マイクロマシンサミットは、年に1回、世界各国・地域の代表団が集まり、マイクロマシン/ナノテクノロジーに関する課題や展望につき意見交換する場です。日本の提案により1995年3月に京都で開催されたのが始まりで、以後、各国持ち回りで開催されています。新型コロナの影響で3年間延期された第26回マイクロマシンサミットが、当初の開催地であったルーマニアの首都ブカレストで、2023年5月22日(月)から24日(木)まで開催されましたのでご報告いたします。今回のトピックスは「Electronic systems: challenges and perspectives」でした。日本からは東京大学大学院精密工学専攻の伊藤寿浩教授がチーフデリゲイトとなり、マイクロマシンセンターの国際交流担当の武田と2名で参加いたしました。今回のオーガナイザーは、ルーマニアの国立研究機関のIMT(National Institute for Research and Development in Microtechnologies)のDr. Carmen Moldovanで、会場はGrand Hotel Continental Bucharest(写真1:会場のホテル外観)でした。
写真1 開催会場のGrand Hotel Continental Bucharestの外観
今回はルーマニアの隣国のセルビアが新たに加わりましたが、米国、中国、韓国等ヨーロッパ以外の国・地域からの出席者が少なく17の国・地域(オーストラリア、オーストリア、ベネルクス地区、ブラジル、カナダ、EC、フランス、ドイツ、ハンガリー、イベリア地区、インド、アイルランド、イタリア、日本、ルーマニア、セルビア、イギリス)から39名のデリゲイトの登録がありました。当日インドとドイツのチーフデリゲイト他計3名の欠席があり、36名の参加になりました(ECとフランスはオンライン参加)。最も参加者の多かったのは開催国のルーマニアで6名、次いでドイツ、イベリア、イタリアの4名でした。会場の様子及び2日目に撮影した集合写真を写真2、写真3に示します。

写真2 会場の様子

写真3 集合写真
第1日目はDr. Carmen Moldovanの開会の挨拶(写真4)の後、各国の現状を報告するカントリーレビュー10件と一般講演4件の発表がありました。2日目はカントリーレビュー6件と一般講演11件がありました。
写真4 Dr. Carmen Moldovanの開会の挨拶の様子
日本からは伊藤チーフデリゲイトから日本の半導体戦略の中でMEMSに関連する先端パッケージ戦略及びムーンライトプロジェクトやMMCが関連する国家プロジェクトの紹介がなされました(写真5:伊藤チーフデリゲイトのプレゼンの様子)。

写真5 伊藤チーフデリゲイトによる日本のカントリーレビュー報告の様子
また、武田から防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度で受託している小型原子時計の研究成果について「The development on vibration-resistant physics package for chip-scale atomic clocks」と題する発表を行いました(写真6:武田のプレゼンの様子)。

写真6 武田のプレゼンの様子
今回ホットなトピックスは半導体の供給不足を解消するために制定された米国のChips Actを受けて、EUにおいても制定された「EU Chips Act」で、EC のMS. Maloney Coletteより制度の全体的な説明がなされるとともに、フランスやイタリアのカントリーレビュー等においても、この制度を使ってSTMicroelectronicsやGlobalFoundries等の企業が各種半導体の量産工場をEUにおいて既に建設するとともに、今後EU各国において次世代半導体の拠点が形成されることが分かりました。また、イタリアにおいて現在MMCで国家プロジェクト化を進めようと検討しているEfriM(Environment-friendly MEMS : 環境調和型MEMS)と似た概念のSeed-like robots for environmental monitoringが実施されていたり、イギリスのデリゲイトとして参加されていたSouthampton大学の土屋准教授より2023年2月からリザバーコンピューティングのプロジェクトNOEMIA(Nano-Opto-Electro-Mechanical Integrated Oscillator Arrays for Energy-Efficient Physical Reservoir Computing)が立ち上がったりしていることも分かりました。さらに、ECの非営利団体でSTMicroelectronics、Bosch、Infineonをはじめとする主要MEMS企業やFraunhofer、IMEC、VTT等の主要研究機関を含む100機関程が加盟してSmart System Integrationを推進しているEPoSS(European Association on Smart Systems Integration)のDirectorであるDr. Elisabeth Steimetzより日本と先端パッケージング等で国際連携プロジェクトを立ち上げないかとの誘いを受けたことも今回のマイクロマシンサミット参加の成果としてあげられます。
テクニカルツアーとしては、5月24日にブカレストから30分程度の郊外にあるExtreme Light Infrastructure Nuclear Physics (ELI-NP)を見学しました(写真7~8参照)。ELI-NPは欧州委員会とルーマニア政府による 欧州地域開発基金(ERDF)で建設された世界で最高クラスの高出力レーザーシステム(毎分2×10PW@1ショット、2×1PW@1Hz、2×100TW@10Hパルス)を有する研究施設で、2019年から本格稼働しているとのことでした。10PWのレーザービームライン、コントロールルーム、レーザービーム利用実験室等の説明を受けました。高出力過ぎて直接MEMSに利用することは難しいと思いますが、同様の施設は中国にあるだけで、ルーマニアにある世界有数の研究施設ということで見学先に選定されたものと思います。
写真7 ELI-NPの10PWレーザーのある建物

写真8 10PWレーザー前での説明の様子
次回のMMS2024の開催月は例年通り5月に、開催地はオーストラリアのMEMSフラグシップ施設のあるパースで、オーガナイザーはWestern Australia大学のMariusz Martyniuk准教授が務めることになりました。今後もマイクロマシンサミットにおいて、世界各国のMEMS関係機関との国際交流を深め、世界のMEMSの最新動向を入手して、情報発信していきます。
(MEMS協議会 国際交流担当 武田宗久)