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2017年8月28日 (月)

TIA連携大学院サマーオープンフェスティバル:第28回MEMS講習会&第1回学生・若手研究者向けMEMS講座開催の報告

 2017年8月24日、25日の両日に、国立研究開発法人産業技術総合研究所において、第28回MEMS講習会及び第1回学生・若手技術者向けMEMS講座を開催致しました。MEMS講習会は、MEMS協議会に所属するMEMSファンドリーネットワーク企業を中心に企画され、都内と地方都市で年に1回ずつ開催していますが、本年度は都内開催に替わり、TIA連携大学院サマーオープンフェスティバルの一環として、つくばで開催いたしました。また、TIA連携大学院ということで、学生・若手研究者向けMEMS講座も初めて開催し、両日で44名(学生1名)の聴講者を迎え、総勢58名が、IoT社会で求められるMEMSとは何かについて、活発に討論いたしました。

 24日の第28回MEMS講習会では、「IoT社会で求められるMEMSとは」と題して、IoT活用事例の紹介からIoT社会を支えるセンサやフィルタ、スイッチなどの部品までを網羅したプログラム構成といたしました。主催の一般財団法人マイクロマシンセンター専務理事長谷川英一の挨拶のあと、1件目の特別講演として、新世代M2Mコンソーシアム理事の木下泰三氏より、「トリリオンIoTと先端技術・事例動向」と題して、ご講演いただきました。


写真1 講演会場の様子(主催者挨拶)

 木下氏は、最近まで日立製作所に在籍されており、日立での社会インフラへのIoT活用事例を中心に、その基盤を担うセンサ・電源・通信に関する技術や規格などもご紹介いただきました。道路や鉄道、ビル、発電設備など、様々な社会インフラ分野で導入が試みられていますが、その導入が進むかは、通信費も含めたコストの低減が重要だそうです。また、現状では、IoT導入の効果の検証から始めなければならないことが、導入の障害となっており、先行する企業が検証した効果を共有化する仕組み作りが重要になると感じました。


写真2 特別講演1 木下氏

 続きまして、2件目の特別講演として、東京エレクトロンデバイス株式会社のアナログ・デバイセズ社製品セールスグループの増田祐一氏より「MEMSデバイスを鍵とするIoT社会で目指す安心/安全な社会」と題して、ご講演いただきました。ご存知の通り、アナログ・デバイセズ社は、これまでに100億個を超えるMEMSデバイスを出荷している大手であり、RFスイッチを製品化した数少ない企業としても知られています。アナログ・デバイセズ社のRFスイッチは、従来のRFリレーに対して、容積で95%、電力で90%を削減し、スイッチングスピードで30倍、寿命で10倍を達成しており、計測機器の小型化などに貢献しているとのことです。また、IoT向けのセンサとして、FFT処理をしたデータを出力する3軸加速度センサなどもご紹介いただきました。IoT社会に向け、単に計測するだけのセンサからユーザーの用途に応じたデータ処理までしてくれるセンサへと進化しているようです。これは、伝送するデータの圧縮だけでなく、IoT社会で増える技術者以外のセンサ利用者にとって、センサ利用の敷居を下げてくれるコンセプトかと思います。今後のアナログ・デバイセズ社のIoT向けセンサに注目していきたいと感じさせてくれるご講演でした。


写真3 特別講演2 増田氏

 ここでいったん休憩を挟み、休憩明けからは一般講演3件と、ファンドリーサービス産業委員会からの各社サービスを4件、ご紹介させていただきました。最初の一般講演では、太陽誘電株式会社の上田政則氏より、「無線通信システム用RF弾性波デバイスの開発」と題して、スマホなどに多数搭載されているFBAR/SAWデバイスの最新動向をご講演いただきました。現在の主流は、SAWデバイスですが、IoT社会で求められる高速・大容量通信には、ロールオフ特性に優れるFBARが適しており、その更なる性能改善に向けた圧電薄膜の研究成果など、IoT社会に向け進展する最先端の技術もご紹介いただきました。SAWデバイスを手掛ける企業は多いですが、FBARを製品化している企業は少なく、今後のIoT社会でのご活躍が期待されるご講演となりました。  


写真4 太陽誘電株式会社 上田氏

 次に東京エレクトロンデバイスの倉田伸一氏より、「低消費電力・高信頼性無線技術を応用したモニタリング事例」と題して、ご講演いただきました。IoT社会では、あらゆる物にセンサが組み込まれ、その情報を基にシステムの最適な運用を目指しますが、その中でも重要性が高いインフラストラクチャモニタリングを中心に、適用事例をご紹介いただきました。構造物のモニタリングで求められるのは、低ノイズ・低周波観測が可能な加速センサと、切れない低消費電力無線とのことです。ご紹介いただいたDustNetworksは、電池駆動できる無線メッシュネットワークで、極めて正確な時計を元にした駆動時間管理で最小消費電力にするとともに、複数の通信路を確保する空間冗長性と15chのチャンネルホッピングによる周波数冗長性、繋がるまで送信を行う時間的冗長性により、切れない通信を実現しているそうです。電池で数年間駆動できるそうですが、環境発電とバッテリーとの組合せにより駆動することも可能とのことです。現状のインフラストラクチャモニタリングは、主に有線で行われていると思われますが、低消費電力なセンサと無線技術の進展により、無線化することによる普及が待たれます。


