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2019年9月24日 (火)

TIA連携大学院サマーオープンフェスティバル:第32回MEMS講習会及び第3回学生・若手研究者向けMEMS講座の報告(9月3日)

 2019年9月3日(火)に東京大学工学部5号館56号講義室において、午前・午後の2部制で、第3回学生・若手技術者向けMEMS講座(午前)及び、第32回MEMS講習会(午後)を開催致しました。MEMS講習会は、MEMS協議会に所属するMEMSファンドリーネットワーク企業を中心に企画し、都内と地方都市で年に1回ずつ開催しています。都内でのMEMS講習会が、TIA連携大学院サマーオープンフェスティバルのプログラムとなったのを受け、学生・若手技術者向けMEMS講座も併せて開催しており、講師の方も含めて総勢63名(学生5名)が熱い討論を繰り広げました。今回のプログラムは、次世代医療技術研究会(東京大学)と4大学連携ナノ・マイクロファブリケーションコンソーシアムと共催させていただくことで、TIA連携大学院のプログラムに相応しい学生に寄り添った企画になったのではないかと考えております。

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写真1.講演会会場の様子

 午前中に開催いたしました第3MEMS講座では、企画を取り纏めたMEMSファンドリーネットワークの浅野委員長の挨拶の後、2つの講座を行いました。まず、最初の講座は、東京大学の三宅亮先生より「マイクロ化学システムの高度化のためのマイクロ流体回路解析・設計技術」と題しまして、マイクロ流体の基礎から最新の研究成果までをご講義いただきました。初心者向けにマイクロ化学・流体の基礎に軸足を置いていただいたため、最新の研究成果をもっと詳しく聴きたいという聴講者もいらっしゃったかと思います。特に実機での検証を通して確立された流体回路解析技術は、システム要素間の干渉などの推定を可能としており、システムへ組み込んだリアルタイム制御などの新たな可能性を示した大変興味深い内容でした。今回の講座を機会として、マイクロ化学・流体の分野に興味を持っていただき、研究室の扉を叩いていただければと考えております。

 続いての講座は、慶応義塾大学の田口良広先生より「光MEMSを用いた熱流体システムデザインとバイオ応用」と題しまして、光MEMSを用いた拡散係数計測技術を中心にご講義いただきました。バイオ分野などでは、非測定対象からのノイズを抑制するために微粒子表面を修飾することがありますが、それが微粒子の拡散係数に影響を与えるため、設計時と異なる現象が発生することがありました。田口先生の研究されている熱駆動MEMSミラーを用いた光干渉式マイクロ拡散センサは、表面状態や粒子径に依存する拡散係数の計測を簡単にすることができ、精度の高いシステム設計を可能とします。微粒子が関わる技術分野は多く、様々な応用展開が期待されるため、今後の研究成果が気になる講座となりました。

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写真2.東京大学 三宅先生

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写真3.慶応義塾大学 田口先生

 昼休みを挟みまして、午後からは第32MEMS講習会「超高速・多数同時接続・超低遅延の5G時代が求めるエッジデバイス:―5Gは社会をどう変革していくのか―」を開催いたしました。本講習会は、5Gが生み出す新たな可能性につきまして、その特徴である「超高速」「多数同時接続」「超低遅延」の3つの観点からプログラムを構成いたしました。

 講習会では、主催の一般財団法人マイクロマシンセンター専務理事長谷川英一の挨拶のあと、1件目の特別講演として、日本電気株式会社のネットワークサービスビジネスユニット新事業推進本部の藤本幸一郎様より「社会変革をもたらす5G -革命的技術が切り拓く未来-」と題して、ご講演いただきました。5Gは、現在の4Gの技術的延長に留まらず、非連続・革新的な技術として社会に貢献していくものであり、AI/IoTによる「人」「モノ」「コト」の時代への変化をもたらしていくそうです。この社会の革新をもたらす「超高速」「多数同時接続」「超低遅延」という特徴は、一つのシステムで実現するものではなく、複合的なネットワークにより構築されていくようで、用途に応じたシステム構築を必要としているとのことです。また、NECが様々な事業分野での協業で進められている実証実験のご紹介があり、エンターテイメントだけでなく、地域の見守りや遠隔診療、人がいけない場所での遠隔作業など、IT技術で生活のあらゆる面を向上させていくデジタルトランスフォーメーションの一端を垣間見ることができました。4GWiFiなど各種通信手段の急速な発展により格段に便利になっている日常の中で、5Gで何が変わるのかがピンと来ていませんでしたが、その革新技術のポテンシャルの高さを認識することで、5Gに対する期待とともに新たなビジネスチャンスの息吹を感じさせられるご講演となりました。

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写真4.日本電気株式会社 藤本氏

 次に、古野電気株式会社の酒井暢之様より「5Gを支える社会基盤 -高精度時刻同期への取り組み-」と題して、高精度時刻の重要性についてご講演いただきました。スマートフォンなど移動体通信機器は、基地局を経由してお互いに繋がっていますが、それを使っている人が移動することで、それまで繋がっていた基地局から別の基地局への切り替えが必要になります。しかし、受け渡しをする基地局間の時計が合っていないと切り替えができないため、GNSS(Global Navigation Satellite System)などを利用して時計合わせをしています。古野電気は、このGNSS受信チップの国内最大手であり、5Gを支える高精度時刻同期網の一翼を担われておられます。ご講演では、基地局だけでなく、放送局や変電所など、我々の日常に溶け込んでいる様々な事業分野へ拡大していく高精度時刻の用途につきまして、ご紹介いただきました。このように高度情報化社会の根幹をなす高精度時刻だけに、ひとたびトラブルが発生すれば社会的損失も甚大になります。そのため、GNSSからの高精度時刻の安定供給を担保する技術が必要であり、雷等の自然現象だけでなく、ジャミングやスプーフィングなど人的災害への対策や、トラブル発生時のホールドオーバー機能の強化にも取り組まれているとのことで、人知れず社会を支えている技術集団がいることを改めて認識するとともに、高度情報化社会で生きていく我々にとって、今後の動向が気になるご講演となりました。

