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2016年11月 2日 (水)

IEEE Sensors 2016参加報告(1)

 1999年に設立されたIEEE Sensors Councilが、センサ、およびその関連技術に関する最も主要な国際会議として2002年より毎年開催しているIEEE Sensors 2016に参加し、RIMSの研究開発で得られた成果を発表するとともに関連研究の動向調査を行ってきた。

 第15回となる今回は2016年10月30日(日)から11月2日(水)を会期として、アメリカ・オーランドのCaribe Royale Hotel and Convention Centerで行われた。

 投稿論文数は1049件で、これは2010年以降の同学会の中では2番目に多い数であった(1番は2010年にハワイで開催された回で1082件。今回もそうだが、リゾート地で開催されると投稿数が伸びる傾向は否めない)。採択論文数は口頭発表が198件、ポスター発表が420件で、採択率は例年と同様に6割以下であった。基調講演は、アメリカ国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency, DARPA)のTroy Olsson氏の”Event Driven Persistent Sensing: Overcoming the Energy and Lifetime Limitations in Unattended Wireless Sensors”と題した、IoTを実現するための10nW以下の超低消費電力デバイスによるネットワークシステムに関する試み、シンガポール国立大のChwee Teck Lim教授の”Highly Flexible and Wearable Microfluidic Sensors”と題した、液体状の導電性材料とエラストマーで構成されたウエアラブル向けのフレキシブルセンサに関する内容、オランダ・トゥウェンテ大のPaul Havinga教授の”Pervasive Systems, Sensor Networks, IoT – Animal monitoring and poacher detection using wireless sensor networks”と題した、センサネットワークを駆使した密猟からの動物の保護に関するアプローチの3件、招待講演は筆者の発表も含めて18件であった。

 本年も昨年に引き続き、Live Demoという試みが行われていた。これは、ポスターセッション会場に、希望した研究者がセンサなどのデモ機を持ち込んで展示するシステムであり、聴講者に対してデモ機を交えてより具体的な説明が可能となっていた。
 また、これも昨年からの引き続きで、各セッションの座長とそのセッションでの口頭発表者が朝食をとりながら打ち合わせをできる時間が毎朝設けられていた。フランクな場で事前に座長に自身の研究背景や内容の理解の助けとなる説明をできるため大変重宝した。
 さらに、本学会は複数会場でのパラレルセッションで進行されるため、聴講したい発表が同時刻に重なった場合を考慮して、発表者のスライド資料と音声は録画・録音されており、本人の承諾を得られた発表に関してはWebで有料公開している(学会参加者は、会期終了後の数日間は無料でダウンロードできる特典がある)。聴講者にとっても聞き逃し防止になるが、発表者にとっても自身の研究を広く公開できるシステムである。
 
 さて、筆者らはSensor Network, Application and IoTのセッションで”Ultra-Thin Piezoelectric Strain Sensor Array Integrated on Flexible Printed Circuit for Structural Health Monitoring”と題して、これまで開発を行ってきた極薄圧電ひずみセンサをフレキシブルシート上にアレイ状に転写して実装し、鋼橋に貼り付けて車両の通行によって発生する動ひずみのモニタリングに成功した内容を招待講演として口頭発表した。聴講者からは、圧電ひずみセンサのゲージ率はどれくらいか?という質問があったが、筆者らが使用しているセンサは圧電タイプであるためゲージ率という特性はなく、センサの感度を回答した。やはりひずみセンサとしてはひずみゲージが一般的によく用いられるためゲージ率に関する疑問が生じたのだと考えられる。しかしながら、導体の抵抗変化からひずみ量を換算するひずみゲージはその動作に電力が必要であるが、圧電タイプのひずみセンサはセンサの動作そのものには電力を必要としないという利点があるので、動作原理も含めてより広く発信していきたい。他に、導電性ペーストによる上下電極のショートを防ぐために印刷している絶縁性ペーストはどのような材料のものか?という質問もあった。本研究ではエポキシ系の樹脂を使用しているが、ファインパターン用の高粘度絶縁性ペーストはそれほど需要がないこともあって市場にあまり出回ってないことから質問があったのだと考えられる。しかしながらスクリーン印刷という低コストのプロセスで広い面積に対して一度に絶縁を取れる本手法は聴講者の興味を引くようで、他の学会でも同様の質問を受けたことがある。すでに特許化している技術であるので、このプロセスに関しても広く周知したいと考える。
 会議全体を通しては,例年の各種センサ・アプリケーションのセッションに加え、本年は特別セッションとしてフレキシブル・ウェアラブルセンサや3Dプリンテッドセンサ、エナジーハーベスティング・低消費電力センサのセッションが新設されていた。これらのキーワードから思い浮かぶのは、IoTやトリリオンセンサを実現するキーテクノロジーであるということだ。この次世代センサネットワーク技術を達成するための鍵となるこれらテーマは今後ますます重要な研究課題となるであろうことから、上記セッションも非常に盛況であった。
以下に筆者が興味を持ったいくつかの発表の概要を記載する。

