調査研究

2018年11月15日 (木)

米国研究開発動向調査

 2018年11月6日(火)~11月14日(水)に米国の研究機関及びベンチャー企業を訪問して、米国におけるMEMS、IoTセンサ及びピコセンサ技術に関する最新の研究開発動向調査を行いましたので、以下にご報告致します。今回調査したのは以下の7機関です。
 1. eXo Imaging
 2. Stanford Uiversity, Roger Howe研究室
                 3. Stanford Nanofabrication Facility (SNF) &
                  Stanford Nano Shared Facilities (SNSF)
                 4. MIT, Biomimetics Robotics Lab
 5. ORIG3N
                 6. Stanford University, Khuri-Yakub研究室
                 7. Graftworx 
以下に各訪問先での調査結果を示します。

1. eXo Imaging
(1)面談者:Janusz Bryzex, Chairman & Chief Visionary Officer
      Sandeep Akkaraju, CEO & President
(2)訪問日:2018年11月6日(火)
(3)調査結果
                ・eXo ImagingはTrillion Sensors Initiativeを提唱した主宰者のJanusz BryzekがTrillion Sensorsの動きから出た初めての新ビジネスとして2016年に設立したベンチャー会社です。超音波(PMUT)による画像診断(エコー)を、ポータブル機器として開発しています。

                ・ピエゾMEMSを使って、既存の医療用の超音波診断装置を現状の超音波プローブの大きさに収めた製品を来年の9月にFDA認許をとって販売しようとしていました。

                ・超音波診断子はFDAの認可が必要ですが、非侵襲機器であるため、FDA取得はそれほど大変ではないとのことでした。

                ・通常MEMSではアイデアから製品まで27年かかっていますが、それを3年で実現できると言っていました。

                ・超音波診断子ではインピーダンスマッチングが必要で、ピコセンシングで考えているインピーダンスマッチング層には大きなニーズがあることが分かりました。

                ・今後はピエゾ MEMSが大きな広がりを持つとの考えで、多くのアプリ例を出して説明してくれました。今製品化を進めている超音波診断子はその第一歩との考えでした。

                ・トリリオンセンサのフェーズ1は2016年に終了しましたが、Januszは現在トリリオンセンサのフェーズ2(安く大量に製造するためにプリンテッドエレクトロニクスの革新が中心技術になるとの考え)をSEMIと画策しているとのことでした。

・写真1にeXo Imagingの入り口でのJanuszとの写真を示します。

                  

写真1  JanuszとeXo Imagingの入り口で
                  
               

2. Stanford Uiversity, Roger Howe研究室
(1)面談者:Charmaine Chai, PhD student
(2)訪問日:2018年11月7日(月)午前
(3)調査結果
                  ・MEMSの大御所のひとりのRoger Howe教授の研究室を訪問しました。生憎Howe教授は出張中で不在でしたが、PhDの学生であるCharmaineに実験室を案内してもらいました。

                  ・Howe教授はMEMSからバイオセンサの方に研究テーマをシフトしているとのことでした。

                  ・タンパク質の分析を行うバイオセンサの開発をしているとのことでしたが、分子識別能を使うのではなく、トンネル電流をローノイズで検出する方式のバイオセンサを開発しているとのことでした。

                  ・また、開発したバイオセンサのベンチャーも立ち上げているとのことでした。

                  ・実験室を案内してくれましたCharmaineはアプリケーションよりはnAレベルの微小信号を検出するためのトンネル電流検出プローブやローノイズ回路等の要素技術を開発しているとのことでした。

                  ・微小信号を検出するということで、ピコセンシングと通じるものがありました。現状はノイズ等により検出できる電流はnAレベルで、pAまでは検出は困難とのことでした。但し、現在考えているバイオセンサではnAで十分とのことでした。

・写真2にSanford大Howe研究室でのCharmaineとの写真を示します。

                  

写真2  CharmaineとHowe研究室の実験室で
                  
               

3. Stanford Nanofabrication Facility (SNF) & Stanford Nano Shared Facilities (SNSF)
(1)面談者:Dr. Mary X. Tang, Managing Director, SNF

             Dr. Shivakumar Bhaskaran, Coordinator, SNSF
                 Clifford F Knollenberg, Cleanroom Science & Engineering Associate, SNSF

(2)訪問日:2018年11月7日(水)午後
(3)調査結果
                  ・MEMSプロセス施設のSNF及びSNSFをManaging Director のMaryとCoordinatorのShivakumarとに案内して頂きました。

【SNF】
                  ・SNFは10,000 sq ftのクリーンルームを有する施設で、建設当初はStanford大学でCMOSを製作するめに建設されましたが、最近は半導体からMEMSを中心とする種々デバイス製作の施設に移行しており、全米に16あるNanofabrication Facilityの一つと位置付けされているとのことでした。

                  ・基本的には4インチのラインで、一部6インチウエハの処理が可能な装置があるとのことでした。年末年始のメンテナンス期間(20日程度週)を除くと1日24時間、週7日フル稼働しているとのことでした。日中は企業等の外部からの使用が多く、学生はむしろ深夜に使用しており、深夜の装置稼働率の方が高いとのことでした。

                  ・メインのCRはクラス100で写真3にレイアウトを示すように、一通りの装置が揃っていました。また、メインが大学の研究用なのでいろんな材料を使ったデバイスを製作できるように、写真4に示しますように、ExFabと呼ばれるグレイな領域も設けているとのことでした。

                  ・外部使用は20~25%で、後は学内の使用とのことでした。

・スタッフはSNSFと合わせて35名程度で、SNFは18.6人とのことでした。学生への装置トレーニングが主な仕事で、実際の装置操作は学生が実施するのが多いとのことでした。
・また、学生が使用するので、写真5に示しますように、主要な場所は一括でモニタできるようにして、監視しているとのことでした。
・写真6にMaryとSNFのファブの前での写真を示します。

                  
 
                  写真3 SNFメインCRのレイアウト
                  
                  
                  写真4 ExFabのレイアウト
                  
                  
                  写真5 CR監視モニタ
                  
                  
写真6 MaryとSNFの前で
                   

 【SNSF】
・SNSFはStanford大学のナノテク関連の高性能なプロセス装置及び評価装置を共同で利用するために作られたサービスセンターで、以下の4つのグループから構成されています。
① Nanofabrication
② Electron & Ion Microscopy
③ X-ray & Surface Analysis
④ Soft & Hybrid Materials
                  ・SNSFでは学内外合わせて年間約850件のサービスを実施しており、そのうち約750件がStanford大学内の25の学科からの使用とのことでした。

                  ・装置は3つのビルに分かれて設置されています。そのうちメインのSpilkerビルの装置レイアウトを写真7に示します。主要な装置を見学させて頂きましたが、さすがスタンフォードで、高価なプロセス装置や分析装置がたくさんありました。

・NaofabricationのマネジャーのClifford F Knollenbergとの写真を写真8に示します。

                  
                  

写真7 SNSF- Spilkerビルの装置レイアウト
                  
                  
写真8 CliffordとSNSF-CRの前で
                  

4. MIT, Biomimetics Robotics Lab
(1)面談者:Dr. Quan Nguyen, Post-Doctoral Fellow
(2)訪問日:2018年11月9日(金)午前
(3)調査結果
                  ・MIT の4足歩行ロボット「Cheetah(チーター)III」を開発しているBiomimetics Robotics Labを見学し、ポスドクのQuanから説明を受けました。

                  ・CheetahIIIは視覚を使わず、接触検出アルゴリズムによりTV等でも話題のボストンダイナミクスのSpotMiniより外力に強くなっているとのことでした。

                  ・但し、触覚センサは搭載しておらず(足に市販の触覚センサをつけたが、ジャンプ等の衝撃に耐えうるものはなかったそうです。)、各モータにつけたエンコーダと慣性ユニットで足の接地場所を計算しているとのことでした。

・各足に3軸のモータとエンコーダを搭載し、胴体部分に慣性ユニットを搭載していました。
                  ・今年10月に開催されましたThe 2018 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent                   Robots and Systems (IROS 2018)でお披露目となり、不整地や階段歩行、その場回転、ジャンプや棒でつついても倒れないデモ等をこなし、話題となっている4足歩行ロボットです。(http://news.mit.edu/2018/blind-cheetah-robot-climb-stairs-
                  obstacles-disaster-zones-0705
)

                  ・写真9にCheeterIIIの外観を写真10に説明してくれているQuanの写真を示します。

                  

写真9 MITの4足ロボットCheeterIII
                  
                  
写真10 説明しているQuan
                  
               

5. ORIG3N
(1)面談者:Kate Blanchard, Founder & COO
(2)訪問日:2018年11月9日(金)午後
(3)調査結果
                  ・ORIG3Nは2014年に設立された遺伝子検査を行うベンチャーで、COOのKate Blanchardに会社概要を紹介頂いた後、会社見学(写真11、写真12:事務所の外観、写真11奥にPCR解析装置が写真12に幹細胞貯蔵用の冷凍タンクが置かれています)をさせて頂きました。

