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2015年12月

2015年12月25日 (金)

IEEE Sensors 2015参加報告

 1999年に設立されたIEEE Sensors Councilが、センサ、およびその関連技術に関する最も主要な国際会議として2002年より毎年開催しているIEEE Sensors 2015に参加し、RIMSの研究開発で得られた成果を発表するとともに関連研究の動向調査を行ってきた。

 第14回となる今回は2015年11月1日から4日を会期として、韓国・釜山の国際コンベンションセンター(Busan Exhibition & Convention Center, BEXCO)で行われた。この釜山は朝鮮半島の最南端に位置するため日本からも非常に近く、成田から釜山最寄りの金海国際空港まで2時間半で到着する。また、首都ソウルに次ぐ韓国第二の都市であることから交通網も非常に発達しており、金海国際空港から釜山中心部まで軽電車と地下鉄を乗り継いで約30分であった。リゾート地である海雲台海水浴場(ウェルカムレセプションはこのビーチ沿いのカジノホテルで行われた)や海雲台温泉も近く、ホテルや飲食店も充実しており、滞在中も食事や買い物に不便を感じることはなかった。

 投稿論文数は950件で、採択論文数は口頭発表が272件、ポスター発表が261件で、採択率は例年と同様に6割以下であった。基調講演は、ドイツ・カールスルーエ工科大のHanebeck教授の”Hot Topic in Multisensor Data Fusion”、アメリカ・シカゴ大のCleland教授の”Mechanical System in the Quantum Limit”、韓国・サムスン電子のJung氏の”Sensing Technology for Upcoming Healthcare System”の3件、招待講演は17件であった。

 本年からは、Live Demoという新たな試みが行われていた。これは、ポスターセッション会場に、希望した研究者がセンサなどのデモ機を持ち込んで展示するシステムであり、聴講者に対してデモ機を交えてより具体的な説明が可能となっていた。この試みは好評だったようなので、おそらく来年以降も行われるであろう。

 また、これも本年から、各セッションの座長とそのセッションでの口頭発表者が朝食をとりながら打ち合わせをできる時間が毎朝設けられた。筆者も座長を務めたが、事前に発表者の研究背景や内容の理解の助けとなるこの試みは大変重宝した。

 さらに、本学会は複数会場でのパラレルセッションで進行されるため、聴講したい発表が同時刻に重なった場合を考慮して、発表者のスライド資料と音声は録画・録音されており、本人の承諾を得られた発表に関してはwebで有料公開している(学会参加者は、会期終了後の数日間は無料でダウンロードできる特典がある)。聴講者にとっても聞き逃し防止になるが、発表者にとっても自身の研究を広く公開できるシステムである。

 さて、筆者らはFabrication/Technologyのセッションで”Piezoelectric Strain Sensor Array Fabricated by Transfer Printing Methods”と題して、高感度の極薄圧電ひずみセンサをフレキシブルシートに転写し、アレイ化する製造方法の口頭発表を行った。聴講者からは、誘電体膜であるPZTは一般的なゾル-ゲルなどの手法で成膜できるのか?、や、センサをさらに高密度にアレイ化することはできるのか?、などの質問があり、本製造手法の実用化に向けての関心が見て取れた。

 会議全体を通しては,ヘルスケア用のウェアラブルセンサやIoTの開発に関する発表が多く、これら研究テーマは現在も世界的なトレンドであることは間違いなく、さらに、それらデバイスで得られたビッグデータの処理方法や有効な利用法に焦点を当てた発表も散見された。今後ますますこれらデバイスの製造技術が成熟すると考えられるため、そのデータを有効に活用できるアプリケーションや高速なデータ処理技術の開発は重要な研究テーマとなるであろう。

 また、近年安価な製造設備で大面積の一括印刷が可能なスクリーン印刷や、機能性インクの進歩が著しく、それら技術を用いた、印刷による高スループットなセンサ製造に関する報告も多数見受けられた(プリンテッドセンサのセッションが新設されていたほどである)。

 以下に筆者らの研究と関連性がある、興味深かった発表をいくつか紹介する。

(1) D. Chen et. al., “Piezoelectric PVDF Thin Films with Asymmetric Microporous Structures for Pressure Sensing”, Dartmouth College, USA

 この発表は、圧電ポリマーであるピリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用してフレキシブルな圧力センサを作製する上で、分極方向の整列性や発電効率の向上のために、ポリマーマトリックス内にマイクロスケールの細孔を非対称的に分散させたPVDF薄膜を形成した、というものであった。このような構造とすることで、PVDFのバルク材と比べて外部からの圧力に対する感度が3倍増加したとのことである。筆者らも圧電膜によるフレキシブルなひずみセンサを作製しており、柔軟性や成膜の容易さなどの観点からはフレキシブルな材料である圧電ポリマーが整合性は良いが、感度などの欠点からPZTを使用している経緯があるため、今後も注視したい研究である。

