2015年 第21回「国際マイクロマシンサミット」ドイツ、ベルリン開催報告
マイクロマシンサミットは、年に1回、世界各国・地域の代表団が集まり、マイクロマシン/マイクロナノテクノロジーに関する課題などについて意見交換する場です。通常の学会と異なるのは、各国・地域が代表団を組織して集まるというところであり、質の高いまとまった講演と、国際的にも影響力のある人々と意見交換できることが特徴となっています。
ご存知のように最近のMEMSやセンサを取り巻く環境変化が凄まじく、米国発のトリリオンセンサーやIOT、ドイツ発のインダストリ4.0と言ったMEMSを中心としたセンサと、(無線)ネットワーク技術の融合で、生活や製造方法に大きな変化が起きつつある状況です。このような環境変化の震源地であるドイツのベルリンで、今回のサミット(2015年)が開催されました。サミットのテーマも「製造業と工場自動化の為のスマートシステム:Smart System for Manufacturing and Factory Automation」であり、大変タイムリーで正に聞きたい内容が聞ける会合であったと思います。
今回の会期は、5月11日から12日まで開催され、日本の代表団長である東京大学・下山勲教授と事務局として三原が参加しました。今回のオーガナイザーは日本でもお馴染みの、フラウンホーファ研究所・ENASのThomas Gessner 所長です。また翌日開催された技術ツアは、ベルリンにあるフラウンホーファ研究所・IZM(Reliability and Microintegration)、およびセンサの専門企業であるFirst Sensor AG の施設の見学でした。
最初にベルリンですが、人口は340万人と人口分散型都市を進めているドイツでも、ベルリン・フランデンブルグ首都圏の中核都市で、産業や観光の中核になっています。ベルリンの歴史地区の建造物は、その殆どが歴史的博物館として保存されていると同時に、郊外には広大な緑地が広がるなど、その都市国家作りがドイツらしいと感じられます。
サミット会場はベルリンの中心部を通るシュプレー川と、博物館の集まった歴史地区である博物館島に近いメリア(Melia)ホテルでした。このため、シュプレー川の川下りの船着き場にも歩いて簡単にいけます。会場(ホテル)にはサミットの前日に着き、そのままレセプションに参加しました。
今回のサミットの参加者は18の地域,から70人のデレゲイトでした。久しぶりに欧州で開催されたと言うこともありますが、今回は欧州からの参加者が多かったのが印象です。特に開催地であるドイツから12名、イタリアから11名、中国5名、イベリア半島5名、オーストラリア5名、スイス4名、何時は少ない米国が4名と大変賑やかなサミットでした。各国の概要報告を行うカントリーレビューは初日11日に16時までに終わり、そのあと約1時間の特別講演として「Internet
of things」をmemsfabのTorsten Thieme氏から話題提供がありました。
カントリーレビューに関するトピックスを幾つかピックアップします。最初にドイツですが、インダストリ4.0を実現するためには原材料や部品の管理、供給、また製造時点での管理や最適化が大きなポイントとのことですが、具体的な例としてはインテリジェントなキャリアケースやロボットハンドの商品が紹介されていました。概念的なお話が多くて何処まで進んでいるかは判りませんが、ドイツの各地域に製造業を加速するための様々なセンサーネットワークを使う取り組みが紹介されていました。
次に参加者が多かったイタリアでも製造業の重要さを見直し、製造工程施設の最先端化を進めていました。11名の参加者があったイタリアでは、製造業の重要さ以上に人体に装着するウェアラブルシステムとロボットがセンサのアプリケーション、更に繊維から自動車に至るまで様々な業界でセンシングとネットワークが広がる期待感を表現されていました。
5名の参加者を数えるオーストラリアの発表は、ナノテクや材料を駆使したセンサの要素技術が多いものですが、オーストラリアらしく人工網膜等の医療工学が進んでいました。