                  ・PCRによる遺伝子解析装置を使った人間のDNA検査(FDAの認可は不要)をサービスとしており、フィットネスDNA検査キット等20種類($24~$149)のDNA検査キットを現在ドラッグストア等で販売する一方で、幹細胞やiPS細胞を培養して、医療応用を目指した研究の2本柱で会社運営をしようとしていました。

                  ・DNA検査キットの方はドラッグストア等で販売するビジネスモデルである程度の成長はするとは感じましたが、現状は人をターゲットにした検査だけを考えているようで、リピータの確保が難しく、検査時間も2,3週間かかるとのことでしたので、成長には限界があるように感じました。

                  ・製品としては、パッケージの中に口内の皮膚細胞を採取する検査綿棒が入っており、それでDNAを採取して、内蔵されているビニール袋と封筒に入れて送付するだけで、結果は専用のアプリをダウンロードすることでスマホから見れるというものでした。

                  ・技術的には同じなので、食品やセキュリティ分野でMEMS技術を使ったリピータの確保が可能なポータブル検査の方向も考えた方が良いように思いました。

・幹細胞やiPS細胞の医療応用ビジネスに関しては、まだまだ製品には遠そうな印象を受けました。
                  ・DNA検査キットに関しては、現在は米国での販売ですが、1,2年後にはアジアを含めた海外展開を考えているとのことでした。

                  ・試しに、フィットネスDNAテスト($149のもので6種類の検査を行う)をして頂いたので、結果楽しみですが、フィットネスDNAテストで$149は少し高いようにも感じました。

                  ・TVを見ているとORIG3N以外の会社から自分のルーツを探るDNA検査キットのコマーシャルが流れていましたので、米国では遺伝子検査ビジネスはかなりポピュラーになっているように見受けられました。

・写真13にORIG3Nの玄関の製品陳列棚の前でのCOOのKateとの写真を示します。

                  

                  写真11 ORIG3Nの事務所外観(1)
                  
                  
                  写真12 ORIG3Nの事務所外観(2)
                  
                  
写真13 ORIG3N玄関の製品陳列棚の前でのCOOのKateと
                    
                  

6. Stanford University, Khuri-Yakub研究室
(1)面談者:Dr. Butrus (Pierre) T. Khuri-Yakub, Professor
       Dr. Kamyar Firouzi, Research Associate
        Dr. Quintin Stedman, Research Associate
              Dr. Minoo Kabir, Post-Doctoral Fellow
              Dr. Bo Ma, Post-Doctoral Fellow
              Farah Memon, PhD Candidate
(2)訪問日:2018年11月12日(月)午前
(3)調査結果
                  ・Khuri-Yakub先生はゼロックスでインクジェットプリンタの開発をされておられた方です。ゼロックスはプリンタの事業からは撤退し、その技術は製薬開発に使う液滴滴下装置に転用されLabcyte(                   https://www.labcyte.com/ )という会社に引き継がれているとのことでした。

                  ・また超音波のCMUT(Capacitive micromachined ultrasonic transducers)の考案者で基本特許を持っておられた方です。1.のeXo ImagingではピエゾMEMSが今後広がるとJanuszさんが言っていましたが、超音波診断子としてはCMUTの方が広帯域、高感度で優れているというのがKhuri-Yakub先生の主張でした。

                  ・また、超音波プローブだけでスマホに接続できるCMUTの製品はButterfly (https://www.butterflynetwork.com/)という会社から1年前に製品化されているとのことでした。ここでもeXo Imagingは出遅れているように感じました。

・また、0.75agの重量を検知できるCMUTを使った化学量センサ(ガスセンサ)の開発をされており、まさにピコ(10-12)どころかアト(10-18)グラムの検出が可能とのことでした。但し、ガス吸着の高分子膜の開発が必要になりますが、それは専門外とのことでした。実際の化学量センサ(写真14)をDr. Quintin Stedmanに説明頂きました。
・そのほかカプセル超音波センサ(カプセル内視鏡のように飲んで超音波診断を行うもの)や脳の活動量モニタリング等の研究をされておられました。
                  ・写真15に教授室でのKhuri-Yakub教授と写真を示します。

                                      

                  写真14 agの検出可能な化学量センサ
                  
                  
写真15 Khuri-Yakub教授と教授室で
                   

7. Graftworx
(1)面談者:David J. Kuraguntla, CEO
      Anthony F. Flannery Jr. Vice President
(2)訪問日:2018年11月12日(月)午後
(3)調査結果
                  ・CEOのDavid J. KuraguntlaとVPのAnthony F. Flannery Jr.に対応頂きました。Davidから会社概要、Anthonyから来年にFDAを取得して発売予定の透析患用のモニタリングシステムの技術的な説明をパワーポイント及び試作品を使って受けました。

                  ・モニタリングシステムは①スマートパッチ(写真16)、②携帯対応データハブ(写真17)、③データ蓄積クラウドと④診断用フロントエンドから構成されていました。

                  ・スマートパッチはマイクロフォン、3軸加速度センサ、高精度温度計と光学の脈波センサ(PPG)を12mm角の基板に実装し、特注のバッテリを搭載したパワーマネージメントユニットとマイコン、メモリー、通信(BLE4.2)ユニットを耐久性のあるフレキシブル基板で接続し、シャワーでも使えるIP64相当を有するコーティングで実装したものでした。

                  ・脈波センサの詳細は分からなかったですが、ピコセンシングで考えている脈波センサのアプリの例として参考になると思いました。

                  ・また、システムとして製品化するためには、MEMSそのものよりは、耐久性、データのセキュリティ、診断技術等周辺の技術が大事とAnthonyは言っておりました。

                  ・本システムではハブにセキュリティ機能を持たせ、スマートパッチからスマートフォンにデータを直接やり取りすることはやめ、ハブを介することでセキュリティを高めたと言っておりました。

                  ・AthonyはInvenSenseの創始者でしたが最近はMEMSそのものよりは医療用デバイスとして役にたつものを開発したいと言っておりました。その他有意義なディスカッションができました。

・写真18に会議室でのDavidとAnthonyとの写真を示します。

                                      

写真16 スマートパッチ
                  
                  
写真17 携帯対応データハブ
                  
                  
写真18 会議室でDavid(左)とAnthony(右)と
                  

以上

                  
(一財)マイクロマシンセター 武田宗久
                  
               

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2018年6月28日 (木)

国際会議APCOT2018出席(平成30年6月25~27日)

 2018年6月25日~27日の3日間にわたり香港・香港科技大学で開催された、隔年開催のTransducer技術とマイクロナノ技術に関する国際会議である、Asia-Pacific Conference of Transducers and Micro-Nano Technology(APCOT2018)に、IoT(Internet of Things)センサ・デバイスの標準化のための技術調査の目的で参加しました。


開催会場である香港・香港科技大学のエントランスの写真


APCOT2018の開催会場横断幕の写真

・Theory, Design, Analysis, and Simulation
・Material, Fabrication, and Packaging
・Physical Sensors, Micro/Nano Fluidics
・Biological, Medical, Chemical Sensors
・Actuators, Force Sensors, Power MEMS
・RF MEMS/NEMS, Internet of Things(IoTs)
・Optical MEMS and Nano-Photonics
といったセッションにおける口頭発表ならびにポスター発表から構成され、各国から本技術分野に関する最先端の研究発表が繰り広げられ、非常に活況を呈していたことが印象に残りました。

 6月26日の夜には、Crown Plaza Hong Kong Kowloon Eastホテルで開催された学会主催のバンケットに参加することができ、こちらも大盛況でありました。


Crown Plaza Hong Kong Kowloon Eastホテルでの学会主催バンケットの写真

 マイクロマシンセンターでは、「国内外技術動向調査」という取り組みとして、技術進歩が著しい国内外のマイクロマシン/MEMS分野等の研究動向、技術動向を的確に把握するため、MEMS分野の著名な国際会議等をターゲットにした定点観測的な調査を例年行っております。   APCOT2018もこの調査の対象学会であり、本分野の有識者から構成される国内外技術動向調査委員会の委員の方々により、学会の発表内容の調査が行われ、報告書に纏めております。従って、今回のAPCOT2018で発表された技術の詳細・分析結果については、この「国内外技術動向調査」の報告書で改めて報告するため、本ブログ執筆者の今回の学会参加目的でありました、IoT関連技術に関する技術動向を紹介するに留めさせていただきます。

 執筆者は、IoT向けのセンサ技術やエネルギーハーベスタ技術に関心があり、本学会に参加することでIoT向けのセンサ・デバイス・MEMS技術の動向が把握できたことは有意義でした。