(2) S. Emamian et. al., “Fully Printed and Flelxible Piezoelectric Based Touch Sensitive Skin”, Western Michigan University, USA

 この発表は、スクリーン印刷工程のみで作製したタッチセンサに関する内容であった。PET上に下部電極の銀ペースト、強誘電体としてPVDF、上部電極の銀ペーストを順に印刷することで4×4のアレイ状のフレキシブル圧電膜を形成している。作製した圧電膜は10V程度の電圧を発生し、LEDを点灯することも可能とのことである。近年、低温あるいはUVで硬化が可能な、安価な高導電性銀ペーストが多数登場しているため(以前から低温焼成タイプの銀ペーストは存在していたが、バインダー材などに制約があり、導電性の高いものはあまりなかった)、熱に弱いPET上でもこのように印刷のみで高性能なデバイスの作製が可能となりつつある。筆者らはシリコンウェハ状で圧電膜を作製し、それをフレキシブル基板上に転写する、という工程をとっているため、これを印刷のみで形成が可能となればスループットの上昇につながる。印刷技術と機能性インクのますますの進歩に期待したい。

(3) J. Iannacci et al., “A Novel MEMS-Based Piezoelectric Muti-Modal Vibration Energy Harvester Concept to Power Autonomous Remote Sensing Nodes for Internet of Things (IoT) Applications”, TechnischeUniversitat Wien, Austria

 通常、振動による環境発電においてはその環境で発生する振動の中心的な周波数のピークに合わせてデバイスの共振体を設計するため、レンジの観点からは狭帯域となり、幅広い周波数帯域の振動からの発電は限定的となるが、この発表は、多数の共振モード(マルチモードの概念)を取り入れた振動発電の設計を提案するものであった。例えば、5〜10の共振モードを導入した場合、通常の1つの共振時に比べて発生電力を10〜100倍にできるということである。現在、筆者らが作製しているひずみセンサシートは太陽電池での動作を考えているが、取り付け場所である橋脚の内側などは直射日光があたらず、その発電量は限定されると考えられる。従って、自立電源での動作を前提とするなら他の発電方式の検討も必要であるが、大小様々な自動車が通過する道路においては振動の周波数領域は幅広く、一つの振動周波数ピークに合わせた設計の振動発電体ではその発電量は限られる。そのため、この発表における概念の導入は非常に効果的であるかもしれない。

 次回は、2015年10月30日から11月2日を会期としてアメリカ・フロリダ州オーランドで開催が予定されている。日本からは少々遠いが、気候もよく、観光・保養都市としても有名な場所でもあるため(バンケット時に来年の会議の紹介があったが、NASAやディズニー、リゾートビーチなどがしきりにアピールされていた)、センサや関連技術の世界的な最新動向を知るために足を伸ばすだけの価値はあると思う。今後、本会議が地球規模で健康や予防医学、環境保護などの課題を解決するセンサ社会の実現にますます寄与することを期待する。

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                   学会会場のBEXCO

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     Hanebeck教授の基調講演と、本年より設けられたLive Demoの様子

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   上から、ウェルカムレセプション、バンケット、バンケットの催し物の様子

                         (産業技術総合研究所 山下崇博)

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2015年12月18日 (金)

【平成27年12月の経済報告】

 本項は、マイクロマシン/MEMS分野を取り巻く経済・政策動向のトピックを、いろいろな観点からとらえて発信しています。

 師走、平成27年12月の経済報告をお届けします。業務の参考として頂ければ幸いです。  

 内容は、以下のPDFをご参照下さい。

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2015年12月17日 (木)

海外出張報告(オーストラリアにおける畜産センシングの調査)

 畜産大国であるオーストラリアにおいて、畜産センシングの現状及び市販ルーメンセンサの適用状況を調査するとともに実用化時の海外展開の可能性を検討するため、畜産用無線センサネット(グリフィス大学)、畜産の繁殖及び健康モニタリング(クイーンズランド大学)と生産性向上のためのモニタリング(シドニー大学)の権威を訪問したので、その結果について報告する。

