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2017年9月15日 (金)

IWSHM2017 出張報告

 9/11~14に開催された、International Workshop on Structural Health Monitoring(IWSHM)2017に参加した。IWSHMは、隔年で開催される、構造物のヘルスモニタリング(SHM)に関する国際会議で、毎回、米国カリフォルニア州パロアルト市にあるスタンフォード大学で開催されている(写真1~写真4)。Boeing社やAirbus社などの航空業界の企業が出資しており、航空機に関連するヘルスモニタリングを中心に幅広いトピックの講演が行われる大規模な学会である。

 今回の参加者は37か国から約600名とのことで、9件のkeynote presentation、337件の一般講演(10セッションパラレル)、49件のポスター発表が行われた。セッションの内訳を表1に示す。セッションのタイトルから筆者がおおまかにまとめたものである。どの講演も基本的に複数の分野にまたがった内容であるため、実際には各分野に属する講演はこれより多い。セッションタイトルとしては、AE(Acoustic Emission)を含む弾性波や振動を扱うものと、診断や予防保全に関するものが多く、特に航空機に使用される複合材料の損傷検知技術としてAE計測が期待されているようであった。具体的な技術としては、流行りであるAI技術の適用を試みるものが多かったが、特定の実験環境で学習するものが多く、実環境で同じ学習や診断ができるか、といったところは検討を要する。パネルディスカッションでは将来の方向性などが議論され、点検の自動化と、計算機上で構造物や環境を再現する大規模シミュレーションによる挙動予測へと向かう技術開発のトレンドがうかがわれた。

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写真 1 講演の行われた建屋(スタンフォード大学)

表 1 セッション内訳
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写真 2 メイン会場のHewlett Auditorium

 今回、RIMSで扱っているAE技術に関する講演を中心に聴講した。聴講した中から主な講演について以下にいくつか紹介する。

“Two-year Acoustic Emission Monitoring of Natural Corrosion in Prestressed Concrete Exposed to Saltwater” (W. Velez, Thayer Associates/ P. Ziehl, Univ. of South Carolina, 他)
 PCケーブルの腐食を2年間にわたってAE計測した事例の紹介であった。ケーブルのストランドの内側の腐食はコンクリートをはつって目視点検してみても分からないが、AEのエネルギーを用いた指標によって、電気化学的な手法より先だって発見できるとのこと。ただし、データの推移を後から見れば、腐食の兆候が見られるものの、モニタリングしている段階のリアルタイムのデータのみから腐食の兆候だと判断するのは難しく、アルゴリズムの開発が必要とのことであった。診断指標の性能を判断するのに参考になる。

“Source Identification and Classification of Acoustic Emission Signals by a SHAZAM Inspired Pattern Recognition Algorithm” (N. Facciotto, 他 Univ. of Bologna)
 音楽の断片から曲名を推測するアプリであるSHAZAMのアルゴリズムを応用して、AE波形からAE源の種類を推測する手法を提案した。元々ノイズの多い入力から曲名を推測するアルゴリズムであるため、AE計測との共通点はあるように思う。AE源による分類ができれば、AE分析の精度を改善できそうである。同じAE源の場合でも、センサの状況やAE源の場所等によっても波形が異なると思われるので、そこを吸収しつつ分類できるか興味深い。

“Characterization of Distributed Cracks in Concrete using Randomly Scattered Wave field Extraction” (H. Song, 他 Univ. of Illinois)
 ASRなどによるコンクリート表層部の劣化を非接触の超音波発振器とマイクにより、表面波の伝搬と反射や散乱を計測して検出する。波の伝搬を周波数―波数空間で表現し、健全な時の骨材等による散乱成分をフィルタリングすることにより、クラックによる散乱を抽出できる。非接触ということでSNRが悪く、100回のスキャンを平均化する必要はあった。樹脂の欠片を混ぜて損傷を模擬した供試体では、位置はそれほど正確でないものの、損傷度合に応じた分析結果が出ていた。講演では、マイクロクラックが実際に弾性波伝搬へ影響している様子が示されており、AEの伝搬を推測する参考になった。

(株式会社東芝 高峯英文)

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写真3 ランチ / コーヒーブレイク 会場

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写真 4 ポスターセッション会場

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