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2016年6月20日 (月)

第22回国際マイクロマシンサミット (MMS2016)報告

国際マイクロマシンサミットは21年前の1995年にマイクロマシンセンターが提唱して始まり、その後は毎年同程度の規模で継続されている国際会議です。通常の学会と異なり、各国の代表が、産業政策や科学技術政策、教育まで含めて議論するのが特徴になっています。日本での開催は、第1回の京都、第8回の広島、今回の第22回が3回目になります。今回のサミットのテーマは、「高齢化社会におけるセンサ・MEMS」であり、健康・医療やライフスタイルに対応するマイクロシステムに関する話題が多く出されました。尚、次回(2017)の開催場所は26日の各国代表者会議で、スペインに決定されました。

開催日時: 2016年5月25日(水)~ 5月27日(金) 
開催場所: ハイアット リージェンシー 東京 
オーガナイザー: 東京大学 下山勲教授
参加者: 世界16ヶ国のデリゲート、51名
事務局:一般財団法人マイクロマシンセンター
プログラム:
24日(火) 夕刻:登録とレセプション 1F 「ラウンジ」
25日(水) 《本会議》27F エクセレンス
   午前:カントリーレビュー
   午後:MEMSによるスマートモニタリング
26日(木) 《本会議》27F エクセレンス
   午前:MEMS医療応用とウェアラブル
   午後:新しいライフスタイル
   夕刻:意見交換会</p></div>
27日(金) 《Technical Tour》(つくば市)
  ①フジキン先端事業所(半導体装置用機器・チョウザメ)
  ②KEK フォトンファクトリー
  ③筑波大学 バイオマス研究施設
  ④産総研・サイエンススクエア

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図1 ハイアット リージェンシー 東京 ロビーの看板

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図2 オーガナイザー(チェア)の東大・下山教授

 25日の本会議では、最初の3つのセッションは各国のチーフデリゲイトによるカントリーレビューです。今回は医療、健康分野の話題提供が比較的多い印象を受けました。まず、Benelux・Van den Berg氏からはフォトニック結晶とMEMSを組み合わせた機能デバイス、MEMSやセンサを医療に用いる様々な活動に関する紹介、EC・Gallardo氏からはデジタル化やスマート化によって如何に産業が変革してきたかを判りやすくご紹介、フランス・Labachelerie氏からはLETI等の成果である極めてファインなシリコン共振器を用いた高精度センサを医療分野に使う取り組み、イベリア・Cané氏からは、PDMSのような比較的作成容易なデバイスによる様々な医療応用、およびIOTに必須なナノテクを用いた発電素子等の発表がありました。

 第二のセッションでは、イタリア・Dario氏から医療に使う様々なカプセル技術とマイクロロボット技術、日本・下山教授からは現在様々なプロジェクトで取り組みがされているスマートセンシング技術や、それを実現する新技術・無線モジュールの紹介、韓国・Kim氏からは将来のスマートホンを支えるナノテクの紹介、南米・Lupi氏からは半導体やMEMSの施設や取り組みの紹介、ノルディック・Ohlckers氏からは医療・バイオを支えるナノテクやMEMS,特にナノピラーの利用、ルーマニア・Dinescu氏からはRFMEMSやマイクロTASの紹介がありました。 

 第三セッションでは、シンガポール・Kumar氏から、小さい国なのに複数の研究者で多数の研究テーマが成果をあげていること、スイス・Fischer氏からは最先端MEMSに加え、最先端のスマート時計の取り組みに関すること、台湾・Chiou氏からは急激な高齢化に備えた医療や診断に関する取組み、米国・Gaitan氏からはロードマップやNISTを含む、様々な側面からの取組み紹介がありました。

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図3 MMサミット2016の会場の様子

第一日目の最後のセッションは、MEMSによるスマートモニタリングで、6つの講演がありました。最初にBosch、Beer氏からIOT時代のスマート化を図った複合センシングに関する話題、ドイツHSHL、Kleinkes氏から将来のデジタル化社会における技術革新について、日本の神永氏からMEMSの歴史から今後のIOTを取り巻く世界の趨勢と、シリコン深掘りを中心とした技術開発、同じく日本からNMEMS組合の今仲氏から道路インフラモニタリング(RIMS)プロジェクトの紹介、イタリアの聖アンナ大、Cavallo氏から健康分野におけるサービスロボット、特に介護や生活空間で実際に使っているロボットに関しての報告、日本のオムロン、関口氏からQOL向上を目的としたマイクロシステムを用いたモニタリング、特に世界初のアレイ型圧力センサを用いた脈波から血圧を計測出来るウェアラブル機器の紹介がありました。セッション後にDario教授によるIOTスマートアプリケーションの未来と題するパネル討論会がありました。このパネル討論会のパネラーは下山教授、Gaitan氏、Fonseca氏であり、MMサミットに何度も来て頂いているデレゲイトの方々にお願いしました。特にコーディネータのDario教授は最高の20回の御参加を頂いています。