 今回の調査で、オーストラリアにおける畜産センサシステムの社会実装に関しては、日本とはニーズが異なることが明らかになった。日本では、放牧ではなく畜舎において繁殖管理、飼養管理をしっかりと行って、高品質の肉や乳製品を生産するために、畜産センサシステムを活用することを考えている。それに対して、オーストラリアでは、人件費が高いこと及び全飼養頭数が2,600~3,000万頭と多いため、1農家当たりの飼養頭数が多い(北オーストラリアの平均的な農家の飼養頭数は約3,000頭とのことであった)ことから、多数の牛を少人数で管理するために、畜産センサシステムやロボットを活用することを考えている。しかしながら、現在内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の一環として、畜産センサコンソーシアム(代表機関:国立研究開発法人農研機構 動物衛生研究所[新井 鐘蔵])で研究開発している畜産センサの開発内容を紹介したところ、開発中の畜産センサはオーストラリアのニーズでも十分に使えることが分かった。従って、オーストラリアは開発畜産センサの実用化時に大きな市場となり得ることが明らかになった。以下各訪問機関での調査概要について簡単に述べる。

(1)グリフィス大学ゴールドコーストキャンパス

 グリフィス大学(英語:Griffith University)は、1971年に創立され、クイーンズランド州の州都ブリスベンと、観光都市として有名なゴールドコーストに位置する総合大学である。ブリスベンからゴールドコーストにかけて5つのキャンパスがある。今回訪問したゴールドコーストキャンパスは、最近では新しい学科が開設され、創立時キャンパスであるネイサンキャンパスよりも学生数が多くなっている。Micro and Nanotechnology Centre も2011年に新設されている。

 グリフィス大学では、MEMSセンサの権威のDr. Dzung Viet Dao(Senior Lecture)及び無線の権威のProf. David Thielを訪問し、SIPプロジェクトの概要を紹介するとともに畜産センサ用無線に関して、議論を行った。畜産用センサ無線では低消費電力化が重要であるとの認識で一致した。写真1にグリフィス大学のMicro and Nanotechnology Centre が入っているScience, Engineering, Architectureビルの写真を、写真2に訪問したDr.Dao及び伊藤先生とScience, Engineering, Architectureビルの玄関で撮った写真を示す。

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           写真1 グリフィス大学Science, Engineering, Architectureのビル

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  写真2 Dr. Dao(中央)、伊藤先生(左)とScience, Engineering, Architectureビルの玄関で

(2)クイーンズランド大学ガトンキャンパス

 クイーンズランド大学(英語: The University of Queensland)は、1909年創立のオーストラリアクイーンズランド州ブリスベン、セントルシア地区に本部キャンパスを持つ州内で最長の歴史及び最も権威ある大学である。4つのキャンパスがあるが、今回訪問したガトンキャンパスは、1897年にクイーンズランド農業大学として開校し、1990年にクイーンズランド大学の機関になったキャンパスで、農学と畜産関係の学科が集まるキャンパスである。1,068ヘクタールの広さを有する。

 クイーンズランド大学では畜産の繁殖及び健康モニタリングの権威であるProf. Michael McGowanを訪問し、SIPプロジェクトの概要を紹介するとともにオーストラリアの畜産センシングの現状を把握した。Prof. McGowanはe-Cow社のルーメンセンサを使用した経験もあり、こちらの方は、数週間は安定的に使用出来ていることが分かった。また、我々の開発するセンサに関して非常に興味を持って頂き、是非とも実証実験を行いたいとのコメントを得た。写真3にクイーンズランド大学獣医学部のビルを、写真4に今回訪問したProf. McGrown(右から2番目)及びDr David McNeill(右端)と獣医学部のビルの前で撮った写真を、写真5に奥の牛舎で暑熱対策の実験を実施しているクイーンズランド大学の牧場を示す。

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                   写真3 クイーンズランド大学獣医学部のビル

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 写真4 Prof. McGrown(右から2番目)及びDr David McNeill(右端)と獣医学部のビルの前で

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          写真5 クイーンズランド大学の牧場(奥の牛舎で暑熱対策の実験を実施)

(3)シドニー大学カムデンキャンパス

 シドニー大学(英語: The University of Sydney)は、1850年にオーストラリアのニューサウスウェールズ州(当時は植民地)の州都シドニーに設立された同国最古の名門大学である。約10のキャンパスを持つ。今回訪問したカムデンキャンパスはシドニー市街から車で2時間くらいのところに位置した獣医学部と農学部のキャンパスである。

 シドニー大学では肉牛のモニタリングの権威のAssociate Prof. Luciano A Gonzalez及び乳牛のモニタリングの権威のProf. Sergio C. Garciaを訪問し、SIPプロジェクトの概要を紹介するとともに飼育設備の見学及び畜産センシングに関する討議を行った。写真6に今回訪問したAssociate Prof. Gonzalez(左)とProf. Garcia(右)を示す。