 まず、キーノートスピーチ発表では、北京大学のAlice H.X.Zhang教授からは、自立電源駆動のスマートデバイス・システム技術について研究内容が報告されました。エネルギーハーベスタ技術のメカニズムとして、摩擦帯電を用いたTENG(Triboelectric Nanogenerator)技術の紹介もありました。デルフト大学のPaddy French教授からのキーノートスピーチ発表では、シリコンスマートセンサの開発に取り組んできた技術・実績が報告され、シリコン半導体とMEMS技術を集積化する試みにより、アナログ・デジタル変換回路をも集積搭載し、デジタル化・スマート化を実現する等、様々な種類のセンサ・デバイスでの開発例が報告されました。

 エネルギーハーベスタ技術の発表では、中国科学院のQisheng He氏からは、彼らのグループが提案済みの閾値トリガー振動発電エネルギーハーベスタにおいて、Sub-g領域の弱い振動に対しても高効率動作を実現する技術が報告されました。0.25gの振動で、従来比約4倍の発電量0.72μWを達成しました。閾値トリガー振動発電エネルギーハーベスタは、振動をモニターし、閾値以下の弱い振動の時は発電動作をアイドル状態とし電力消費を最小化し、閾値以上の強い振動がある場合にのみ発電を行うものです。エネルギーハーベスタ技術では、発電量から、ハーベスタ自身や後段回路の電力消費量を引き去った、「利用可能な正味の電力量」が重要であり、本手法のような発想となっています。このような考え方は、ハーベスタ自身や後段回路のみならず、ハーベスタで電力をまかなうシステム全体(センサやデバイス、データ無線伝送系)の電力消費量をも考え、計画的かつ効率的な発電ならびにシステム全体の動作を行うことが重要であり、その時・その場における環境発電のAvailability状況(またはハーベスタの発電状況)や蓄電デバイスを有する場合は蓄電量を把握し、その情報をシステム全体で活用できるようにする手立て・設計が今後重要となってくることをあらためて確認できました。

 続いて、兵庫県立大学の内田氏からは、両側電極構造による静電式振動発電エネルギーハーベスタ技術の報告がありました。従来の片側電極構造に対し、両側電極構造を新たに採用することにより、静電引力を低減可能となり、発電量を倍増させることができるとしました。シミュレーション結果を示すとともに、試作結果の速報報告があり、動作波形を実際に確認するところまで到達済みでした。

 また、Industry Sessionでは、鷺宮製作所の三屋氏から、同社における静電式振動発電エネルギーハーベスタの開発状況が報告されました。

 他に、パッシブLC型圧力センサを搭載した、創傷管理できるスマート絆創膏に関する報告や、人体の関節運動により発電するウエアラブルなエネルギーハーベスタの報告等、多岐に渡る取り組みに触れることができ、有意義でありました。

 IoTセンサの自立発電動作化を実現し、センサ動作・センサ制御・そのセンサ出力の無線伝送をも、自立電源動作させるためには、各部分の低消費電力化の取り組みとともに、エネルギーハーベスタ技術研究開発の一層の進展が不可欠です。引き続き、注視していきたいと思います。

 今回、本ブログでは一部の分野のみ紹介しましたが、前述のように、当センターでは、「国内外技術動向調査」の取り組みの中で、本分野の有識者から構成される委員の方々により、本学会APCOT2018での全発表内容の詳細な調査・分析を今後進めていきます。
         
平成30年7月3日
 マイクロマシンセンター 調査研究・標準部長 大中道 崇浩

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2018年3月 2日 (金)

米国研究開発動向調査

 2018年2月25(日)~3/2(金)に東京大学情報理工学系研究科の下山教授の「空間移動時のAI融合高精度物体認識システムの研究開発」の動向調査と並行して米国西海岸の研究機関を訪問して、米国の研究開発動向の調査を行いましたので、以下にご報告致します。今回調査したのは以下の5機関です。
 1. University of California, San Diego (UCSD)
 2. University of California, Los Angeles (UCLA)
 3. California Institute of Technology (CALTEC)
 4. NASA Jet Propulsion Laboratory (JPL)
 5. Microsoft Research (MSR) 
以下に各訪問先での調査結果を示します。

1. University of California, San Diego (UCSD)
(1)訪問先:Albert P. Pisano (Dean, Jacobs School of Engineering)
            Miwako Waga (Director, International Outreach)
(2)訪問日:2018年2月26日(月)午前
(3)調査結果
・Pisano学部長は元UC, BerkeleyでMEMS研究を初期から牽引してこられたMEMSの大御所です。現在、UCSDのJacobs School of Engineeringの学部長を務めています。
・UCSDのJacobs School of Engineeringは 6つの学科(①Bioengineering, ②Computer Science & Engineering,③Electrical & Computer Engineering, ④Mechanical & Aerospace Engineering, ⑤Nanoengineering, ⑥Structural Engineering)から構成されDigital Futureを目指して以下のテーマに注力して研究開発を行っています。
 -Context-aware robotics
 -Nano for energy and medicine
 -5G and future of communication
 -Wearable sensing and computing systems
 -Cyber and digital security
 -Data science and machine learning
・アメリカのホットトピックスに関して意見交換を行い、以下のような意見が出ました。
 -AIに関してはIBMとUCSDでAI for Healthy Living Centerを立ち上げているとのことでした。
 -医療に関してはDigital Health, Precision Medicine, Personalized Medicineが挙げられるとのことでした。
 -構造物モニタリングに関してはUCSDではサンディエゴ市とスマートシティの一環としてBuilding Structural Monitoringを行っているとのことでした。
 -医療認証に関しては、米国のFDAは世界一厳しいとのことでした。
・Pisano学部長がおられるUCSD Jacobs Hallの入口の写真を写真1に、Pisano学部長室の前で、Pisano学部長との写真を写真2に、和賀所長、Pisano学部長との写真を写真3に示します。

12_ucsd
   写真1 UCSD Jacobs Hall入口     写真2学部長室の前でPisano学部長と

3_ucsd_pisano_2      写真3 学部長室の前で和賀所長、Pisano学部長と

2. University of California, Los Angeles (UCLA)
(1)訪問先:
① CJ Kim (Professor, Mechanical & Aerospace Engineering Department)
② Verronica J. Santos (Associate Professor, Mechanical & Aerospace Engineering Department)
③ Tsu-Chin Tsao (Professor, Mechanical & Aerospace Engineering Department)
④ Jacob Rosen (Bionics Lab Director, Mechanical & Aerospace Engineering Department)
(2)訪問日:2018年2月26日(月)午後
(3)調査結果
① CJ Kim 教授
・CJ Kim教授はMEMS分野の権威で、Kim教授のMicro and Nano Manufacturing Labでは、特に表面張力を利用したマイクロナノデバイスの研究を積極的に行っています。
・UCLAはMedical Centerが近いので、医者との連携は容易であり、共同の研究はしていますが、初期はお金がないので、細々と進めざるを得ないとのことでした。但し、試作品が認められれば、病院は寄付によるフレキシブルな予算があるので、大きなプロジェクトにすることは可能とのことでしたが、コンセプトからは5年程度かかるとのことでした。
・CJ Kim教授室の前で、Kim教授との写真を写真4に、下山教授のKim教授への説明の様子を写真5に示します。

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   写真4 教授室の前でKim 教授と     写真5 Kim教授と下山教授

② Santos准教授
・Santos准教授は把持、触覚、義手、人工刺激、機械学習等の専門家でSantos准教授のBiomechatronics Labでは、人工触診(Artificial haptic exploration)、触覚センサ、把持等の研究開発を行っています。
・海軍の予算で義手の研究を行っているとのことでした。その他遠隔操縦や砂の中の触覚による物体認識や把持のための触覚センサ等の研究を行っていました。
・触覚センサは買い物とUniversity of Washingtonで作ってもらったものを使用しているとのことでした。
・Santos准教授室の前で、Santos准教授との写真を写真6に、写真7に遠隔操縦用双腕マニピュレータ、写真8に人工ハンド、写真9に指の触覚センサ、写真10に実験室での説明の様子を示します。

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写真6准教授室の前でSantos准教授と 写真7 遠隔操作用双腕マニュピュレータ

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    写真8 人工ハンド         写真9 指の触覚センサ

10_uccla_santos_2          写真10 実験室での説明の様子


③ Tsao教授
・Tsao教授はダイナミックシステムのモデリングと制御の専門家です。
・アメリカのホットトピックスのキーワードの一つとして、Co-Robotが挙げられるとのことでした。Co-Robotは人間とロボットとの物理的干渉に関する研究です。その場合には触覚センサが重要になるとのことでした。
・もう一つのキーワードとして、 Distributed Sensingが挙げられるとのことでした。Distributed sensingではデータ処理のためAIが必要になるとのことでした。
・アメリカでは義手・義足の研究も負傷した帰還兵のニーズが高く、保障の観点からも盛んとのことでした。
・UCLAではMedical Centerが近いので、医療応用の研究も盛んとのことでした。NIHでは手術用ロボット等治療に係るテーマは良いですが健康に関してはあまり取り上げてもらえないとのことでした。
・Tsao教授室の前で、Tsao教授との写真を写真11に示します。

