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2019年11月29日 (金)

IoT Solutions World Congress 2019参加報告

 20191029-31日にスペイン・バルセロナで開催されたIoT Solutions World Congress 2019(以下、IoTSWC)に参加致しましたので、ご報告します。本カンファレンスは、来場エントリ数が120ヶ国から約16,000人となる欧米最大級のインダストリアルIoTに関するカンファレンスで、インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(以下、IIC)に承認を受けたテストベッドが多数発表されるなど、欧米でのインダストリアルIoT(以下、IIoT)の技術動向調査を行ううえで最適なカンファレンスとなっています。

  現在、産業機器等から吸い上げたデータの有価情報を効率よく取り出しクラウドに送信する、超高効率データ抽出機能を有する学習型スマートセンシングシステムの研究に従事しておりますが、本研究の先端技術調査としてLbSSでは、複数社で共同推進されるIIoTの実運用に近い段階のユースケースをベンチマークとして把握し研究開発にフィードバックすべく、これまでIoTSWCへの毎年の定点観測を実施しております。

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         図1 開催地バルセロナ旧市街の街並み

 IoT分野の市場予測として、英国の市場調査会社によって算出された2024年の市場予測1.6兆円が1.3兆円に大きく下方修正されることが以前ございました。この背景としてIIoTが広まることによるベンダ・顧客へのユースケース適用への課題が双方の観点から表面化していることが考えられます。例えば、予兆保全のIoT化によってメンテナンスを自動化し、システム全体の課金モデルでリースとすることで、ユーザの投資負担は減りメンテナンスの責任を製造側に任せられる利点のほか、製造側は稼働設備のリアルタイムな分析結果をフィードバックすることで信頼性向上や長期の動作条件の中で発現する潜在的な不良原因に関して、既存機器を止めずに解析することが可能になります。しかし、予兆保全のモデルが提供ベンダのサービスで完結しメンテナンスのタイミングが顧客企業で把握しづらくなることは、現場作業者による点検と修理の自由度が下がることにつながり、ベンダのメンテナンスモデルの独占状態が大きくなるにつれて現場からの反発の声も大きくなることが考えられます。

 また国内外でビジネスを展開するうえでは、データの越境移転により厳しく制限がかかる国・地域に対して、IoTのサービスを開始するうえでのデータ主権に関する課題の解決策をベンダは十分に検討したうえで臨まなければなりません。ウェアラブルのようなIoT機器を用いて、これまでとは比較にならない高い精度で、人の行動パターンや生体情報などを取得する、あるいは、それに準じるデータを扱う場合に、プライバシー問題への懸念が高まる各国の状況に対して、法規制で要件される技術的な施策を講じたうえでビジネスを展開することは非常に難しいことだと感じます。今後は、カンファレンスにおいて技術で先行する企業や団体が、実運用の場で。こうした課題にどのように対処するかも同様に注視すべき点だと考えます。

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            図2 会場周辺の様子

 対して顧客側も、提供ベンダに依存するクローズドなシステムとは対照の、よりオープンで汎用的なIoTプラットフォームを求めることも予想されます。

 顧客はベンダ非依存のシステムを構成する際、より汎用的なインターフェースの実装を持たすべく、導入実績が多いOSSを検討することが考えられます。しかし、OSSEnd Of Life(以下、EOL)により保守が継続されないことや、インターフェースが頻繁に変更されることで他のシステムとの相互接続性が突然失われることなど懸念点が多いのも事実です。顧客側は将来に渡る継続的な互換性が担保されないなか、工場設備のようにライフサイクルが長い既存システムに、IoTシステムを連携させることで後々どのような影響が生じるか、大きな不安を抱いております。セキュリティ面を考えた場合、インターネット側と既存機器を仲介するIoT機器が踏み台として攻撃される事例もあり、OSSコミュニティのEOLにより脆弱性に関する不具合が放置されたままとなる事態はIoTシステムを構築するうえで致命的です。特に後述する風力タービンに関してはライフスパンが十年〜数十年と非常に長く、その間、IoTシステムが継続的に保守するための体制を組んでいかなければなりません。同時にFuture Proofの観点からインターフェースのメジャーアップデートにも追従し互換性を維持していかなければなりませんが、実際にはそのような追従は難しく古いOSSの脆弱性を独自に修正しつつ適用せざるを得ない状況が生じてしまう矛盾も見られます。こうしたことから、エコシステムを形成するうえでは、パートナーの協業形態が将来に渡り継続し、産業機器設備に対するIoTプラットフォームを長期的に保守する体制を保証することが鍵であり、例えばIICテストベッドのように研究からビジネスまで複数のパートナー企業が一体となり推進していくことが有利に働いていくものと考えます。

      表1 各国の講演者数 (開催プログラムより算出)

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 LbSSでは、産業機器等から取得するデータをクラウドへ送信する際に有価情報を効率よく抽出する、超高効率データ抽出機能を有する学習型スマートセンシングシステムの研究に従事しているため、本研究に関連が深いと考えられる社に関して抜粋し、ここでご報告させて頂きます。