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               写真6 Associate Prof. Gonzalez(左)とProf. Garcia(右)

 Prof. Garcia は過去にKahne社のルーメンセンサを使用した経験があり、その結果、文献に記載されている通り、コンセプトとしては密度を軽くして、第1胃の上部に浮遊させて使用し、反芻時の逆流や肛門への移動を防止するため、フレキシブルな羽根構造を持っていることが分かった。羽根構造が壊れることはなかったが、信号受信レベルは非常に悪く数時間~数日しかデータ取得が出来ず信頼性は良くないことが分かった。

 また、世界に3台しかないスウェーデン製(Delaval社)の全自動搾乳システムを保有し、センサを含めた積極的な自動化の研究開発を進めていることが分かった。全自動搾乳システムによる飼育の手順を図1に示す。牛は普段は放牧場で牧草を食べているが、乳が張ってくると自分で全自動搾乳システムのところに集まってきて、順番に全自動搾乳システムに入る。そうすると、先端にカメラのついたロボットアームが乳頭の位置を計測して、乳頭部分に洗浄液をかけて洗浄した後、その位置に吸引器を持っていって、乳頭に吸引器をセットする。全ての乳頭に吸引器をセットするが、乳頭間隔が狭いため、エラーを結構起こしていた。全ての乳頭にセット出来なかった牛は搾乳量が所定の量に達しないため、1周目では出口が開かず、2周目で再チャレンジするとのことであった。24頭の牛が回転台で1周する間に搾乳をする。搾乳量も計測・管理されており、過去の履歴等から設定された所定の搾乳量を搾乳できれば、吸引器が外され、出口の扉が開いて牛は出て行く。牛が出た後は自動で回転台の糞尿が掃除されて、入口から次の牛が入って来る。以上の動作を繰り返すものであった。全自動搾乳システムを出た牛は自動給餌機に自分で行って、搾乳量に見合った濃厚飼料を貰って食べ、濃厚飼料を食べ終わるとまた自分で放牧場に帰って行くという手順であった。ルーメンセンサを投入した牛や濃厚飼料の量や内容を変更した等の実験牛も基本的には同じように飼育されており、e-Tag情報で判別して、一括して得られたデータを解析しているとのことであった。

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                   図1 全自動搾乳システムによる飼育手順

 本調査は、総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「次世代農林水産業創造技術」(管理法人:生研センター)によって実施したものである。

                                   (マイクロマシンセンター 武田宗久)

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2015年12月15日 (火)

米国橋梁モニタリング実態調査報告

 米国では、1967年のシルバー橋崩落死傷事故を契機に、1971年に全国橋梁点検基準(NBIS: National Bridge Inspection Standard)が整備され、以後、道路橋点検の信頼性確保のために様々な取り組みが行われてきている。日本より先行していろいろな活動が行われている米国橋梁モニタリングの現状を把握するため、2015年10月31日(土)~ 11月8日(日)に下山リーダを団長とする10名の調査団(五十音順:荒川雅夫、伊藤寿浩、今仲行一、大城壮司、小坂崇、塩谷智基、下山勲、武田宗久、松本潔、渡部一雄)を組んで、米国橋梁モニタリングの実態調査を行った。
 今回調査したのは、NEXCO西日本の米国拠点であるNEXCO-West USA, Inc.(以下NEXCO-USAと略す)、構造物非破壊検査サービス事業者であるMISTRAS Group、カリフォルニア州運輸省CALTRANS、米国の橋梁検査コンサルタントのAlta Vista Solutions及び実際にモニタリングが実施されているBenjamin Franklin橋(ペンシルバニア州フィラデルフィア)とVincent Thomas橋(カリフォルニア州ロサンゼルス)であった。以下に各調査先での調査結果の概要を報告する。

(1)NEXCO-USA

 NEXCO-USAは2011年1月にワシントンDCに拠点を構える米国現地法人として設立され、以後、4年間にわたって米国において州政府等が発注する道路橋点検業務を受注するため、営業活動を行っている。今回、米国の道路橋点検及び維持管理と非破壊検査の現状について調査を依頼し、その結果について説明を受けた。その結果、米国では橋梁崩壊事故を契機に法整備を繰り返し、遠望目視、破壊危険部材点検や水面下点検等も組み合わせたメリハリのある点検作業を義務付けするとともに、LTBP Program(長期橋梁性能プログラム)やSHRP2(第2次戦略的ハイウエイ研究プログラム)等を走らせて、現状の課題である客観的、定量的な評価の実現を目指していることが明らかになった。NEXCO-USA訪問の様子を写真1に示す。