写真5 東京エレクトロンデバイス 倉田氏

 一般講演の最後は、大阪ガス株式会社の木村浩康氏より、「大阪ガスの法人向け簡易計測・お知らせサービス」と題して、ご講演いただきました。大阪ガスでは、これまでもエネルギーの見える化サービスを展開しており、そこでの経験を基に、簡易計測・通知サービス「ekul」を立ち上げたとのことです。従来のサービスに対しては、導入してもデータ管理など運用方法がわからないなどを理由に、導入を躊躇する企業が多かったため、大阪ガスが計測からデータの見守りまでを代行するサービスとすることで、運用面だけでなくコスト的にも導入しやすいサービスとしたそうです。このサービスでは、ガス・電気のエネルギー監視だけでなく、水道や来客数など、ユーザーの要望に応じて計測項目を増やすことが可能で、そこから得られる複合データを処理することで、新たな価値創造を目指しておられるそうです。多くの企業との連携も視野に入れて取り組まれており、今後の進展に注目したいと思います。


写真6 大阪ガス株式会社 木村氏

 MEMSファンドリーネットワークからは、4件のファンドリーサービスをご紹介させていただきました。最初にファンドリーサービス産業委員会の浅野委員長より、「MEMSファンドリーネットワークとサービスのご紹介」と題しまして、MEMSを開発したい企業を支援するMEMStationなどの取り組みをご紹介いたしました。所属機関からは、最初に、産総研の設備を運用してMEMS開発を支援するMNOICについて、MNOIC開発センターの渡辺氏より、「MNOICが提供するMEMSオープンイノベーション」と題して報告し、大日本印刷株式会社の中本氏より「大日本印刷MEMSファンドリーご紹介」、株式会社メムス・コアの慶光院氏より「メムス・コアのビジネス」と題し、得意とする技術について報告いたしました。本講習会の終了後には、会場を移動して意見交換会を開催いたしました。別会場ではありましたが、多数の参加者に足を運んでいただき、講習会での質疑応答では足りなかった時間を補って余りある有意義な時間を過ごせたのではないかと思います。最後まで活発な意見交換をされていた参加者には申し訳ないと思いつつ、翌日のMEMS講座に備えて、早めのお開きとさせていただきました。

 25日は、第1回目となる学生・若手技術者向けMEMS講座「企業の開発事例に学ぶMEMS」を開催いたしました。このMEMS講座では、ファンドリーサービス産業委員会に所属する企業などでのMEMSデバイスの開発事例を中心にプログラムを構成いたしました。

 まず、国立研究法人産業技術総合研究所からは、集積マイクロシステム研究センターの廣島洋センター長より、「産総研集積マイクロ獅子テム研究センターのMEMS技術」と題しまして、ご講演いただきました。集積マイクロシステム研究センターには、6つの研究組織があり、MEMSの基礎研究から実用化研究まで、幅広い研究をされています。センターには、日本のMEMS開発の中核拠点として整備された8・12インチ対応のMEMS研究設備が揃っており、その設備を企業が利用できる仕組みも整備されています。国のプロジェクトへの参画も積極的に進めており、様々なセンサの開発事例をご紹介いただきました。これまでの研究開発で培ったノウハウを基に企業支援を積極的に進めており、MEMSデバイスの研究開発を進める企業にとっては、頼もしい存在だと感じました。


写真7 国立研究開発法人産業技術総合研究所 廣島氏

次に大日本印刷株式会社の浅野雅朗氏より、「ガラス基材を用いたMEMS加工技術について」と題して、ご講演いただきました。大日本印刷は、日本のMEMSファンドリー企業の老舗的存在で、様々なMEMSデバイスの受託生産をされて経験をお持ちですが、本講演では、ガラスインターポーザ―について、ご紹介いただきました。ガラスインターポーザ―は、IoT時代の高周波デバイスに対応した技術として期待されており、今後の展開が期待されます。 
引き続き、富士電機株式会社の古田稔貴氏より、「電池駆動可能な低消費電力ガスセンサの開発」と題して、ご講演いただきました。富士電機では、コンポーネント・システムの価値を高めるセンシングの実現にMEMS技術を活用されており、特徴あるセンサの開発を進めておられます。これまでに、様々な用途に応じた仕様のセンサを開発して機器に組み込んでこられましたが、今回ご講演いただいたのは、ガス警報器への組込を目的に電池駆動を可能とする超低消費電力なガスセンサの開発事例です。これまでのガスセンサは、消費電力が大きいためにコンセントからの電力供給を受ける必要がありましたが、その消費電力を1/1000の0.06mWに低減することで、電池駆動型ガス警報器の製品化を実現したとのことです。現状では、メタンガスしか検出できませんが、この技術をベースに多成分ガス検出の可能性を見出しており、今後の技術展開から目が離せないご講演となりました。