11_ucla_tsao           写真11 教授室の前Tsao教授と


④ Rosen教授
・Rosen教授は医療用ロボット(手術用+リハビリ用)や遠隔操作の専門家でUCLAのBionics LabのDirectorです。
・Rosen教授に研究室を案内してもらい、アメリカのホットトピックスのキーワードについて討議しました。
・手術用ロボットでは力制御が重要であり、狭いところでも作業できるように、狭いところにマウントできる触覚センサの開発がMEMSに期待するところとのことでした。
・現状はダビンチが市販されている唯一の手術用ロボットですが、最近2社が新たに製品化をしようとしているとのことでした。UCLAではリサーチラボで使うオープンプラットフォームの手術用ロボットの研究開発をしているとのことでした。
・ダビンチはS/Wは公開されていないので、研究開発用としてH/W,S/Wともオープンソースの手術用ロボットの開発は意味があるとのことでした。
・手術用ロボットのFDA認可には、$100million必要ですが、市場は$30billionと言われており、認可にお金がかかっても十分事業として成り立つとのことでした。
・手術用フォースセンサとしては直径5mmに収める必要があるとのことでした。但し、長さ方向に制限はないとのことでした。鉗子の先端に付けるためには幅2mm、長さ2~4mmに収める必要があるとのことでした。
・鉗子は$1200で10回の使用で交換するとのことでした。これは小型のプーリー等が劣化・破損するためとのことでした。これに適用するためにはセンサのコストは安くないと使われないとのことでした。
・この分野のキーワードとしては、Automated Surgeryが挙げられるとのことでした。現状は遠隔操作ですが、場所、縫合数等を与えるだけで自動的に手術をしてくれることが最終目標とのことでした。機械学習等もこの中に含まれるとのことでした。
・現在はサブタスクレベルでのトライアルがなされているレベルであるとのことでした。
・ハンドは2本指で全作業の95%が実現できるとのことでした。3指あれば100%の作業が実現できるとのことでした。人間が5本指なのは冗長性を担保するためとのことでした。
・人間の5指は長さが違うのに、曲げるとそろうのはスライド機構が備わっているためであるとのことで、スライド機構が備わったハンドを作られていました。
・腱機構は先端部を小さくはできますがプーリー部が壊れやすいとのことでした。
・Rosen教授室の前で、Rosen教授との写真を写真12に、写真13に手術用ロボットの全景写真、写真14に手術用ロボットの手先部拡大写真、写真15に鉗子部、写真16に手術ロボット操作コンソール部、写真17に指マスター部を示します。

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  写真12教授室の前でRosen教授と    写真13 手術用ロボット全景写真

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  写真14 ロボット手先部         写真15 鉗子部

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   写真16 操作コンソール部           写真17 指マスター部

3. NASA JPL
(1)訪問先:Dr. Won Soo Kim
(2)訪問日:2018年2月27日(火)午前
(3)調査結果
・NASA JPLのWon Soo Kim博士を訪問し、von Karman Visitor Center、Space Flight Operations Facility、the Spacecraft Assembly Facility、In-situ Instrument Laboratoryを案内して頂き、火星探査車を中心に説明を受けました。
・火星探査車としては、1997年にマーズ・パスファインダーに搭載され着陸に成功したソジャーナ、2004年にマーズ・エクスプローレーション・ローバに搭載され、着陸に成功したスピリットとオポチュニティ、2012年にマーズ・サイエンス・ラボラトリーに搭載され、着陸に成功したキュリオシティがあるとのことでした。
・マーズ・エクスプローレーション・ローバまではバルーンに入れて火星に落下させましたが、マーズ・サイエンス・ラボラトリーでは重量が重いため、キュリオシティをワイヤーで吊って、地表面に到達後すぐにワイヤーを切って逆噴射でマーズ・サイエンス・ラボラトリーを遠ざける方法に変更したとのことでした。
・火星探査車には種々のセンサが搭載されているとのことでした。キュリオシティにはオポチュニティの10倍の化学探査機器が搭載されており、火星が生命を保持する可能性について調査しているとのことでした。
・ミッションを成功させるため、デバイス、コンポーネント、システムレベルでの耐久性評価を行っているとのことでした。
・写真18にオペレーションルーム入口、写真19に衛星組立て工場の入口、写真20にKim博士の居るIn-Situ Instrument Labの入口、写真21にソジャーナ(右)とオポチュニティ(左)の模型、写真22にキュリオシティの模型、写真23にキュリオシティの模型前でのKim博士と下山教授を示します。

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写真18 オペレーションルーム入口  写真19 衛星組立て工場の入口

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写真20 In-Situ Instrument Lab入口   写真21オポチュニティ(左)とソジャーナ(右)

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   写真22  キュリオシティ模型         写真23 下山教授とKim博士

4. CALTEC
(1)訪問先:Yu-Chong Tai (Executive Officer and Professor, Medical Engineering)
(2)訪問日:2018年2月27日(火)午後
(3)調査結果
・Tai教授はMEMSの大御所の一人ですが、15年くらい前からMEMSそのものの研究から医療用MEMSに研究を集中させ、役に立つMEMS の開発を行っているとのことでした。
・アメリカではNIHが医療用で大きな予算を出しており、有望なテーマとしては癌治療や心臓病にかかわるものがあるとのことでした。
・また、DARPAでは1年単位の契約で有望なものは1年単位の更新が基本ですが、NIHでは1年、2年、3年、4年、5年といった種々の枠組みがあり、成果をだせば延長可能で、Tai教授は5年ものを継続させ20年研究開発しているものもあるとのことでした。
・FDAの認可をとるのは大変でコストもかかりますが、認可されれば逆にFDAが守ってくれるので、逆にメリットになっているし、米国では医療用の市場は$400billionあり、他の分野より大きいし、また数はそれほど出さなくても利益率の高い商売ができるとのことでした。
・電気・電子の世界は、数はでますが、コストも下げられ、利益率も悪いし、60年前にトップ60に入っていた企業で今もトップ60に入っているのは3社だけですが、医療は60社がすべてそのまま生き残っているので、医療は非常に安定した業界であるとのことでした。
・VR、ARはこれから伸びるとの意見でした。また、VR、AR絡みでOptical MEMSはまたブームになる可能性はあるとのことでした。
・ビジョンに関してはプライバシーを侵害するものは受入れられないので、注意する必要があるとのことでした。グーグルグラスも当初一般用に考えていたために、撤退を余儀なくされ、最近医療用等の特定分野に限定することで復活したとのことでした。米国では法律でプライバシー保護がなされるので、プライバシーを侵害するものは注意が必要とのことでした。パーソナルユースにするか公共で使うものに関してはホームランドセキュリティにかかわるものしかダメとのことでした。
・IoTに関しては、民生品の分野で有望との見解でした。
・エネルギ分野に関しては、米国では昔はDOEから活発な国の支援が行われましたが、シェールオイルが出てきてからは、米国ではエネルギ関連の予算はほとんどなくなったとのことでした。但し、日本や台湾のようにエネルギを他国に依存しているところは別かもしれないとのことでした。
・MEMSの産業化は、信頼性、再現性等が満足されなければ、無理だとのことで、産業化を考えるにははじめからこれらを考慮する必要があるとの見解でした。
・クリーンルームの前で、Tai教授との写真を写真24に示します

24_caltec_2        写真24 クリーンルームの前で、Tai教授と

5. Microsoft Research
(1)訪問先:
Research Program Managerの公野氏にアレンジして頂き、下記4名の研究者とディスカッションを行いました。
①Yutaka Suzue, Principal Software Development Engineer
②Sing Bing Kang, Principal Researcher Interactive Visual Media
③Gang Hua, Research Manager Machine Perception and Cognition Group
④Sudipta Sinha, Researcher, Aerial Informatics and Robotics (AIR) Group
(2)訪問日:2018年2月28日(火)午後
(3)調査結果
① Dr. Yutaka Suzue
・Dr. Suzueはペッパー、HSR等のロボットを使って、エンタープライズとしてどんなことができるかのシナリオつくりが仕事とのことでした。
・CES (Consumer Electronics Show)ではスマートスピーカを中心とするホームIoTがホットだったとのことでした。
・会議室で、公野氏、鈴江氏への説明の様子を写真25に示します。

25_msr__2       写真25 会議室で公野氏、鈴江氏への説明の様子

② Dr. Sing Bing Kang
・Dr. Kangの研究テーマはエンハンストビジョンやシネマグラフです。360℃カメラの映像をある人が興味のあるものを中心に再構築して、表示させる技術等を開発していました。
・会議室で、Dr. KangとDr. Huaとの写真を写真26に、Dr. Kang、Dr. Hua、公野氏との写真を写真27に示します。