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写真5.古野電気株式会社 酒井氏

 ここで休憩を挟みまして、「5Gによる革新に向けた取り組み」に関する3件のご講演をしていただきました。最初のご講演では、慶応義塾大学大学院の南澤孝太教授より「超低遅延が実現する距離のゼロ化 -Haptics(触覚)による人の境界線の拡張-」と題しまして、触覚伝送が切り拓く様々な可能性について、ご講演いただきました。触覚は、モノとヒト、自己と環境、自己と他者など、様々な関係性に大きく関わる感覚であり、この情報を伝送できるようになれば経験の共有という新たな可能性が拡がります。これまでに計測・伝送・提示された感覚情報は、視覚の赤・緑・青の3原色などでしたが、経験の共有に向け、力・振動・温度を3原触とした触覚のフルカラー化に取組まれているとのことです。個人的には、触覚は自己の境界を認識する感覚であり、3原触を伝送できるようになれば、人の境界は無限に拡がっていくという話が印象深かったです。これは遠隔診療や遠隔作業だけでなく、直接逢うことが難しい人との経験の共有手段となる可能性を示しており、特に孫の結婚式に出席できない祖母に、孫に直接逢って「おめでとう」と伝えたかのような経験を与える試みは、大変印象に残りました。ロボットなど産業の高度化だけでなく、人々のQOL向上に寄与できる技術としても期待が膨らむご講演となりました。

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写真6.慶応義塾大学 南澤先生

 2つ目のご講演は、株式会社テクサーの朱強代表取締役社長より、「IoT普及への鍵となるか -ZETAの挑戦-」と題して、LPWA(Low Power Wide Area)の一翼を担うZETAについてご講演いただきました。ZETAの特徴は、超狭帯域による多チャンネル通信、メッシュネットワークによる広域分散アクセス、低消費電力双方向通信の3つで、そのアライアンスにはNTTドコモやソフトバンクなどのキャリアーも入っているそうです。ZETAは、世界のLoRa市場の半分を占める中国での導入が進んでおり、既に上海などで大規模メッシュネットワークが構築されています。国内では、アライアンス企業が、鉄道や農業、スマートビルディングなど様々な事業分野でWG活動を進めており、そのいくつかをご紹介いただきました。個人的に興味深かったのは、低ビット画像データをAIで解析することで人・モノの位置情報のみを価値として提供するIoTカメラです。プライバシーを守りながら待機列の長さや空席情報などの情報を数年間にわたり単三電池で提供できるサービスとして注目されます。また、メーター検針のカメラによる自動化も実現しており、低消費電力無線通信技術の可能性の広がりを感じました。昨今の高画像データのAI分析とは逆を行っており、その発想の柔軟さに眼から鱗の思いでした。このZETAが、日常の様々な不便を解消し、人々のQOLを向上させてくれることを期待させるご講演でした。

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写真7.テクサー 朱氏

 最後のご講演は、東京大学地震研究所の中川茂樹准教授より「5Gが切り拓く地震防災・減災-地震発生メカニズムの解明と予測精度向上への挑戦」と題して、地震観測のご講演をしていただきました。日本には地震観測点が1600ヶ所以上あり、鉄道や自動車などノイズ源の多い首都圏では地下20mに地震計が設置されているそうです。地震観測点は、地震計(含むAD変換)とGNSS(高精度時刻)、通信、電力などから構成されており、山岳部等のは電源確保が難しい地域では、太陽電池などが利用されているようです。この観測点で使われている地震計は機械式で、短周期タイプや広帯域タイプなど地震観測に適したものが使われているそうですが、自動車やスマホなどに搭載されているMEMS加速度センサは使われていないとのことです。これは地震計に求められる長期安定性やノイズレベルなどの仕様を満たしていないためですが、MEMS加速度センサの性能も年々向上しており、その最新技術を導入することで建造物やライフラインなど広範な施設から地震計測ビックデータを収集できるようにし、それに基づくインテリジェント地震波動解析などによる地震観測・予測の質の向上を図ろうとされているとのことです。この動向は、MEMS加速度センサのような安価なセンサからのデータであってもビックデータとして解析することで、どんなに正確なデータでもデータ数が少ないために見出せなかった知見などを得られる可能性を示しており、今後のMEMSセンサの活用法の在り方を考えさせるご講演となりました。

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写真8.東京大学地震研究所 中川先生

本講習会の終了後には、講師の方々を囲んだ意見交換会を開催し、講習会での質疑応答では足りなかった時間を補って余りある有意義な時間を過ごせたのではないかと思います。最後に、ご講演者を始め、ご参加・ご協力いただいた全ての方々のお陰で有意義な時間を持てたことに対して、御礼申し上げます。

(産業交流部 小出晃)

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