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                      写真1 NEXCO-USAでの様子  

     
(2)MISTRAS Group

 MISTRAS Groupは1978年創設のAE(Acoustic Emission)のトップメーカーであるPhysical Acoustic Corporation (PAC)が2003年に各種プラントにおける構造物の検査・総合診断を実施するCONAM Inspection & Engineeringを吸収合併し、さらに2005年にPACを主体としてニュージャージー州プリンストンに設立した会社である。従業員は4000人、年間売上高は$529.3 Millionで全世界90箇所以上に支店を有するセンサ、点検・診断の世界トップメーカーである。今回現地調査を行ったBenjamin Franklin橋等多数のモニタリングを実施している。

 今回の訪問では、MISTRAS Groupの副社長でPAC社の社長でもあるMark Carlos社長を含む9人でご対応頂き、製造・検査ライン、モニター室の見学ならびにAE(Acoustic Emission)センサと無線モジュール、バッテリーを内蔵したセンサ端末 Wireless AEのデモを見学した、このセンサ端末のコンセプトはRIMSの小型センサ端末と類似しているが、本体サイズは、RIMSの100x70x50mmに対しておよそ250x150x80mm程度と大きく、自立発電も内蔵していない。AEセンサは4ch接続可能である。消費電力は200mW~300mW程度で、本体サイズの約半分の体積を占める内蔵バッテリーで約1週間の動作が可能とのことであった。信号処理能力は、1ch当たり最大80hits/sec(波形非保存時)である。デモでは、鋼製の壁に1列に並べた4つのセンサを用いたシャープペンシル圧折による疑似AE波の計測試験を行なった。検出したAE信号をリアルタイムに集約装置のPCで捕捉し、AE発生源の1次元位置標定結果をPC上に即時に表示可能であった。無線通信は900MHz帯を使用し、伝送距離は、環境により大きく変動するとのことであったが、500feets(約150m)の伝送を確認したこともあると言っていた。デモに用いたセンサ4ch接続モデルの他、1chのみ接続可能なモデルもある。1chモデルの消費電力は50~100mW程度であった。

 一方、多チャンネルの同時処理が可能なセンサ端末 Sensor Highway IIIの静態展示の説明も受けた。最大32chを接続可能な小型端末で、消費電力は本体12W、センサ1ch当たり0.25W。通信手段は、Ethernet, Cellular(携帯電話網), 無線(900MHz帯、2.4GHz帯等)が選択可能で、データを外部送信する。通信手段としてはCellularが一番良いと考えていると説明していた。また、従来モデルは、空冷ファン、ヒータなどを搭載していたが、本モデルはファンレスで、動作温度範囲は-40℃~60℃。AE以外の端末では、鋼製パイプなどに適用するマグネット搭載プローブを接続可能な超音波探傷試験機の紹介があった。パイプだけでなく鋼桁などの検査も可能で、無線端末もあるとのことであった。MISTRAS Groupではセンサのワイヤレス化を積極的に進めているが、現場ではコストと信頼性の問題が導入の阻害要因となっており、また、電源のない場所では太陽電池を使用するが、バンダリズム(盗難、破壊行為、悪意ないたずらなど)に対する対策が必要であるとの見解であった。MISTRAS Group本社での様子を写真2に示す。

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                 写真2 MISTRAS Group本社での様子

(3)Benjamin Franklin橋

 Benjamin Franklin橋は、デラウェア川を渡る吊り橋であり、ペンシルバニア州フィラデルフィアとニュージャージー州カムデンをインターステート676号線及びU.S. Route 30号線で結ぶ吊り橋である。デラウェア川港湾局(Delaware River Port Authority)により管理されており、同橋とBetsy Ross橋、Walt Whitman橋、Tacony-Palmyra 橋の4橋は、ペンシルバニア州とニュージャージー州南部を結ぶ主要な道路橋である。延長は2,917.86 m、幅員は39.01mであり、1926年7月1日に開通した当初は、主径間の533mは世界最長であった。日交通量は約10万台である。Benjamin Franklin橋の概要を表1に示す。Benjamin Franklin橋ではMISTRAS Groupが、主ケーブルの鋼線ワイヤーの損傷検知を目的に有線のAEセンサを取り付けて9年間モニタリングを実施し、損傷を検知するとデラウェア川港湾局に通知している。センサは毎年点検を行い、2,3年毎に全体の30%ずつセンサ機器の取替えを行ってきたとのことであった。センサ自体が故障することは稀であるが、取り付けケーブルとの接続部が凍結などの影響で破損するため、この部分の取替えが必要にあるとのことで、我々が狙っている無線化が有効であることがわかった。現場調査の様子を写真3に示す。