2627_msr
 写真26 Dr. Kang,Dr. Huaと  写真27 Dr. Kang,Dr. Hua,公野氏と

③ Dr. Gang Hua
・Dr. HuaのグループではVision Analysis, Machine Reading, Machine Learningを研究しているとのことでした。
・Dr. HuaはStyle Transferの研究で、ある絵を別の特徴を持つ絵に変えたり、人の表情を変えたりする研究を行っていました。
・ホットトピックスのキーワードとしては、Co-Robotがあるかもしれないとのことでした。

④ Dr. Sudipta Sinha
・Dr. Sinhaは3Dコンストラクションやステレオマッチング、Mixed Reality、AR、VRの研究を行っていました。
・また、HoloLensの開発を行ったとのことでした。
・キネクトやXBox、Bing検索等がMicrosoft Researchから製品化されたとのことでした。
・会議室で、Dr. Sinhaとの写真を写真28に示します。

28_msr_sinha_2           写真28 会議室でDr. Sinhaと

          (一般財団法人マイクロマシンセンター 武田宗久)

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2018年1月29日 (月)

国際会議 IEEE MEMS2018 参加報告

 2018年 1月 22日~25日の 4日間にわたり英国・北アイルランド・ベルファストで開催された、MEMS関連の主要国際会議であるIEEE MEMS2018に、センサ・MEMSデバイスの標準化のための技術調査の目的で参加しました。


会場外観(英国・北アイルランド・ベルファスト、ウォーターフロント)


会場メインホール

 学会のオープニングで公表されたデータによりますと、参加者数は600人で、投稿論文数675件、採択論文数346件、採択率51%でした。採択論文の内訳は、口頭68件、ポスター278件。採択論文の国別件数順位は、1位米国、2位日本、3位中国、4位韓国、5位台湾、6位ドイツ・オランダ、8位スイス・英国となっております。採択論文のカテゴリ別件数割合(学会が公表した簡易分別の数字)は、以下に示す表の通りでした。


採択論文のカテゴリ別件数割合(学会が公表した簡易分別の数字)

 プレナリー招待講演は以下の4件であり、いずれの講演も示唆に富んだ感銘深い内容でありました。
  • 藤田博之教授, 東大, “FROM WOW TO WORK: CYCLES OF MEMS EVOLUTION”
  • Dr. M. Steffen, IBM, “EARLY APPLICATIONS OF QUANTUM COMPUTERS”
  • J. Cooper教授, Univ. of Glasgow, “MICROSTRUCTURES TO SHAPE ACOUSTIC FIELDS AND CREATE COMPLEX MICROFLUIDIC FLOWS”
  • Dr. F. Laermer, Bosch, “MEMS AT BOSCH – INVENTED FOR LIFE”

 3日目1月24日の夜には、かの有名な英国客船タイタニック号がベルファストで造船されたことから沈没事故から100年となる2012年にベルファストにオープンしたタイタニック博物館で、学会主催のバンケットが開催されました。参加者一同がタイタニック博物館の展示を見学した後、ウエルカムドリンク、その後にバンケットにうつるという盛大な会でございました。


バンケット会場 タイタニック博物館外観


バンケットの様子

 MEMS分野における多岐の技術領域に渡る充実した内容の論文が数多く発表され、活発な議論が行われた、大変有意義な学会でありました。マイクロマシンセンターでは、「国内外技術動向調査」という取り組みとして、技術進歩が著しい国内外のマイクロマシン/MEMS分野等の研究動向、技術動向を的確に把握するため、MEMS分野の著名な国際会議等をターゲットにした定点観測的な調査を例年行っております。MEMS2018もこの調査の対象学会であり、本分野の有識者から構成される国内外技術動向調査委員会の委員の方々により、学会の発表内容の調査が行われ、報告書に纏めております。従って、今回のMEMS2018で発表された技術の詳細・分析結果については、この「国内外技術動向調査」の報告書で改めて報告するため、本ブログでは、本ブログ執筆者が今回の学会参加で調査を行ったIoT関連エネルギーハーベスティング技術に関する幾つかの論文紹介に留めさせていただきます。すなわち、エネルギーハーベスティング技術として1つの口頭セッションが設けられ、4件の発表がありましたので、その論文の内容を紹介します。

 東北大の桑野教授研究室H. H. Nguyen氏からは、“DEVELOPMENT OF HIGHLY EFFICIENT MICRO ENERGY HARVESTERS WITH MgHf-CODOPED AlN PIEZOELECTRIC FILMS”というタイトルで、AlNにMgとHfを添加したMgHfAlNにより、圧電型振動エナジーハーベスタにおけるパワー密度最高値を更新(34.9mWcm-3g-2)した結果が報告されました。

 英国ケンブリッジ大のY. Jia氏からは、“AUTOPARAMETRIC RESONANCE IN A PIEZOELECTRIC MEMS VIBRATION ENERGY HARVESTER”というタイトルで、圧電型振動エナジーハーベスタにおいて、主副カンチレバーの自動パラメトリック共振により、同一デバイスの直接共振時に比べ2倍以上の高出力を実現し、出力電力密度にて現状技術比で約1桁高いレベルが得られておりました。

 東大の鈴木雄二教授研究室の三好先生から、“LOW-PROFILE ROTATIONAL ELECTRET GENERATOR USING PRINT CIRCUIT BOARD FOR ENERGY HARVESTING FROM ARM SWING”というタイトルで、回転型エレクトレット振動発電エネルギーハーベスタの技術の発表がありました。腕に装着するエネルギーハーベスタを実際に試作し、1.45m/sの歩行速度での歩行時の腕振りで80μWの発電が得られることを実証しました。さらに、今回の口頭発表時、実際に、試作したエネルギーハーベスタを腕に装着し、発電デモを実施されていました。

 韓国Kwangwoon大のM. Salauddin氏の“A FREE MOTION DRIVEN ELECTROMAGNETIC AND TRIBOELECTRIC HYBRIDIZED NANOGENERATOR FOR SCAVENGING LOW FREQUENCY VIBRATIONS”というタイトルで、摩擦発電と電磁誘導発電のハイブリッド発電を提案、ならびに、試作結果の報告がありました。当日、代理発表されたKwangwoon大J. Park教授は、エネルギーハーベスタ分野のIEC(国際電気標準会議)国際標準化におけるキーマン(エネルギーハーベスタ分野のワーキンググループであるIEC/TC47/WG7の主査の一人)であり、2017年10月のIECプレナリー会議@ウラジオストクや2017年11月の国際会議PowerMEMS@金沢でのスクール(ショートコース)招待講演で来日された際にお会いして以来の再会でした。

 IoTセンサの自立発電動作化を実現し、センサ動作・センサ制御・そのセンサ出力の無線伝送をも、自立電源動作させるためには、各部分の低消費電力化の取り組みとともに、エネルギーハーベスティング技術は非常に重要な技術分野です。引き続き、技術の進展を追いかけていきたいと思います。

 前述のように、当センターでは、「国内外技術動向調査」の取り組みの中で、本分野の有識者から構成される委員の方々により、本学会MEMS2018での発表内容詳細の調査・分析を今後進めていきます。平成30年5月頃、発行致しますので、ご参照いただければと存じます。
         
平成30年1月29日
マイクロマシンセンター 調査研究・標準部
大中道 崇浩

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2017年6月26日 (月)

国際会議Transducers2017参加報告

 2017 年 6月 18日~22日の 5日間にわたり台湾・高雄(Kaohsiung)で開催された、隔年開催の Transducer 技術に関する国際会議で ある、International Conference on Solid-State Sensors, Actuators and Microsystems(Transducers2017)に、センサ・MEMSデバイスの標準化のための技術調査の目的で参加しました。他業務との兼ね合いもあり、開催期間のうち、6月 20日~22日の3日間、学会を聴講してきました。4つのパラレルセッションにて構成された口頭発表に加え、ポスターセッションならびに関連技術の各社・各機関が出展する展示会も開催され、本技術分野に関する最先端の研究発表が世界各国から結集し、非常に活況を呈していたことが印象に残りました。6月21日の夜には、Grand Hi-Laiホテルの大ホールで開催された学会主催のバンケットに参加することができ、チャイニーズ・シンフォニー・オーケストラの見事な演奏もあり、こちらも大盛況でありました。


開催会場である台湾・高雄エキジビションセンターのエントランス
 
 マイクロマシンセンターでは、「国内外技術動向調査」という取り組みとして、技術進歩が著しい国内外のマイクロマシン/MEMS分野等の研究動向、技術動向を的確に把握するため、MEMS分野の著名な国際会議等をターゲットにした定点観測的な調査を例年行っております。Transducers2017もこの調査の対象学会であり、本分野の有識者から構成される国内外技術動向調査委員会の委員の方々により、学会の発表内容の調査が行われ、報告書に纏めております。従って、今回のTransducers2017で発表された技術の詳細・分析結果については、この「国内外技術動向調査」の報告書で改めて報告するため、本ブログ執筆者の今回の学会参加の感想をお伝えするに留めさせていただきます。