 (1) イギリス・Warwick大、Simon Leigh氏の招待講演: ”Polymer Composites for 3D Printing of Functional Sensors and Transducers”

 様々な機能性材料、例えば導電性・磁性・圧電性の材料を混合した3Dプリンタ用の素材を用いて各種センサを製造する研究に関する内容。プレゼンでも特に強調されていたのは、「センサのセンシング機能の部分に機能性材料の3Dプリンティング技術を取り入れようとしているにすぎず、決して回路基板等のすべてのパーツを3Dプリンティング技術でカバーしようとしているわけではない」ということであった。すなわち、回路基板などは既存のプリント基板製造技術を使い、一部3Dプリンティング技術を活用したハイブリッド製造であるということだ。これは筆者らが作製しているセンサアレイでも同様であり、センサの部分は高感度なシリコンベースの圧電構造を用いているが、基板の部分はフレキシブル材料や印刷技術を使っている。やはりそれぞれの技術には「できること」と「できないこと」があり、もちろん「できないこと」を「できること」に進歩させることも重要な研究ではあるが、スピード感を持って新規デバイスを開発する場面ではそれぞれの技術の「できること」をいかに上手く組み合わせるかが重要であると改めて感じた。また、圧電材料の3Dプリンティング技術による超音波センサの作製についての概要が述べられていたため、筆者らのセンサアレイ製造手法として応用できるかもしれない(圧電性高分子の配向方法などについて彼らの論文等をより詳しく調査する必要があるが)。

 (2) アメリカ・Case Western Reserve 大、Steve Majerus氏の招待講演: ”Wireless Bladder Pressure Monitor for Closed-Loop Bladder Neuromodulation”

 膀胱鏡内部に入れて使用するワイヤレス無線通信機能付きの微小な圧力センサに関する内容。生体用ということもあり、基板上に搭載されたMEMS圧力センサや無線通信用の回路やアンテナ部分もすべてPDMSモールドを用いたエポキシ系樹脂の埋め込みで保護されたデバイスであった。筆者らが作製しているセンサアレイは、センサ部分は極薄構造としているため耐候性フィルムを貼ることで保護するコンセプトであるが、無線通信やアンプ部は厚さが数mm程度のチップを使用しているため、現状ではフレキシブル基板上に集積することはできていない(耐候性フィルムを貼れない)。しかしながら、今後センサアレイのより簡便な施工性を目指す上ですべてのパーツをフレキシブル基板上に集積するコンセプトは 活かしたいため、極薄のセンサ部分はこれまで通り耐候性フィルムを貼ることで保護し、厚みのあるチップ搭載箇所は耐候性フィルムと同様の樹脂材料をモールディングで埋め込む加工技術を適用できるかもしれない。また、本デバイスはRFの無線給電用コイルも形成されており、小型バッテリーを遠隔で充電できる設計となっていた。現状では無線給電はまだ汎用的に用いることのできる技術ではないため、センサネットワークを構築する際はセンサ端末をいかに低消費電力とするか、という方向の議論が主となりがちであるが、今後より指向性や充電効率の高い無線給電技術が登場すればこのバッテリー問題の解の1つとなりセンサネットワークデバイスの応用領域も広がると考えられるため、それら技術の発展に期待したい。