同じく5名の参加者があった中国の特徴は、MEMSを含む半導体や電子デバイスの産業支援や産業強化が更に進んでいる点です。またナノ・マイクロ製造関係のプロジェクトが863テーマ走っていること、スマートフォンを始め、中国がMEMSの最大市場になっていることも驚きです。更に過去5年間に500のMEMS企業が生まれ、今後5年間で年率24%の成長が見込まれるようです。また中国の製造業に関して、「中国による製造」から「中国による発明」、また「巨大な製造国」から「強力な製造国」への変換が訴えていました。そのために必要な課題もインダストリ4.0に近いもののようです。
カントリーレビューの最後に特別講演として、「Internet of things」に関しmemsfabのTorsten Thieme氏から話題提供がありました。ここではCyber-Physical Systemの紹介と、実世界とのインターフェイスとしてのセンサの役割を判りやすく説明されていました。これが、製造業から流通、個人までシームレスに存在する状態を将来は考えているようですが、2つの概念が共存する状態は何となく理解し難い部分もあります。具体的な取り組みとしては、送電線センサモジュール、グリースセンサ、スマートシールリング、マイクロTAS等の開発事例がありました。
初日の夕刻はベルリンの中心部を通るシュプレー川の川下りと、船上でのディナーでした。このシュプレー川の川下りは、博物館の集まった歴史地区である博物館島をかすめて、2本の美しい塔を持つネオゴシック様式の橋オーババウム橋まで約1時間かけて行き、帰りは船内でディナーでした。船上から見る景色はまた格別であったとともに、多くの若い方々が同船に手を振って頂き、何となくドイツの方々の堅いイメージを払しょくすることが出来ました。
サミット2日目は、個別のテーマに関する発表です。セッション1は「製造」で5件、セッション2は「産業自動化」で7件、セッション3は「イノベーションセンタ」で7件、セッション4は「MEMS応用」で6件です。その後は、同ホテルでのディナーでした。
サミットの翌日は、テクニカルツアとして2カ所を回りました。最初はフラウンホーファ研究所・IZM(Reliability and Microintegration)です。ホテルから約30分位の距離で内部は伝統のある煉瓦作りの研究所です。内部には貨物用の線路が残っているので歴史を感じます。全体の説明のあと、3つのグループに分かれて、クリーンルームや実装設備、プリント基板製造工程を見せて頂きました。このIZMは本来集積化システムの研究所で6から8インチライン(但しCMOSラインではない)を持っています。主に3次元実装やTSV工程を研究しています。なお、ドレスデンには12インチラインもあるとのこと。この内部に大規模なメッキ設備やウェハー裏面研磨のラインもあります。またシート実装に加えてプリント基板の実装設備があることも特徴の一つで、日本ならば専門企業に外注に出さないと出来ないような研究も進めています。
最後にセンサの専門企業であるFirst Sensor AG の施設の見学でした。この企業は1991年にMEMSセンサを事業化するために設立された企業で、現在は830人の従業員と124Mユーロの事業を行う専門企業です。製品は圧力センサ、フローセンサ、光学センサと幅広いと同時に6インチ(最大8インチ)の自社施設を持っていて、柔軟に対応できることも特徴です。研究施設、製造設備も新しく、センサに特化したしっかりとした技術と、綺麗に整備された設備で事業が出来ていることに少々感激です。
以上で、サミット2015の報告は終わりますが、チーフデレゲート会議の結果によりますと、来年2016年の開催は(既に報告していますが)東京でオーガナイザは下山勲教授、そして2年後の2017年はオーストラリアでの開催が決まりました。
日本での開催準備は粛々と進めていますが、沢山の方々が日本に親しんで頂けるような会、また沢山の日本の方々に御参加できるような魅力ある会合にしたいと思います。
(MEMS協議会 国際交流部 三原 孝士)
なお、サミットで発表されたプレゼン資料はマイクロマシンセンターホームページの会員専用ページより閲覧できますので、会員の方は是非ご利用ください。
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