Grand Hi-Laiホテルで開催された学会主催バンケット

 執筆者は、IoT(Internet of Things)向けセンサ技術やエネルギーハーベスト技術に関心があり、本学会に参加することで各種センサを実現するMEMS技術の動向が把握できたことは有意義でした。ここでは各論には踏み込みませんが、個人的に印象に残ったのは、“CMOS”セッションでした。本セッションでは、MEMS-CMOS集積化の取り組みについて幾つか報告がありましたが、台湾TSMC社からは「12 INCH MEMS PROCESS FOR SENSORS IMPLEMENTATION AND INTEGRATION」というタイトルで発表がなされました。MEMSセンサでは、MEMSプロセスでのセンサ形成に加えて、センサ出力を読み出すためには、シリコン半導体CMOSプロセスによる読み出し回路が必要です。本発表では、12インチでのMEMSプロセスウエハと、12インチでのシリコン半導体CMOSウエハを、積層してMEMS-CMOS集積化を行う試みが報告され、共振器、加速度センサ、ピラニ真空計の3種のデバイスを例として、前記方法で実際にMEMSデバイスの試作を行ったことが紹介されました。IoTセンサの普及が本格化する将来に、このような手法での大量・安価なMEMS-CMOS集積センサ製造がどこまで主流となっていくのかが興味深いところです。IoTセンサでは少量・多品種への対応がしばしば必要とされる可能性もあり、CMOSとMEMSのマルチチップでの集積化も残っていくのかという観点です。ファウンダリ各社の今後の動向にも注目したいところです。

 エネルギーハーベスト技術については、“Energy Harvesters”というセッションが設けられ、様々なアプローチでのエネルギーハーベスト技術の発表6件が行われました。IoTセンサの自立発電動作化を実現し、センサ動作・センサ制御・そのセンサ出力の無線伝送をも、自立電源動作させるためには、各部分の低消費電力化の取り組みとともに、エネルギーハーベスト技術は非常に重要な技術分野です。引き続き、技術の進展を見守っていきたいと思います。

 今回は、本ブログ執筆者が本学会に参加した感想のみ記させていただきました。前述のように、当センターでは、「国内外技術動向調査」の取り組みの中で、本分野の有識者から構成される委員の方々により、本学会Transducers2017での発表内容詳細の調査・分析を今後進めていきます。

(調査研究・標準部 大中道 崇浩)

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2017年1月30日 (月)

IEEE MEMS2017への参加報告


 2017年1月22日から28日まで、米国ラスベガスで開催されたMEMS2017に参加したので、その第1報を取り纏めましたので報告します。

 MEMS2017開催期間中、参加者は704名、オーラルは86件・ポスターは261件(合計367件)で、採択率40%でした。昨年のMEMS2016と比較していずれも微増にとどまっていました。参加国数は25ヶ国ありました。採択数は米国が約100件、次いで日本が約64件、中国が約46件、韓国が約38件の順でした。

 発表分野においては、エナジーハーベスタやガスセンサに関するセッションもあり、IoT関連デバイスの最新技術動向を広く把握できる学会でした。

 参加者にの傾向は、大学や研究機関が約8割と多くを占め、他が企業からの参加でした。代表的な大学や研究機関は、わが国からは東京大学・京都大学・立命館大学・神戸大学から参加しており、海外ではベルギーのIMEC、米国のMIT・Georgia Institute of Technology School・University of California, Berkeley・Stanford University・CALTEC、ドイツのFraunhofer 、スイスのCSEM・ETHZurich、韓国のKAIST、中国のShanghai University等であった。代表的な企業は、Apple・Intel・TSMC・Robert Bosch GmbH・Hitachi・Toshiba・InvenSense, Inc.・LG Electronics・Qualcomm ・Tanaka Precious Metals・Azbil Corporation・NXP・Texas Instruments・Analog Devices, Inc.等であった。IoTセンサネットワークにおけるクラウド層から、個別センサの分野まで、広範囲に渡っていた。

 Student Awardのノミネートは14件(オーラル13件、ポスター1件)あり、3件が受賞(①3D PRINTED THREE-FLOW MICROFLUIDIC CONCENTRATION GRADIENT GENERATOR FOR CLINICAL E. COLI-ANTIBIOTIC DRUG SCREENING,E.C. Sweet, J.C.-L. Chen, I. Karakurt, A.T. Long, and L. Lin, University of California, Berkeley, USA、②64-PIXEL SOLID STATE CMOS COMPATIBLE ULTRASONIC FINGERPRINT READER,J.C. Kuo, J.T. Hoople1, M. Abdelmejeed, M. Abdel-moneum, and A. Lal Cornell University, USA and Intel Corporation, USA、③ENVIRONMENTALLY ROBUST DIFFERENTIAL RESONANT ACCELEROMETER IN A WAFER-SCALE ENCAPSULATION PROCESS,D.D. Shin, C.H. Ahn, Y. Chen, D.L. Christensen, I.B. Flader, and T.W. Kenny Stanford University, USA, InvenSense Incorporated, USA, and Apple Incorporated, USA)

 IEEE Fellowsには、Christofer Hierold,ETZ Zurich, Gwo-Bin Lee,Ntional Tsing Hua University,Olav Solgaard,Stanford University,Xin Zhang Boston Universityの4名が選ばれた。

 Bosch Awardには、Clark C,-T. Nguyen,University of California ,Berkeley, USA が選ばれた。 

 次回のMEMS2018は、BELFAST、NORTHERN IRELENDにて開催。 

MEMS2017のロゴ


 赤外線アレーセンサに関する技術動向としては、オーラル1件、ポスター1件の発表があった。いずれもサーモパイル型で、新規の画素構造により高感度化している。しかしながら、従来研究と比較して感度は同等であるため、NMEMSの赤外線アレーセンサの開発において、これらの研究が脅威になる可能性は低いと思われる。


セッションの座長を務められる年吉先生


 IoTにおけるデバイスに関して、広い範囲で質の高い発表を聴講する事ができ、非常に有意義な学会であった。また、他の研究者と交流を深める事ができ、ネットワーク作りの場としても非常に有益であった。したがって、来年度もLbSSプロジェクトとして参加すべきだと思った。 




ラスベガスの街並み

             

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2016年10月26日 (水)

「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウムにMNOICを出展・報告

 センサやMEMS関係の国内最大のシンポジウムである第33回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム(以下センサシンポと略します)が本年10月24日(月)~26日(水)、長崎県平戸市の平戸文化センターで開催されました。このシンポジウムに一般財団法人マイクロマシンセンターからMNOIC(マイクロナノ・オープンイノベーションセンター)の概要とサービスの内容について展示しましたので紹介いたします。

 平戸市は、九州本土の西北端、平戸瀬戸を隔てて南北に細長く横たわっている平戸島と、その周辺に点在する大小およそ40の島々から構成されており、北は玄界灘、西は東シナ海を望んでいます。平戸文化センターは、2000席収容の大ホールや体育館、いくつかの会議室がある本格的施設であり、参加者数は500人超と、決して交通アクセスが良いとは言えない九州の島で開催されたことを考えると、盛況であったといえます。今回のセンサシンポは「Future Technologies from HIRADO 」と題し、電気学会・E部門の部門大会であるとともに、応用物理学会集積化 MEMS 技術研究会主催「集積化 MEMS シンポジウム」が同時開催され、更に、10月24日(月)に2学会共催で,開催地にちなんだシンポジウムとして「日本・台湾国際交流シンポジウム」を開催されました。平戸市は、台湾の英雄「鄭成功(チェンチェンコウ)」の生誕地で、台湾では孫文、蒋介石とならぶ「三人の国神」の一人として尊敬されています。 また、台湾はファンドリメーカが集約し、集積化MEMS技術の研究開発も活発であるため、日台国際交流シンポ開催に至ったそうです。

 まず、「夢 持ち続け日々精進」と題し、株式会社 A and Live 代表取締役、というよりもジャパネットたかた前社長の髙田明氏(平戸市出身)の、学会の基調講演としては異色の講演がありました。講演の演題通り「夢を持ち続け、日々精進」することの大切さを強く訴えるもので「1つの目標を達成するときには、妥協はダメ。その覚悟が絶対に人生にはいる。」は、研究開発にも通じる言葉として印象に残りました。他の基調講演は「CMOSとMEMSの融合が創造する次なるIoT」 National Tsing Hua University(台湾)Weileun Fang氏、「味と匂いを測るセンサの開発」 九州大学教授 都甲潔氏、「医師がシリコンを処方する未来-新しいヘルスケアシステムの幕開け」 Imec(ベルギー)Chris Van Hoof氏 、「昆虫撮影における工夫と電子技術の応用」 栗林自然科学写真研究所 栗林 慧氏、「加速度センサを用いたパーキンソン病の早期診断と歩行支援」 東京工業大学教授 三宅美博氏の4講演が行われました。

