセンサ社会、IoT社会に関する議論が多く、ますますビジネスのコラボレーションが重要になってくるといった話題が多くありました。

 6日の晩にはホテル内でバーベキューパーティが開催され、2次会も併せて企業間を中心に大変盛り上がっていました。日本企業は置いてきぼりになっているのではという心配が頭をよぎった次第です。

 この後、コロラド州のボルダーに移動しました。日曜は終日予定が入っていませんでしたので訪問先の場所確認を含めてホテルの自転車を借りてボルダーの周辺を散策しました。日本より寒いと聞いていたにも関わらず15℃以上の快適な気候で天気もよく、コロラド大学やロッキー山脈につながる山々がきれいに見えました。

 月曜になると気候は一転して氷点下の雪の中NISTに訪問しました。NISTへの訪問はチップスケール原子時計(CSAC)のセンサネットワークへの適用可能性などの意見・情報交換を行うことを目的としてCSACの生みの親であるキッチン博士と面談しました。実験室にも案内いただき親切丁寧に3時間以上もお付き合いを頂き多くの情報を得ることができました。

 また、火曜には移動前にコロラド大学に訪問し、次のモバイル機器への搭載が期待されているマイクロボロメータ、および液体レンズを用いたオートフォーカスについて技術紹介をいただきました。私からは、MMCの取り組み、とりわけグリーンセンサネットワークプロジェクトと社会インフラモニタリングの現行プロジェクトを紹介しました。ビクター教授をはじめ皆さん実験室にも紹介いただき、外は寒い中でしたがとても楽しく意見交換をさせていただきました。

 この後、トリリオンセンササミット(T-Sensors Summit)に参加するためにカリフォルニア州のラ・ホーヤに移動しました。こちらは上述のMEMS Executive Congressとは異なり約200名の参加者のうち日本からは20名近く参加されていました。また、会議の雰囲気も意見交換というより講演が中心となる会議であり学会に近いプログラムでした。一方で、内容については今後センサがさらに飛躍的に増えるトリリオンセンサ社会に向けて、ヘルスケア、自動車、農業・畜産といった使う側からの話もあれば、センサに関する新しい革新技術もあり、ビジネスに近いところ、そうでないところ交えて盛りだくさんな内容でした。また、初日の晩には交流会が開催されMEMS Executive Congressと同様に意見交換が盛んでした。私は12月に開催されたT-Sensors Summitでも聴講する機会がありました。米国での内容と同様のプログラム構成ではあるものの、日本での開催とあってエレクトレットの振動発電ロードマップや道路インフラモニタリングの取り組み等の特徴ある講演を多く聞くことができました。

 今回、MEMS Executive Congress、およびT-Sensors Summitに参加して感じたことですが、どちらも、トリリオンセンサ社会、IoT社会等の産業成長に関する情報収集に適した場であると思います。特にMEMS Executive Congressはビジネスに力点をおいており、センサネットワークの急速な発展に向けて、日本でのMEMS産業の課題、今後のグローバル連携等について考える良い機会と思います。関係各位も参加されることをお勧めします。

 <産業交流部 今本>

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