(3) イギリス・Glasgow大、Ravinder Dahiya氏の招待講演: ”Large Area Electronic Skin”

 ロボットの皮膚に応用するための、センサをアレイ状に搭載した大面積フレキシブル基板の製造手法に関する内容。この研究においても筆者らと同様に新規のデバイスを開発するために有機・半導体材料をミックスしたハイブリッド構造によるアプローチが試みられている。具体的には、ポリイミド基板上にSU-8をスピンコーティングで塗布し、その上にシリコンウエハ上に作製したシリコンマイクロワイヤ構造をPDMSで転写する。その後、その転写したシリコンマイクロワイヤ上に銀ペーストのマイクロスポッティング技術でSource、Drain電極を形成し、絶縁性のUV硬化性樹脂をスピンコートした上に同様に銀ペーストでGate電極を形成してTFT構造を作製し、大面積のフレキシブル触覚センサとしている。極薄のシリコン構造を転写し、銀ペーストの塗布で電極を形成している点は筆者らの研究と類似しているため、このような製造手法はシリコンベースの極薄構造とフレキシブル材料とのハイブリッドデバイスを形成する定法として定着しつつあると感じた。一方で、他の研究機関が用いてる転写のプロセスは粘着性のあるPDMS等のゴム材料に写し取る手法がほとんどである。微細な構造を一括で転写できる点は優れているが、構造1点1点をアライメントしながら転写でき、極小支持構造で支えられた形状に加工することさえ可能なら本体形状の自由度は比較的高い筆者らの手法も広く普及させたい。

 このオーランドは市近郊にディズニー・ワールド(学会のバンケットもディズニー・ワールドの4大テーマパークの1つであるEpcotで開催された)やユニバーサル・リゾートなどのいくつものテーマパークやゴルフ場を有したアメリカでも屈指のリゾート地であり、気候も良く会期中は連日晴天であった。一方で、会場周辺のホテルはすべて中にレストランやショップを有したリゾートホテルであり、ホテルと各種テーマパークや空港とを車やバス・タクシーで移動することを前提とした交通網となっていた。そのため、ホテルの外に出て徒歩で移動することを想定した街づくりはされておらず、周辺はスピードを出した巨大なトレーラーが行き交うハイウェイに近い片側4車線の幹線道路だらけであり、横断歩道はもちろん、道路脇の歩道や 歩行者用信号も一切なかった。従って、この地域で学会が行われた際は学会会場のホテルに宿泊するのが吉である(筆者は会場から少し離れたホテルに宿泊したため、連日道なき道を歩き、命がけで歩行者用信号や横断歩道のない幹線道路を横断する羽目となった)。なお余談になるが、バンケット会場でお酒を飲もうとした際に年齢を確認された(筆者は35歳である)。とかくアジア人は若く見られがちであるので、盗難防止の意味も含めて飲食の際もパスポートは持ち歩くのが賢明である。

 次回は,2017年10月29日から11月1日を会期としてイギリス・グラスゴーで開催が予定されている。今回のオーランド同様日本からは少々遠いが、今後本格的なIoTやトリリオンセンサの時代が到来すると予想される中、それら技術を実現するセンサ端末・システム・アルゴリズム・アプリケーションなどを包括的に議論できる最大規模の国際会議であるため、自身も含めてぜひ有効に活用できればと考える。

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学会会場のプールサイドで行われたウエルカムレセプション

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Troy Olsson氏の基調講演

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Epcotで行われたバンケット

 

(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 山下 崇博)

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