  MNOICについては、10/24に技術プレゼンテーション(写真1)と会期中を通して技術展示を行いました(写真2)。全国的にはかなりMNOICの知名度は浸透していますが、九州地区のいくつかの企業や公設試には初めて存在を知る方々もおられ、サービス内容や、試作実績や価格、納期について詳細な問い合わせを受けました。

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                  写真1

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                  写真2

 今、社会経済にインターネット出現以上に衝撃を与えつつあるIoTですが、特に今後のIoTデバイスには、多機能かつ小型、低消費電力等が求められるので、MEMSへのニーズが大きく高まることは明らかです。この分野でMNOICのサービスの実力をさらに向上させ、オープンイノベーションを推進し、我が国のIoTデバイスをはじめとする産業の発展に貢献していきます。

               (MEMS協議会 渡辺 秀明)

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2014年12月24日 (水)

IEEE SENSORS 2014参加報告

NEDO「インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト/インフラ状態モニタリング用センサシステム開発/道路インフラ状態モニタリング用センサシステムの研究開発」における「フレキシブル面パターンセンサによる橋梁センシングシステムの開発」に関する研究動向調査として、スペイン・バレンシアで開催されたIEEE SENSORS 2014に出席した。

IEEE SENSORSは、2002年に始まった比較的若い国際会議で今回は13回目となる。米国→ヨーロッパ→アジアの順で開催地が巡回するのは、IEEE MEMSなどと同様だが、我が国からの参加者は開催国スペインやアメリカについで多いにもかかわらず、未だ日本での開催実績が無いというのは不思議と言えば不思議である。今回は、最終プログラム記載の参加者が650名ということなので、規模的にはそれなりに大きな学会と言えよう。センサと言っても千差万別なので、決してすべてを網羅しているわけではないし、MEMS会議とも重なるところはあるが、センサネットワーク、IoTやウェアラブル、フレキシブルセンサは比較的早くから他の学会に先駆けて積極的にとりあげてきた学会という印象を持っている。また、今回は例年に比べて少し少なかったようにも感じるが、実証的な研究開発の発表件数や企業からの発表がMEMS会議などと比べて比較的多いのも特徴だろう。

ところで、バレンシアと言えば、短絡的ではあるが(というか古い!)、オレンジの町、明るい地中海の町というイメージである。基本的に開催期間は概ね天気にも恵まれたが、海岸がにぎわう季節ではない(完全にオフシーズン)ので、イメージしていたよりは落ち着いた街との印象である。また会議場は、2010年に世界ベスト会議場に選ばれたところだそうだが、町の中心部からは少し離れたところなので、より一層落ち着いて(?)会議に参加できた。

Keynoteは、”THE SENSABLE CITY”(Calro Ratti, MIT)、”GRAPHENE SENSORS IN THE EUROPEAN GRAPHENE FLAGSHIP”(Herre van der Zant、Delft工科大学)、”COMMUNICATION WITH CELLS BY ELECTRICITY AND LIGHT – IMPLANTABLE MICROELECTRONICS DEVICES”(Jun Ohta、奈良先端大)の3件で、セッションと各々の発表件数は以下の表の通りである。


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以下いくつかの関連発表を簡単に紹介する。

①(Session: ENABLING TECHNOLOGIES)「AN ACCELEROMETER DIGITAL FRONT END FOR EFFICIENT SEISMIC EVENT DETECTION SUPPORT IN A WIRELESS SENSOR NODE」(イタリア・Università degli Studi dell'Aquila) :MEMS加速度センサで地震検出するためのデジタルフロントエンドに関する発表である。Walsh変換を用いることにポイントがあるようである。本プロジェクトでも必須項目の一つである突発事象検出に参考になるかもしれない。なお、実証場所の、S. Maria di Collemaggio教会は有名な建造物らしい。

②(Session: MEDICAL FORCE SENSORS)「A MULTIPOINT THIN FILM POLYMER PRESSURE/FORCE SENSOR TO VISUALIZE TRADITIONAL MEDICINE PALPATIONS」(富士通研究所):シート上にポリプロピレンを電極で挟んだドット型の構造をアレイ状に並べた圧力/力センサアレイである。ポリプロピレンは圧電材料ではないが、ほぼ圧電材料に匹敵する出力が得られるとのことである。特別な材料やプロセスを必要としないため、低コスト製造、大面積化にも向いていると思われる。面パターンセンシングでも活用を考えるべきかもしれない。

③(Session: MEDICAL FORCE SENSORS)「A FLEXIBLE SKIN PILOERECTION MONITORING SENSOR」(韓国KAIST):皮膚の起毛を検出するセンサとのことであるが,製造方法に関し、導電性のポリマー電極パターンをシート内に形成する手法として参考にできるかもしれない。

④(Session: MEDICAL FORCE SENSORS)「FLEXIBLE 3-AXES CAPACITIVE PRESSURE SENSOR ARRAY FOR MEDICAL APPLICATIONS」(フランス・パリ南大学):タイトルの通り、フレキシブルシート状の静電容量型の3軸圧力センサアレイであるが、PDMS膜に印加される応力を静電容量で検出する方式であるので、構造物に貼って面パターンセンサとして動作させることも可能なはずであるが、性能については検討が必要である。

⑤(Session: MEDICAL FORCE SENSORS)「CONFORMABLE TACTILE SENSING USING SCREEN PRINTED P(VDF-TRFE) AND MWCNT-PDMS COMPOSITES」(イタリア・Fondazione Bruno Kessler他):シート状に、スクリーン印刷で、PVDF圧電センサアレイあるいはCNTを使ったひずみ抵抗効果センサアレイをそれぞれ形成したものである。スクリーン印刷を活用する点などで本プロジェクトの面パターンセンシングでも参考にすべきである。触覚センサとしては動作するようであるが、今回面パターンセンシングで目指す性能を持たせることができるかどうかは調査が必要である。

⑥(Session: SAFETY AND SECURITY APPLICATIONS I)「APPLICATION OF MEMS TO MONITORING SYSTEM FOR NATURAL DISASTER REDUCTION」(京都大学他):市販のMEMS加速度センサを用いて斜面の傾き検出を行った実証実験結果の報告である。市販のセンサでもあらかじめ測定した温度特性を用いて補正すれば、傾き精度0.01度が得られるとしている。実験現場はなぜか国内ではなく、台湾とのことであったが、(途中2ヶ月間のデータ欠損がなぜかあったが?)1年以上の実証実験の結果が示されていた。

⑦(Session: SPECIAL SESSION: BATTERY-LESS RF-ENABLED SENSORS FOR WIRELESS SENSOR NETWORKS)「BATTERY-FREE WIRELESS SENSORS FOR INDUSTRIAL APPLICATIONS BASED ON UHF RFID TECHNOLOGY」(スペイン・Farsens SL他):RF-ID技術を無線センサへ応用するためには、センサインターフェースの充実をはかる必要があるという主張であり、1.5 mほどの距離からの温度・圧力の無線モニタリングの実証結果についても報告されていた。インフラモニタリングにおいても、太陽電池などの電源および処理回路等とシートセンサ端末を切り離すことを検討しても良いかもしれない。

⑧(Session: SPECIAL SESSION: BATTERY-LESS RF-ENABLED SENSORS FOR WIRELESS SENSOR NETWORKS)「MULTI-BAND SIMULTANEOUS INDUCTIVE WIRELESS POWER AND DATA TRANSMISSION(ドイツ・フラウンフォファーIIS):構造物モニタリング用のFBG(Fiber Bragg Grating)センサに関するものであるが、埋め込みのために、RF-ID(コイル給電・データ読み取り)技術を用いている。受電電力は、距離5cmで3.3Wとのことである。

⑨(Session: MATERIALS AND PROCESSES)「A POST PROCESSING APPROACH FOR MANUFACTURING HIGH-DENSITY STRETCHABLE SENSOR ARRAYS」(オランダ・デルフト大学他):センサの材料等は異なるが、センサアレイの転写方法で、SOIウェハを用いること、Siの裏面バルクエッチング(DRIE)を用いているという点で、面パターンで検討しているプロセスと似ているところがある。センサ間の配線もうまく転写できており、参考にしたい報告である。

⑩(Session: TACTILE/FORCE SENSORS)「DEVELOPMENT OF A LASER MICRO-MACHINED INTERDIGITATED CAPACITIVE STRAIN SENSOR FOR STRUCTURAL HEALTH MONITORING APPLICATIONS」(アメリカ・テキサス大学アーリントン校他):プレゼンでは橋梁のモニタリングを対象にしているというイントロがなされたが、内容はレーザー加工を使った低コストな櫛歯型静電容量ひずみセンサに関するものであった。35m無線通信可能なセンサ端末もつくったとしており、全体の内容としては最もプロジェクト内容に合致したものである。ただ、ひずみは、0.1 %レベルの大きなひずみを想定しており、より高精度のひずみ計測に使える技術であるかどうかはわからない。