 第二日目の午前のセッションは、MEMS医療応用(1)で5件の講演です。BeneluxのenablingMNT,Heeren氏からはマイクロ流体の標準化を睨んだ取り組みとして機能単位でビルディングブロック方式の提案と試作、FranceのCNRS,Franck氏からはLiving Cellを用いたバイオ機械の作成と言うテーマで、細胞を中心に様々な生体物質の変態過程を電子・機械回路のアナロジーから応用する試み、同じくFranceのCNRS,Leclerc氏からから臓器Chipと薬剤スクリーニングに関して人工臓器を製作するためにマイクロ流路を用いて細胞機能の租過程を研究する試み、ドイツのIVAM、Dietrich氏からヘルスケアと治療におけるデジタル化に関して、ドイツではセンサを用いた健康機器が年率22%で伸びており、デジタルヘルスの産業領域が今後伸びるとの見方、またイタリア聖アンナ大、Cavallo氏からはParkinson病の為のウェアラブル指輪センサ、足、指、腕等に多様なウェアラブルセンサを用いて様々な信号処理で人体の動きや疾患を判断する取り組みでした。

 午前の休憩後のセッションはMEMS医療応用(2)で4件の講演です。東大の藤田教授から日本とフランスの本研究領域に関する共同研究と、その成果の報告に加えて、医療診断用のBioMEMS特にナノ領域の細胞ピンセット、細胞分類等の技術の紹介、韓国のKwon氏から高速抗原分析用の様々なマイクロ流体やセルアレイに関して、RomaniaのMoldovan氏から小形医療システムの為のマイクロ・ナノ製造に関してピエゾMEMSやナノデバイス等の様々な取り組み、台湾のLin氏から高齢社会におけるインビトロ高速診断に関して、今後は様々な小形のポイントオブケア機器が開発されるとの報告がありました。

 午後の最初のセッションは、MEMSを使った新しいライフスタイルとのテーマでIberiaのFonseca氏からNffaと言うナノスケールでの研究開発の全てが揃うオープンイノベーション拠点のご紹介やナノ材料を用いたエネルギーハーベスト紹介、ItalyのLeone氏から家庭環境でも使える集積化ウェアラブルセンサとして、モーションセンサが様々な人間の行動パターンを推定できることや、ウルトラワイドバンド無線機器が室内の動作や姿勢を推定できること、韓国のKang氏から喘息診断の為のマイクロシステム、特に電気化学的インピーダンス計測を使った診断等の紹介、米国のWalsh氏からMEMSシステムの商用化の発表として、トリリオンセンサに使う無線周波数の制限をもっと自由にすることで様々な利点が生まれる論点がありました。

図4 集合写真

 このMMサミット最終セッションでは、MEMS産業化と言うテーマにて、日本のLi氏から次世代のリソグラフィー技術に関してマルチチッププローブを用いてナノパターンを生成する取り組み、日本の前田氏から産業技術総合研究所のMEMS関連技術に関して、PZT技術や無線、MEMSアクチュエータ技術を用いた様々な取り組みに関して、NordicのOhlcker氏から超伝導光電子デバイスの実装技術開発であるQ-WAVEと言うEUプロジェクトに関して、超低温で使うジョセフソン素子を多数用いた量子デバイスと光学デバイスの集積化の発表がありました。セッション後にVan den Berg教授による医療アプリケーションの未来と題するパネル討論会がありました。このパネル討論会のパネラーはFisher氏、Heeren氏、Cane氏、Kleinkes氏、Ohlckers氏であり、MMサミットに何度も来て頂いているデレゲイトの方々にお願いしました。特にコーディネータのVan den Berg教授はDario教授と同様に最高の20回の御参加を頂いています。

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図5 MMサミットに多数参加頂いたデレゲイトへのプレゼント

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図6 夜の東京湾&隅田川クルーズの様子

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図7 素晴らしい夜景

 MMサミットの会期終了後の技術ツアして筑波地区の最先端技術を巡るイベントを企画しました。今回は何故か水に絡むテーマが多く、最初にフジキン先端事業所で、半導体装置用制御機器のご紹介、高度の流体制御技術を用いたチョウザメの飼育の見学でした。フジキンはニードルバルブの世界的企業ですが、この技術を応用した様々な事業に挑戦されており、この見学もこの一環でした。午後の最初の見学はKEKのフォトンファクトリーです。特にSOR光を使った計測や分析は世界中の研究者が利用されています。また普段は見ることが難しい見学として筑波大学・バイオマス研究施設を見学しました。これは淡水の藻を育成してバイオマス材料として利用する試みです。再生エネルギー研究施設に多くの研究者が興味深々でした。最後は産総研・サイエンススクエアを見学しました。産総研の最先端の研究、すなわちロボット技術や再生可能エネルギー等が一堂に展示され、我々スタッフも楽しむことが出来ました。

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図8 チョウザメの水槽見学(フジキン)

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図9 バイオマスの研究施設

 このように、何か月もかけて事務局にて準備を行ってきた怒涛の3日間も何とか終わり、2日目に行われた団長会議にて来年の開催国がスペインに決まりました。
 
 最後になりますが、本国際マイクロマシンサミット2016のドイツのチーフデリゲイトとしてご参加されるご予定であったFraunhofer 研究所ENAS研究所長のThomas Gessner教授が、5月25日にご滞在のホテルでHeart Attackによってご逝去されました。サミット参加者一同、Gessner教授のご偉業を称えますと同時に、ご冥福をお祈りいたします。
                        (国際交流担当 三原孝士)

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