                    表1 Benjamin Franklin橋の概要

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                写真3 Benjamin Franklin橋の現場調査の様子

(4)CALTRANS

 CALTRANSはカリフォルニア州運輸省であり、カリフォルニア州の50,000マイル以上の高速道路、鉄道、空港、ヘリポートを管理している。カリフォルニア州では地震が多いことから主要な橋は振動に関するモニタリングを実施しており,橋梁本体だけでなく地層の振動特性を把握するために地下180m付近にも地震計を設置している。今回は後述するロサンジェルスのVincent Thomas橋を管理している管理事務所を訪問し、RuddyチーフからVincent Thomas橋の概要説明を受けた後、検査路、主ケーブルと地下地震計設置場所の調査を行った。CATRLANS管理事務所での様子を写真4に示す。

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                 写真4 CALTRANS管理事務所での様子

(5)Vincent Thomas橋

 Vincent Thomas 橋は、カリフォルニア州San Pedroにある4車線のつり橋である。Los Angeles港の主要道路、シーサイド・フリーウエイ、州道47号線をつないでいる。この橋梁は、1960年にカリフォルニア州運輸省(CALTRANS)により設計され、1963年に開通した。現在、全米で19番目に、カリフォルニア州で3番目に長いつり橋である。この橋梁は、2本の120mの主塔により支持され、全体を鋼製杭基礎で支持されている世界で唯一のつり橋である。全長1850m、主径間457m、二つのつり側径間が154m、両端に545mの10径間のアプローチ部、4車線分の16m幅の床版がある。Vincent Thomas橋の全景及び概要を写真5と表2に示す。

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                  写真5  Vincent Thomas 橋の全景

                   表2  Vincent Thomas 橋の概要

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 Vincent Thomas 橋が位置するアメリカ西海岸地域は、地震が多発する地域であり、1987年にWhittier地震、1994年にNorthridge地震が発生している。交通荷重による疲労と、地震やテロに対する危機管理等の目的で、損傷検知の構造健全度モニタリングが必要とされた。南カリフォルニア大学(USC: University of Southern California)及びカリフォルニア大学アーバイン校(UCI: University of California Irvine)により振動計測が実施された。Vincent Thomas 橋に設置されている加速度計の位置を図1に示す。上部構造物に16個、フーチング(基礎における、地面の中に埋め込まれたその底辺の部分の事)部に10個の加速度計が取り付けられている。

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              図1 Vincent Thomas橋におけるモニタリング状況

 また、Vincent Thomas橋の検査路及び主ケーブルからの調査の様子を写真6と写真7に示す。

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             写真6  Vincent Thomas橋検査路からの調査の様子

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            写真7  Vincent Thomas橋主ケーブルからの調査の様子

(4)Alta Vista Solutions

 Alta Vista Solutions はDr. Mazen Wahbeh(元南カリフォルニア大学教授、現客員教授)がCEOで、2003年設立のインフラのコンサルタント会社である。 Dr. Mazen Wahbehは南カリフォルニア大学の教授時代にVincent Thomas橋のモニタリングに深く関わり、現在も民間のコンサルタントの立場でカリフォルニア州の橋梁モニタリングに携わっている。

 下山リーダからのRIMSの概要紹介の後、Dr. Mazen Wahbeh よりVincent Thomas橋及びSan Francisco-Oakland Bay橋における構造健全度モニタリングに関するプレゼンテーションを頂き、意見交換を行った。米国では橋梁のモニタリングに関しては、「交通荷重による疲労と地震やテロによる危機管理」や「風の影響の定量的把握」等それぞれの橋特有の問題把握のため長大橋を中心に実施されていることが分かった。また、自立電源化に関しては、現状の消費電力に見合った自立電源がないことから導入に積極的でなく、特に、長大橋では有線電源が整備されているため、電源は問題視していないことが分かった。モニタリングでは長期計測をし、環境ノイズを除いて、橋の構造同定を行うことが大事であり、実際有線センサでは20年以上の長期モニタリングが実現できているとのことであった。また、Vincent Thomas橋での貨物船衝突事例の紹介からモニタリングしていれば、目的以外の事故等の突発事象に対しても有効に機能していることも分かった。Alta Vista Solutionsでの打合せの様子を写真8に示す。

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              写真8 Alta Vista Solutionsでの打合せの様子

