MNE2018出張報告
2018年9月24〜27日にデンマーク・コペンハーゲンのBella Center Copenhagen会議場で開催されたMNE2018(THE 44TH INTERNATIONAL CONFERENCE ON MICRO AND NANOENGINEERING)に参加し、”All-sapphire Cs gas cell for miniature atomic clock fabricated using Au thin-film bonding”と言うタイトルでポスター発表によりRIMSのサブテーマである“センサ端末同期用原子時計(ULPAC:Ultra-Low Power Atomic Clock)の研究開発”の成果アピール及び講演聴講により原子時計のガスセルに必要な微細加工プロセス及び周辺技術の調査を行った。
MNE2018は1975年にイギリスのケンブリッジではじめて開催されて以来、南欧と北欧とで交互に毎年開催されており今年で44回目となる。プレナリーセッションでは6件、招待講演が17件、オーラル発表が102件、ポスターセッションは325件の発表があった。参加国数は39ヵ国であり、参加者数を国別に見ると、ドイツ(120名程度)、開催国であるデンマーク(100名程度)に次いで、日本(60名程度)は3番目に多かった。主にマイクロ・ナノ構造やデバイスのプロセスに関する会議であり、1)作製方法・プロセス、2)デバイスやシステムの作製と集積化、3)物理・化学応用、4)生命科学応用の、4つのトピックから構成されており、プレナリーセッションとポスターセッション以外、3セッションが並列に行われた。本国際会議に参加することによりこうした関連のトレンドをいち早く入手出来る。
また、学術的な講演だけでなく学会会場内には世界中のMEMS等微細加工のプロセスメーカーの展示ブースがあり、最新の装置の情報等を入手することも出来た。
初日の午前中に1時間半のポスター発表を行った。発表内容は、小型原子時計用のガスセル製造プロセスとCPT共鳴評価に関してである。これまでの小型原子時計用のガスセルは陽極接合法によりSiとホウケイ酸ガラスとを気密封止接合されていた。しかし、従来のガスセルでは、バッファガスがホウケイ酸ガラスから透過してしまい長期的な安定性が課題であった。我々は今回、ガス透過性が低い材料であるサファイアを世界に先駆けてガスセル材料と考え全てサファイアによるガスセルを実現した。サファイア同士の気密封止接合を図る際に薄膜Auを接合材として用いた。まず、サファイアの接合する面に対して下地膜Ti、下地膜とAu薄膜との間のPtバリア層、薄膜Auの順にイオンスパッタ成膜を施した。気密封止接合時は200℃程度の高温脱ガス処理を施した後にバッファガス中で気密封止接合し、最終的にはCPT共鳴測定を行ったところまでを報告した。発表中は常に参加者からの質問やディスカッションで時が経つのを忘れるくらいであった。具体的質問内容は、脱ガス時高温となるため薄膜Auと下地膜Tiの拡散を防ぐためにPtバリア層を挿入しているが、このバリア層の材質・膜厚や加熱温度・時間などに関しての質問やコメントが多かった。また、質問者のほとんどは原子時計に関してある程度の知識があると思われ、背景などはあまり説明を求められず核心部分からのディスカッションが中心であった。 一番印象に残った講演の概要について下記に紹介する。 “Self‐assembled microtubular devices: From energy storage to cellular cyborg machinery” Oliver Schmidt, (Chemnitz University of Technology, Germany) 本講演は最近話題になっている折り紙MEMS技術によるドラッグデリバリーMEMSへの応用に関しての発表であった。本技術によるMEMSを使うことで液体中の微小物体を捕獲し、それを細胞などまで移動することができ、将来的にドラッグデリバリーに応用が可能とのことであった。液体中で自由に移動するには推進力と方向転換の2つの原動力が必要となるが、推進力に関しては触媒反応により気体を発生させ、方向転換には外部磁場により実現していた。発表では、実際に動物の精子を卵子まで移動させて透明帯を突き破る様子をデモしていた。今回の出張を通して、我々の研究のアピールをすることが出来ただけで無く、これからの研究につながる有用な情報を得る事が出来たことからも、大変有意義な出張であったと言える。
| 固定リンク
« 【2018年9月の経済報告】 | トップページ | 標準化への貢献により鈴木雄二氏(東京大学教授)が、経済産業省 工業標準化事業表彰・産業技術環境局長表彰(国際標準化貢献者)の表彰、ならびに、IEC1906賞の表彰を受賞 »
「Pj 原子時計ULPAC」カテゴリの記事
- 第3回SSN-WG3交流会「高精度時刻の社会実装の意義と課題」(2月5日)開催報告(2020.02.25)
- 第2回SSN-WG3交流会「高精度時刻の社会実装の意義と課題」(10月9日)開催報告(2019.10.23)
- 2018年MMC十大ニュース決まる(2019.01.04)
- MNE2018出張報告(2018.09.27)
- MEMSセンシング&ネットワーク展2018 2日目(2018.10.18)
コメント