  1社目はEdgeXとそのパートナー企業となります。EdgeXにつきましては、2017年のプロジェクトの立ち上がり時から動向を注視しておりましたが、当初の概念的な展示から一転し、2019年前半のVer 1.0となるEdinburgh(EdgeX IoTプラットフォームのリリース名)のリリースが為されたことで、ユーザ数の大きな増加が見られました。EdgeXはパートナー企業の多さもあり、制御機器側の対応プロトコルのバリエーションが豊富なことが特徴のうちの一つでありましたが、APIのドキュメンテーションが一通り揃ったことに加えて、Dockerコンテナによる配布形態を利用したことにより、ユーザによって環境構築が以前より容易になったことが大幅なユーザ数増加に繋がりました。Dockerは抽象化レイヤを多段的に介在させることで、マルチプラットフォームだけでなく、現場の異なる様々な構成例に即座に対応し運用開始までの工数を短縮できるメリットがございます。異なる現場に合わせてユーザ・開発者が専念するのはアルゴリズム開発だけであることが理想でありますが、Dockerのようにテスト環境の構築や、アルゴリズムをもつアプリケーションの入れ替えに関する手間をユーザ・開発者に意識させない工夫は、ユースケース適用先ごとにアルゴリズムのデータフローが変わるIoTシステムには必要不可欠な技術と考えます。ただ、Dockerに関しては、Linuxの機能を利用して実現する機能であるため、今後はLinux以外のOS上で数十のセンサを一度に集約する際に期待したスループットやレイテンシが担保されるかも併せて検証しておくことが必要と思われます。

 2社目はB社のIIC承認テストベッドである、風力タービンのメンテナンス半自動化デモとなります。風力タービンは、落雷、雨、湿気、急激な温度変化等の厳しい天候に晒されつつ、屋外での長い年月に渡る安定動作が求められるため、IoT化による自動化のメリットが大きな分野と言えそうです。また、調べたところによると世界の風力発電の累計導入量は約5kWに達するようであり、風力タービン全体の保守作業の短縮を考慮すると作業工数の短縮が各国の電力ビジネスに与えるインパクトも大きいことが伺えます。IICテストベッドでは、風力タービン上の傷、摩耗等、潜在的な事故要因に対する従来のメンテナンス手順に対して、ドローンとクラウドにおける画像解析を活用し、現場作業者間で均一なレベルを保つことが難しかった保守手順を自動化できたことが大きな差分となっております。簡潔に従来の保守手順の一例を説明致しますと、一台の風量タービンには3枚のブレードが付属し両面合わせて6面を保守しなければなりません。ブレード各面の点検は地上に固定したカメラで撮影した画像をもとに行いますが、これにはピッチ制御によるブレード面の反転と、ブレードの端から端をカメラの画角に収めるための回転制御が必要となります。このため、従来の人の手による保守では、一台の風力タービンにつき数時間を要し、また、ブレードの回転制御のズレでカメラの撮影点が前後で重なり傷・摩耗の誤カウントを引き起こすことなど、点検精度のばらつきも課題になっておりました。一方、IICテストベッドでは、ドローンをブレード面に対して並行に飛ばすための軌道を予めインプットしておくことでメンテナンスに必要なピッチ制御と回転制御の手順の数を抑え、撮影したブレード面の映像をクラウドのAIが画像判定することで点検作業が従来の数時間から僅か1520分に短縮できるようになったとのことです。

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            図3 講演会場の様子

[所感]

 今回の調査で感じたことの一つに、IoTプラットフォームのエッジコンピューティングに関する必要な技術がカンファレンスで出揃ってきたことがございます。会場では12ドルといった評価ボードも登場しており、簡単なユースケースに対しては十分な性能を発揮するようにも感じました。また、会場ではエッジコンピューティングの適用として、テストベッドにエッジでの画像認識システムを連携させる例が多かったことがございます。画像認識処理でスループットを上げるにはGPUを要するケースもあり、低価格ボードでは精度の高い画像処理など難しい面がありますが、センサデータの一次解析や、ノイズの除去などには一定の効果を発揮するものと思われ、こうした低価格なボードを用いシステムを多段的に組んでいくことで上位のシステム構築の費用を大きく削減していけるものと考えます。

先に挙げたように、顧客側のユースケースによってはクラウドのほか、オンプレミスや、場合によってはエッジ単体での運用もあり得ます。ユースケースにより様々なシステム構成を各々実装するやり方もあり得ますが、本来であれば不必要なコストを掛けることは望ましくない為、各機能を細かな単位で多段的に抽象化することで、構成例に合わせてどのような性能であっても動作できるよう状況に合わせて機能を選択できるようにする仕組みが必要となりそうです。

 今後もこうした技術動向調査で得られた知見をベンチマークに、研究開発を進めていきたいと考えております。次回のIoT Solutions World Congressは、20201027日〜29日に開催が予定されております。

技術研究組合NMEMS技術研究機構 研究員 相見 眞男

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