 今回の調査で、米国の橋梁モニタリングの実態を把握することができた。また、下山リーダからRIMSの紹介をして頂き、RIMSの活動を関係者に理解頂いて広報が図れた。我々の開発している技術にも興味を持って頂き、今後米国での実証実験、その後の米国でのビジネスでの協業を視野にいれて、今回の訪問先とは引き続き連携を取っていきたい。

(NMEMS米国橋梁モニタリング実態調査団:荒川雅夫、伊藤寿浩、今仲行一、大城壮司、小坂崇、塩谷智基、下山勲、武田宗久、松本潔、渡部一雄)

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2015年12月11日 (金)

ハイウエイテクノフェア2015出展

 2015年11月25日(水)~ 11月26日(木)に東京ビッグサイト西3・4ホールで開催されましたハイウエイテクノフェア2015に技術研究組合NMEMSが1小間出展致しました(写真1:開会式の様子、写真2:NMEMS技術研究機構の出展ブースの様子)。

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                     写真1 開会式の様子

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               写真2  NMEMS技術研究機構の出展ブースの様子

 ハイウエイテクノフェア2015は公益財団法人高速道路調査会が主催し、NEXCO3社が共催する高速道路を支える最先端技術を紹介する展示会で、今年は第12回目で、239の出展者が1025の新技術等を出展し、2日間で約18,000名の来場者がありました(https://www.express-highway.or.jp/htf2015/htf2015report.pdf)。また、昨年好評でした「インフラ点検・診断・モニタリング技術」が今年も注目出展技術として取り上げられ、弊組合もこの注目出展技術として、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から受託しております「道路インフラ状態モニタリング用センサシステムの研究開発」の成果を展示致しました。

 NMEMS技術研究機構のブースでは、RIMSの概要説明として、今年のナノマイクロビジネス展で使用したパネル15枚を使って、以下の特徴を有するRIMSプロジェクトの広報を行いました。

●従来の点検技術を補完し、道路インフラの状態を常時・継続的・網羅的にモニタリング
●道路インフラのトータルな維持管理が可能
●高速道路の橋梁、道路付帯物、法面等を対象
●センサ端末は自立電源駆動
●新規の小型、安価、高性能、高耐久性無線センサ
●多種多様なセンサからのデータを収集する無線通信センサネットワーク
●セラミックスによる高耐久のオールインワンパッケージ

 また、高耐久性セラミックパッケージに関しては、各種寸法のLTCC基板及び透光性基板のパッケージを展示するとともに、振動加振機を用いた振動加速試験デモ及びリモート加速試験評価のデモを行いました。(写真3:高耐久性セラミックパッケージの展示の様子)

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           写真3 高耐久性セラミックパッケージの展示の様子

 ブースにはRIMSプロジェクトに興味のある方が多数来場され(写真4 NMEMSブースでの説明の様子)、密度の濃い意見交換ができ、RIMSプロジェクトの広報が出来ました。

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                   写真4 NMEMSブースでの説明の様子

 次回のハイウエイテクノフェア2016は2016年11月1日(火)~11月2日(水)に本年と同じ東京ビッグサイト西3,4ホールで開催されます。

(技術研究組合 NMEMS技術研究機構 荒川雅夫、武田宗久)

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GSNプロジェクト、NEDO事後評価で高い評価を受ける

 今年3月で終了したグリーンセンサ・ネットワークシステムプロジェクト(GSNプロジェクト;2011年度~2014年度)について、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事後評価分科会によるレビュー結果が12月9日NEDOのHPにて公開されました。本レビューでは、評点として開発成果が3点満点中2.8、実用化が3点満点中2.5と非常に高い評価を得ることができました。

(プロジェクト全体の評価点)


(GSNプロジェクトの構成図)



 今後、IoT時代における自立電源を用いたセンサ端末・ネットワークシステム普及を目指すこととしており、その一環として各種センサ/自立電源端末の物理・電気インターフェース、機能・性能表示方法などについて国際標準化をする運びです(平成28年度METI国際標準化事業に公募提案予定)。

 総合評価のポイントは以下の通りです。

  • 小型・低消費電力のセンサー、ネットワーク技術の開発とそれを用いたネットワークで環境計測・エネルギーの見える化を行う、省エネと環境問題の解決の両者を実現する秀逸なテーマ設定に対して、 4年という比較的短い期間内で、MEMSセンサー、自立電源、通信システム、超低消費電力技術等の開発、コンビニエンスストアやビルでの実証実験まで行い、その有効性を示した。
  • 4年間の研究開発計画では、当初より実証実験から研究開発へのフィードバックを行い、研究開発実施体制も指揮命令系統及び責任体制が明確であり、目標を達成するまで遂行したプロジェクト運営も高く評価できる。
  • 国際競争力強化という観点では、開発した技術のブラッシュアップ、技術の共通化と国際標準化が重要である。各社が協力してデファクトスタンダードをとるか、IEC/ISO等の国際規格で日本が優位に立てるように、戦略的に推進してほしい。
 → GSNプロジェクトのHP
 → NEDOによる評価

