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2015年12月25日 (金)

IEEE Sensors 2015参加報告

 1999年に設立されたIEEE Sensors Councilが、センサ、およびその関連技術に関する最も主要な国際会議として2002年より毎年開催しているIEEE Sensors 2015に参加し、RIMSの研究開発で得られた成果を発表するとともに関連研究の動向調査を行ってきた。

 第14回となる今回は2015年11月1日から4日を会期として、韓国・釜山の国際コンベンションセンター(Busan Exhibition & Convention Center, BEXCO)で行われた。この釜山は朝鮮半島の最南端に位置するため日本からも非常に近く、成田から釜山最寄りの金海国際空港まで2時間半で到着する。また、首都ソウルに次ぐ韓国第二の都市であることから交通網も非常に発達しており、金海国際空港から釜山中心部まで軽電車と地下鉄を乗り継いで約30分であった。リゾート地である海雲台海水浴場(ウェルカムレセプションはこのビーチ沿いのカジノホテルで行われた)や海雲台温泉も近く、ホテルや飲食店も充実しており、滞在中も食事や買い物に不便を感じることはなかった。

 投稿論文数は950件で、採択論文数は口頭発表が272件、ポスター発表が261件で、採択率は例年と同様に6割以下であった。基調講演は、ドイツ・カールスルーエ工科大のHanebeck教授の”Hot Topic in Multisensor Data Fusion”、アメリカ・シカゴ大のCleland教授の”Mechanical System in the Quantum Limit”、韓国・サムスン電子のJung氏の”Sensing Technology for Upcoming Healthcare System”の3件、招待講演は17件であった。

 本年からは、Live Demoという新たな試みが行われていた。これは、ポスターセッション会場に、希望した研究者がセンサなどのデモ機を持ち込んで展示するシステムであり、聴講者に対してデモ機を交えてより具体的な説明が可能となっていた。この試みは好評だったようなので、おそらく来年以降も行われるであろう。

 また、これも本年から、各セッションの座長とそのセッションでの口頭発表者が朝食をとりながら打ち合わせをできる時間が毎朝設けられた。筆者も座長を務めたが、事前に発表者の研究背景や内容の理解の助けとなるこの試みは大変重宝した。

 さらに、本学会は複数会場でのパラレルセッションで進行されるため、聴講したい発表が同時刻に重なった場合を考慮して、発表者のスライド資料と音声は録画・録音されており、本人の承諾を得られた発表に関してはwebで有料公開している(学会参加者は、会期終了後の数日間は無料でダウンロードできる特典がある)。聴講者にとっても聞き逃し防止になるが、発表者にとっても自身の研究を広く公開できるシステムである。

 さて、筆者らはFabrication/Technologyのセッションで”Piezoelectric Strain Sensor Array Fabricated by Transfer Printing Methods”と題して、高感度の極薄圧電ひずみセンサをフレキシブルシートに転写し、アレイ化する製造方法の口頭発表を行った。聴講者からは、誘電体膜であるPZTは一般的なゾル-ゲルなどの手法で成膜できるのか?、や、センサをさらに高密度にアレイ化することはできるのか?、などの質問があり、本製造手法の実用化に向けての関心が見て取れた。

 会議全体を通しては,ヘルスケア用のウェアラブルセンサやIoTの開発に関する発表が多く、これら研究テーマは現在も世界的なトレンドであることは間違いなく、さらに、それらデバイスで得られたビッグデータの処理方法や有効な利用法に焦点を当てた発表も散見された。今後ますますこれらデバイスの製造技術が成熟すると考えられるため、そのデータを有効に活用できるアプリケーションや高速なデータ処理技術の開発は重要な研究テーマとなるであろう。

 また、近年安価な製造設備で大面積の一括印刷が可能なスクリーン印刷や、機能性インクの進歩が著しく、それら技術を用いた、印刷による高スループットなセンサ製造に関する報告も多数見受けられた(プリンテッドセンサのセッションが新設されていたほどである)。