なお次回の会議は、2015年11月1−4日の日程で、韓国・釜山で開催される予定である。


以上(伊藤寿浩)

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2014年1月16日 (木)

第2回海外調査報告会開催される

 第2回海外調査報告会を1月15日に新テクノサロンで開催し、約40名の方にご参加いただきました。このイベントは昨年度から始まったもので、マイクロマシンセンター/MEMS協議会(MIF)が行っているMEMS関連の海外調査及び国際標準化の状況について報告するものです。


 最初は「米国・欧州におけるMEMS最先端技術と産業動向」と題して産業交流部長・国際交流部長の今本浩史より報告がありました。

P1150002s 内容はIEEE SensorsとMEMS Executive Congressに関するものです。

 IEEE Sensorsは11月4~5日にアメリカ・ボルチモアで開催されました。投稿論文は約1000件、採択は半分、アメリカ/ヨーロッパ/アジア・オセアニアの割合は4/3/3でした。国別ではアメリカがダントツの200件、中国46件、ドイツ41件に次ぎ、日本は39件の4位でした。会議は6つのセッションが並行して開催され、ガスセンサーは独立したセッションで盛んな発表でしたが、日本企業からの発表が少なかったのが気になりました。

 MEMS Executive Congressは世界のMEMS主要企業・機関が参加する会議で、大半はアメリカですが、わが国からの参加が少なく心配です。マーケットセッションではYoleとHISの発表がありました。モバイル用途では赤外線センサー、ガスセンサと人感センサーの搭載が進み、ガスセンサーはAir Quality sensorとしてCO2センサーが期待される。MEMSの新しいキラーアプリは圧力センサーと湿度センサーで、圧力センサーはGPSに組み込まれ位置情報サービスに使われるが、湿度センサーの用途はまだ限られる。中国が新しい戦場となってきている。


 さらに産業動向調査について報告がありました。この調査は平成24年度に行われ、今後注目すべきマイクロナノ革新デバイスを抽出しています。今年度は現在取り組んでいるグリーンセンサネットワークプロジェクトにかかわる、MEMS環境センサ、集積化等の動向調査を進めています。平成26年度は社会インフラを中心として今後国プロが加速していく中で必要となるMEMSセンサ及びセンサネットワークの動向を調査していく予定です。


P1150005s_2 二番目の報告は「マイクロマシンサミットと中国・ロシア、北欧MEMS動向」と題してMIF次長の三原孝士より報告がありました。

 第19回国際マイクロマシンサミットは昨年4月下旬に中国・上海で開催されました。このイベントはMMCが事務局で毎年各国持ち回りで開催されています。今回の全体テーマはスマートシティで、17の地域から49人のデレゲイトが参加し、カントリーレビュー、セッション、パネルディスカッションが行われました。カントリーレビューでは、オランダ、イタリア、ドイツ、ブラジル(次回のサミット開催地)、ロシア、EC、シンガポール、スイス、米国、中国、日本からそれぞれ報告がありました。MEMS関連セッションでは、中国のパッケージ企業、ミシガン大学のワイヤレスMEMS、ロシアの老巧社会インフラ保全、ドイツの都市エネルギー効率化、北欧の印刷電子技術応用、ブラジルの環境・水質モニター、YoleのMEMS市場予測が報告されました。サミットの開催地である上海の見学があり、蘇州工業パーク、蘇州ナノポリス、国家重点科学技術研究所を訪問しました。


P1150010s 昨年10月に欧州産業技術調査としてフィンランド、ロシアの研究機関を訪問し、セミコンヨーロッパ2013及び国際MEMS/MST産業フォーラムに参加しました。フィンランドで訪れたVTT Technical Research CenterはセンサーとMEMSに特化した研究開発を行っており、3100名の職員を有する北欧最大の研究施設です。日本を含め各国企業との共同研究を行っており、3つの6インチラインが稼働しています。エタロンを使ったCO2センサ、高度なTSV技術を有しています。ロシアではクルスフにある国立南西大学とロシアMEMS協会を訪問しました。ロシアはMEMSの発展性に注目しており、人材育成について我が国への協力を期待していました。

 セミコンヨーロッパ2013は10月にドイツ・ドレスデンで開催されました。STマイクロエレクトロニクスの講演ではスマートフォンからウェラブル、さらにはIOT(Internet Of Things)と進展するなかで全ての工業製品にMEMSが搭載されると報告がありました。InfinionからはMEMSマイクで高品質を武器にシェアを拡大しつつあると報告がありました。Heptagonの半導体技術を駆使して積層のレンズアレイを一気に作成する技術、Si-WAREのマイクロ・オプティカル・ベンチをシリコンチップに形成する技術が興味深いものでした。InvenSenseのモーションセンサー、高額投資のため半導体工場建設可能な企業減少への対応策も面白い報告でした。リソグラフィではEUVの発表ではASMLから研究開発の状況報告、IMSやIBMからEUVの代替手段の報告があり、シリコン・ホトニクスではSTマイクロエレクトロニクスから研究段階から生産段階に移行しつつあること、3D TSVについても各社から実用化の報告が相次ぎました。3D TSVについては検査が難しいのではと感じました。

 

P1150007s 三番目の報告は「MEMS国際標準化に関する活動状況」と題して調査研究・標準部長の出井敏夫より報告がありました。国際標準化は光と影があり、局面に応じた戦術で最終勝利を目指す「柔軟だが強気」の構えが重要です。MEMS国際標準化はIEC(国際電気標準会議)で進められており、日本はMEMS分野を担当するSC47Fの幹事国として主導的に推進しています。しかし、参加10カ国のうち、規格提案などの活動を行っているのは日・韓・中・独の4か国のみというのが現状です。IECの全体会議は毎年開催され、2014年11月に日本で開催されます。MEMS関連の国際標準は用語の定義から始まり、基礎的な特性計測方法、デバイスの特性表示・計測法と進展し、エネルギーハーベスティング等新たな技術分野に着手しています。今後は新規提案の発掘・具体化、発行済み規格の見直しが当面の課題であり、長中期的にはSC内のリーダーシップの維持強化と規格品質の底上げによるSC全体の価値向上が課題です。

 以上、2時間半たっぷり、休憩なしの報告会を終え、参加者の交流会が行われ、それぞれのMEMS談義が行われました。

<普及促進部 内田>

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2013年12月21日 (土)

Cell-symposia参加報告

2013年11月21日から23日まで、アメリカ・ロサンゼルスで開催されたCell-symposiaに参加しました。会場となったCedars-Sinai Medical Centerは1,000床ほどで2,000名の医師が働く非営利的の巨大な病院であり、バイオメディカルの研究や技術を推進する教育機関としての役割を持つ学術保健科学センターでもあります。細胞を用いた治療などの先端的な研究発表の場であり、小規模な学会ではありましたが、非常に活発な議論がなされていました。医療分野含めた先端研究者が集まるため、市場動向を含めた情報収集には適していると考えられました。Photo

病気や薬剤探索などのモデリング技術についての報告が複数ありました。薬剤耐性菌は、将来的にもその耐性を広く獲得することも予想されるため、モデリングによるあらたな薬剤開発には有効な手法の一つと考えられ、検査法と同等に注力すべき分野だと考えられました。本学会においては、DNAを検出する際には、DNAマイクロアレイが用いられるケースが多く見られました。複数の遺伝子を同時に検出するニーズがあることが見受けられました。本プロジェクトにおいて目標としている簡便なDNAマイクロアレイ検出は本研究分野への応用した際にニーズがある可能性が示唆されました。一方、高感度な検出技術の報告は見られず、現状はそこまでの必要性がないものと思われました。日程の都合上、会期の半分のみの参加でしたが、非常に有意義なものとなりました。Oral

Poster

本研究プロジェクト分野におけるリーディングカンパニーであるC社の元役員へのヒアリングも行いました。C社のデバイスのコア技術を開発しており、技術と経営両面に精通した人物です。本プロジェクトで対象とする院内感染の重要性や現場での用いられ方を確認することができました。また、C社での経験から、どのような特徴が望まれているかをお聞きし、我々の提案を裏付けるお話をいただくことができました。現在はコンサルタント会社を営んでおり、技術にも明るいことから、競合他社についての情報も複数得ることができました。どのような観点から技術開発をすべきか、我々の強みが多種類同時検出であることなど有意義なアドバイスもいただきました。

以上より、本プロジェクトの推進において、市場や技術、競合などの有益な情報が得られたことから、当初の目的が達成できたものと考えています。

 

(NMEMS技術研究機構 田口 朋之・茂木 豪介)

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