  <産業インフラ研究センター長 逆水登志夫>

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2015年12月 8日 (火)

小型ジャイロのJISが発行

 マイクロマシンセンター(MMC)はMEMS関連の標準化を推進していますが、このたび小型ジャイロのJIS規格(JIS C 5630-20)が発行されました。MEMS技術を活用した小型ジャイロはスマートフォン等携帯機器には必須のデバイスとなっています。MMCでは国際標準としてIECに提案し、2014年に国際規格として発行されました。今回のJISはIECとの一致規格として作成・採択されたものです。
 「マイクロマシン及びMEMS-第20部:小型ジャイロ」はジャイロの特性に関する項目と、その測定法を規定しています。構成は次の通りです。
 1. 適用範囲
 2. 引用規格
 3. 用語及び定義
 4. 定格特性
 4.1 ジャイロのカテゴリー区分
 4.2 絶対最大定格
 4.3 推奨動作条件
 4.4 電気的特性
 5. 特性の計測法
 5.1 スケールファクタ
 5.2 他軸感度
 5.3 バイアス測定法
 5.4 出力ノイズ
 5.5 周波数帯域の測定法
 5.6 分解能
 附属書A(参考)ジャイロ特性項目の計測正確性

 規格票のお求めは日本規格協会まで。

   <調査研究・標準部 内田和義>

 

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2015年12月 7日 (月)

2015年度 米国MEMS産業動向調査の報告

 米国MEMS Industry Group主催で、2015年11月4日(水)~11月6日(金)の間、米国カリフォルニア州ナパにて開催されたMEMS Executive Congressに国際交流およびMEMS産業動向調査の一環として参加したので報告する。
 この会議は毎年この時期に開催されているもので、講演やパネルディスカッションといったフォーマルな行事と、休憩時間等の空き時間でのインフォーマルな会話を通して、情報交換や人的なネットワークを形成することにより、MEMS関連産業の関係構築を可能とする。特徴としては、研究開発そのものの発表は少なく、事業化をどう促進するかが主題の会議となっている事である。

 今回は2年前と同じく、ワインの産地としても知られるナパを会場とし、情報交流の場としてナパ名産のワインを飲みながらの交流も盛り上がった。
 欧米を中心に、220名近くの方が参加されていた。日本人は、オムロン株式会社マイクロデバイス事業推進部事業部長の関口氏と住友精密工業元社長の神永氏および東北大学大学院工学研究科の田中教授ほか総勢8名というところで、増加の傾向には有るものの、海外のMEMS産業、特に中国の元気さと裏腹に、日本のMEMS産業の寂しさを感じえない。

 会議の当初に、IoTの到来を見据え、同団体の名称をMEMS & Sensors Industry Groupに改名することを宣言したのが印象的であった。この改名に伴い、この団体の新たなサービスとして、Market Place(有望用途、市場)を提供していくことを謳っていた。
今回は主に以下のテーマについて発表があった。
・MEMS市場動向(Yole development、IHS)
・Boschを始めとした各社より、MEMS技術を活用した新開発技術と新商品
・エレベーターピッチでのベンチャーによる、短時間での新技術・事業の提案

 全体を通じて、印象に残った知見としては以下の通り。
・MEMS市場は2014年~2019年にかけて、CAGR(年平均成長率)7.6%で成長するという予測。特にコンシューマーモバイル向けは著しく伸び13.4%で拡大する。市場が拡大するセンサはBAW(Bulk Acoustic Wave)フィルタであり、iPhone6sで20個も搭載されている同センサは、今後さらに搭載個数が伸びる見込み。
・また、モバイル向けセンサについては、今後は加速度、ジャイロ、電子コンパスなどは売り上げが飽和するが、マイクロフォンは特性の向上に助けられ、売り上げの拡大が期待できる。
・パイは大きくないが、健康モニタ用途や医用電子産業は堅実に延びる見込み。

 来年度は、2016年9月7日、8日と中国の上海にて、MEMS Industry Group Conference Asia 2016が開催される予定である。日本のMEMS産業の課題やグローバル連携などについて考える良い機会であるので、関係各位もぜひ継続して参加されることをお勧めする。

<産業交流部 松本一哉>

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