 以下に筆者らの研究と関連性がある、興味深かった発表をいくつか紹介する。

(1) D. Chen et. al., “Piezoelectric PVDF Thin Films with Asymmetric Microporous Structures for Pressure Sensing”, Dartmouth College, USA

 この発表は、圧電ポリマーであるピリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用してフレキシブルな圧力センサを作製する上で、分極方向の整列性や発電効率の向上のために、ポリマーマトリックス内にマイクロスケールの細孔を非対称的に分散させたPVDF薄膜を形成した、というものであった。このような構造とすることで、PVDFのバルク材と比べて外部からの圧力に対する感度が3倍増加したとのことである。筆者らも圧電膜によるフレキシブルなひずみセンサを作製しており、柔軟性や成膜の容易さなどの観点からはフレキシブルな材料である圧電ポリマーが整合性は良いが、感度などの欠点からPZTを使用している経緯があるため、今後も注視したい研究である。

(2) S. Emamian et. al., “Fully Printed and Flelxible Piezoelectric Based Touch Sensitive Skin”, Western Michigan University, USA

 この発表は、スクリーン印刷工程のみで作製したタッチセンサに関する内容であった。PET上に下部電極の銀ペースト、強誘電体としてPVDF、上部電極の銀ペーストを順に印刷することで4×4のアレイ状のフレキシブル圧電膜を形成している。作製した圧電膜は10V程度の電圧を発生し、LEDを点灯することも可能とのことである。近年、低温あるいはUVで硬化が可能な、安価な高導電性銀ペーストが多数登場しているため(以前から低温焼成タイプの銀ペーストは存在していたが、バインダー材などに制約があり、導電性の高いものはあまりなかった)、熱に弱いPET上でもこのように印刷のみで高性能なデバイスの作製が可能となりつつある。筆者らはシリコンウェハ状で圧電膜を作製し、それをフレキシブル基板上に転写する、という工程をとっているため、これを印刷のみで形成が可能となればスループットの上昇につながる。印刷技術と機能性インクのますますの進歩に期待したい。

(3) J. Iannacci et al., “A Novel MEMS-Based Piezoelectric Muti-Modal Vibration Energy Harvester Concept to Power Autonomous Remote Sensing Nodes for Internet of Things (IoT) Applications”, TechnischeUniversitat Wien, Austria

 通常、振動による環境発電においてはその環境で発生する振動の中心的な周波数のピークに合わせてデバイスの共振体を設計するため、レンジの観点からは狭帯域となり、幅広い周波数帯域の振動からの発電は限定的となるが、この発表は、多数の共振モード(マルチモードの概念)を取り入れた振動発電の設計を提案するものであった。例えば、5〜10の共振モードを導入した場合、通常の1つの共振時に比べて発生電力を10〜100倍にできるということである。現在、筆者らが作製しているひずみセンサシートは太陽電池での動作を考えているが、取り付け場所である橋脚の内側などは直射日光があたらず、その発電量は限定されると考えられる。従って、自立電源での動作を前提とするなら他の発電方式の検討も必要であるが、大小様々な自動車が通過する道路においては振動の周波数領域は幅広く、一つの振動周波数ピークに合わせた設計の振動発電体ではその発電量は限られる。そのため、この発表における概念の導入は非常に効果的であるかもしれない。

 次回は、2015年10月30日から11月2日を会期としてアメリカ・フロリダ州オーランドで開催が予定されている。日本からは少々遠いが、気候もよく、観光・保養都市としても有名な場所でもあるため(バンケット時に来年の会議の紹介があったが、NASAやディズニー、リゾートビーチなどがしきりにアピールされていた)、センサや関連技術の世界的な最新動向を知るために足を伸ばすだけの価値はあると思う。今後、本会議が地球規模で健康や予防医学、環境保護などの課題を解決するセンサ社会の実現にますます寄与することを期待する。

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                   学会会場のBEXCO

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     Hanebeck教授の基調講演と、本年より設けられたLive Demoの様子

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   上から、ウェルカムレセプション、バンケット、バンケットの催し物の様子

                         (産業技術総合研究所 山下崇博)

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