 ここで休憩を挟み、休憩明けからは株式会社日立製作所の青野宇紀氏より、「2種類の圧力チャンバを有する1チップ複合センサの開発」と題して、ご講演いただきました。加速度と角速度センサを混載した複合センサの開発に当たり、その駆動原理から各々を異なる圧力で気密封止する必要に迫られ、技術開発に取り組まれたそうです。二つのセンサを別々に作製すれば良いのではとの質問もでましたが、高感度なセンサを角度や位置を調整して組み立てるのは難しく、こちらの方が低コストにできるそうです。接合時の温度と加圧圧力を制御することで、同一ウエハ内での2段階の気密接合を実現しており、大変興味深いご講演でした。

 次に、みずほ情報総研株式会社の岩崎拓也氏より、「MEMSデバイスの開発に最適化した設計・解析支援システムMemsONE」と題して、ご講演いただきました。MEMSデバイスの開発に、様々な企業が参入してきたことを受け、異分野の企業の技術者でも容易にMEMSデバイスを設計できるツールをコンセプトに、大学や企業など21組織が参画して総事業費16億円を投入したNEDO委託事業の成果とのことです。マルチプロセス・エミュレーターを駆使することで、MEMSのプロセスを知らなくてもMEMSデバイスの設計ができる点を特徴とし、大学やファンドリー企業などが構築したデータベースを基にデバイスの性能などを解析できるようになっています。国内のファンドリー企業も協力して開発したシステムのため、そういったところを利用する場合に、強力なツールになるのではないかとの印象を受けました。

 午前中の最後は、株式会社メムス・コアの慶光院利映氏より、「メムス・コアのビジネス」と題して、ご講演いただきました。国内では珍しく技術開発も請け負うファンドリー企業であり、その技術開発のために東北大学を始めとした様々な組織とネットワークを組まれているため、その技術範囲を把握するのが難しい企業でもあります。セット・システムメーカーを顧客とし、メムス・コアで開発するMEMSデバイスを核として、協業企業とともに顧客の要望に応じた製品を納品する体制を組まれておられます。今回のご講演では、特徴的な技術として、ステルスダイシングをご紹介いただきました。ブレードダイシングやレーザ加工と異なり、完全ドライで発塵や欠けの無い切りシロゼロのダイシングが可能で、切断後に応力が加わるようなデバイスや微小なデバイスなどに適した手法と言えます。このご講演を聴講して、MEMSには興味はあるが、その作り方が分からないといった新規参入企業には、強い味方になるという印象を受けました。

 ここで少し長めの昼休みに入り、午後からのMNOIC見学会へ備えました。午後の最初は、MNOICの原田武氏より「大面積圧電薄膜形成技術を核とした圧電薄膜MEMSの開発」と題して、ご講演いただきました。MNOICは、日本初の本格的なMEMSオープンイノベーション拠点であり、2011年より稼働しております。最高水準の設備・装置群が利用可能で、多彩な研究支援サービスを提供しており、最近では少量量産までは対応して貰えるようになりました。今回のご講演では、そのMNOICが有する技術の一つであるAlN圧電膜を利用したMEMSデバイスの開発事例をご紹介いただきました。産業機器の振動を利用して発電する圧電デバイスを利用した振動モニタリングシステムを開発しており、その感度向上のためにScを添加したScAlN膜のプロセスの確立を進めているとのことです。8インチオールドライの一貫プロセスで製作しており、振動の減衰を抑えるための真空封止をウエハレベルパッケージプロセスで実現するなど、後ろ盾として産総研が控えているだけのことはあり、技術力の高さが印象的でした。

 最後に、MNOICの見学会を実施いたしました。参加人数が多かったため、残念ながらクリーンルームに入ることはできませんでしたが、クリーンルーム内の見学コースをビデオ撮影した映像を拝見しながら説明を伺うことで、クリーンルームに入ったかのような体験をすることができました。また、8・12インチ対応の大きな設備を窓越しに見学するだけでも、その迫力を感じ取ることができたのではないでしょうか。MNOICは、研究支援だけでなく、ファンドリーサービスを実施しており、大変多忙を極めていると伺っておりますが、その中で丁寧にご対応いただいたことに感謝したいと思います。


写真8 MNOIC見学会

 最後に、2日間の全ての日程を無事に終えることができましのも、ご講演者を始め、ご参加・ご協力いただいた全ての方々のお陰であり、御礼申し上げます。

(産業交流部 小出晃)

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