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2016年6月21日 (火)

AEWG-58参加報告

概要:
「スーパーアコースティックセンサによる橋梁センシングシステムの開発」に関する研究動向調査として、フィラデルフィアのドレクセル大学で開催された第58回AEWG(Acoustic Emission Working Group) Meetingに出席した。ホスト及びプログラムチェアは同大学のAssoc. Prof. Antonios Kontsosが務めた。参加者は50名ほどであるが、AEに特化した学会として49年の歴史を持ち、この分野を代表する研究者が集まっている。参加者の多くは米国内からであり、AEによる検査が盛んな米国における動向調査には最適な学会である。米国外からの参加者は、日本から5名の他、ドイツ、英国、イスラエル、ギリシャ等からの参加があった。
開催地のフィラデルフィアは全米5番目の市域人口を有する大都市であり、ドレクセル大学はその中心駅である30th Street Stationから徒歩すぐの場所にある。隣接するペンシルベニア大学とともにUniversity City地区を形成しており、学術都市としての様相を呈している。

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写真1 会場のDrexel University

セッション:
講演は7セッション、33件の発表があった。セッションと講演件数を以下に示す。
Session 1: Progress in AE Sensors (4)
Session 2: AE Sensor Calibration and Characterization (4)
Session 3: Sensing Application (6)
Session 4: Vendor Presentations (4)
Session 5: AE for Damage Monitoring and Detection (4)
Session 6: Detection of AE Sources (5)
Session 7: Application of AE Monitoring (6)

内容、所感:
検査対象としてCFRPを扱っている研究がかなり多くなっている印象を受けた。全体の傾向としては、AEと損傷との対応付けをいかにして行うか、という点に焦点を当てている研究が多い。裏返してみれば、そこにはまだ多くの課題があるということを示している。その課題に対して、一つの有効な解を提示しているのがAEトモグラフィ法であると感じた。その他にも、MEMSタイプのAEセンサを応用した研究や、航空機、自動車、産業機器への適用事例など、AEに関する先端動向を知ることができた。
以下に、注目した発表について概要を記載する。

[1] State-of-the-Art Acoustic Emission Sensors (Univ. of Illinois at Chicago)
昨年のホストでもあった、イリノイ大のOzevin教授による総括的報告であった。1988年以降のAEセンサの開発の歴史を紹介したものであった。これまでにPurdue大からピエゾフィルムを使ったセンサや、1993年にはコニカル形状の素子を用いた広帯域センサが提案され(Koberna, 1993)、そして2007年にはCarnegie Mellon大よりMEMSタイプのAEセンサが登場した(Wright, Oppenheim and Greve, 2007)。イリノイ大ではこれらを受け、さらに狭帯域のMEMS AEセンサを開発していることなどを紹介した。広帯域型と狭帯域型では全く異なる検出波形となるため、帯域の影響をよく考慮する必要がある、とのコメントがあった。またコストと性能のバランスを意識してアプリケーションへの実装を進めるべき、との内容であり、SAセンサにおいても同様のことが言える。

[2] An Acoustic Emission Source Localizer in Plate Structures using Edge Reflections (Univ. of Texas)
エッジ反射を考慮した位置標定方法の報告であった。プレート形状の対象物にセンサを張り付けて位置標定を行う場合、エッジからの反射が含まれるが、エンベロープ波形を取り出して反射パターンを分析し、最大3反射までを考慮した上で位置標定を行うというものであった。計測対象によっては反射波に対する対策も考える必要がある。

[3]Application of MEMS Acoustic Emission Sensors for Source Location Using Quasi-beamforming Approach (TNO)
4つのMEMS AEセンサを使った位置標定方法に関する発表であった。イリノイ大のMEMSセンサを用いているものと考えられる。4つのセンサで囲った範囲内で標定するのではなく、4つのセンサを近接させて配置し、遠方から来たAEを標定するというものであった。標定精度の点でデメリットはあるもののMEMSセンサやワイヤレスシステムとの相性が良く、参考になるアプローチであった。

[4]Utilizing AE data and Stochastic Modeling Towards Fatigue Damage Diagnostics and Prognostics of Composites (Univ. of Patras)
複合材料の健全性を、隠れセミマルコフモデルを用いてリアルタイムに推定する試みであった。材料は健全(1)から損傷(N)までの各状態を遷移し、各状態に応じたAEを確率的に出力すると考えている。外部から観測さるAEパラメータから、尤もらしい内部の状態を推定するというものである。CFRPの試験片を用いた引張り試験を行い、その間に出力されるAEからリアルタイムに状態(健全度)を出力するデモを見せていた。同時に、条件付き確率から残寿命(Remaining Useful Life)を推定して表示していた。実験室レベルでは健全度をオンラインで表示することができており、興味深い結果であった。

[5] Correlation of Corrosion Rates with Acoustic Emission Activity off a Carbon Steel Plate in a 3.5% NaCl Solutions (MISTRAS Group, Inc.)
MISTRASによる、タンクの腐食検知に関する基礎的な実験の報告であった。カーボンスチールプレートに2つのセンサを設置し、離れた場所にNaCl溶液を垂らして腐食させる実験を行っていた。腐食に伴うAEが検知できており、分極抵抗法で測定した腐食速度と、AEヒットレートとの相関を計測した事例であった。腐食が直接検知できる可能性が示されており、一つの有力なアプリケーションであると考えられる。

次回開催:
次回は50周年記念会議として、2017年シアトルでの開催が検討されている。

(技術研究組合NMEMS技術研究機構 碓井隆)

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