2014年度 ナノマイクロ領域での欧州産業技術調査・研究所訪問のご報告
MEMS協議会の事業の一つとして推進しています国際交流事業では、国際マイクロマシンサミットへの参加や、ナノマイクロビジネス展での国際マイクロマシン・ナノテクシンポジウムの開催、国際ビジネスワークショップの開催等に加えて、現在20機関ある国際アフィリエイトと連携した海外産業技術調査を行なっています。
今回、フランス・グルノーブルで開催されるセミコン欧州および、国際MEMS/MST産業フォーラムへの参加に合わせて、フランス、スペインとイタリアのMEMS関連研究機関の見学と訪問Meetingを実施しましたので報告致します。
ご存知のように、欧州ではナノテクやMEMSに対する継続的で旺盛な投資が行われ、かつ大学や研究所が所管する大型研究施設を用いて、様々な企業がMEMS事業化に向けた取り組みを強化するとともに、多くのベンチャーが当該施設によって巣立っています。またフランスやスペインではMEMSを使った環境センサーの研究開発が旺盛で、特に食品等の流通検査等を目指しています。更にイタリアは医療や健康分野にロボットを活用する取り組みを強化しています。今回はこれらの研究機関を訪問して最新の技術や取り組み状況に関する情報交換を行いました。
(1)聖アンナ大学院大学(Scuola Superiore Sant'Anna)BioRobotics Institute (Pisa市)
最初の訪問地としてマイクロマシンサミットの最古参の一人で、先日のブラジルにて20回の開催記念に特別講演をされたイタリアの団長であるPaolo Dario教授が所長をされている、BioRobotics Instituteを訪問・見学致しました。BioRobotics Instituteは先進的ロボット工学の研究の中心であり、イタリアで最も有名な大学の1校である聖アンナ大学院大学(Scuola Superiore Sant'Anna)にあり、バイオ・ロボティクス、スマート・システムおよびマイクロエレクトロニクス分野の研究および革新的技術開発を先導されています。
この研究所は、イタリア長靴の付け根に近い海岸沿いにあるピサ市から、長靴の内部に30kmの距離にあるポンテデーラ(Pontedera)市の駅の近くにあります。大学なのに教授の強い裁量権があるのか、極めて組織的・戦略的な運用をされていることに驚かされます。このBioRobotics
Instituteは、バイオ・医療用ロボットの専用研究所で、5名の教授、3名の准教授、8名の特任教授と、90名の博士を抱える極めて大規模な組織です。また研究予算もイタリア政府からは30%のみで60%近くはEUの競争的資金で運営されています。加えて、イタリアで最も人気のある学部・研究所であって、極めて優秀な学生や研究者が集まって来るとのことでした。また産業化、企業との連携も盛んで、2011年から、近年MEMS分野で世界的な躍進を継続しているSTマイクロエレクトロニクスと共同研究を開始しています。この報道の中で「バイオ・ロボティクスとスマート・システムは、21世紀における人間社会の持続可能な開発の基盤となり、製造業、医療、スマート・ホームおよび環境保護等、あらゆる面で我々の生活の質を改善することになる」とPaolo
Dario教授が発言されています。
STマイクロ以外にも、リハビリテーション関連企業、イタリア通信企業、ヘルスケア関連企業との強力な連携をしています。更にピサ市のあるトスカーナ(Toscana)州は、The Land of Robotと言われるほど、あらゆる場面でロボットの振興を過去30年間にわたって進めていると言うから驚きです。会議室にて何人もの第一線研究者により研究紹介をして頂き、恐縮いたしました。その研究紹介は、ロボットの利用される触覚・圧力センサーや、指のような感覚で触った時の圧力分布をみるセンサーアレイ等です。またサービスロボットでは、高齢者にとってロボットが生活の役に立つにはどうすれば良いのか?と言う課題で、買い物ロボットの紹介がありました。買い物は機能が異なる複数のロボットがあって、買い物荷物が入った車両から、家の玄関まで運ぶディバリーロボットと、屋内で生活支援するロボットが相互に認証・確認しながら買い物を受け渡す場面がビデオで紹介されました。イタリアのこの地方には、介護や生活支援、街中での掃除ロボットやごみを収集するロボット等の実用化に向けた検証実験も進められています。近い未来に、トスカーナ(Toscana)州に行けば(サッカーは勿論ですが・・)街中の至る所にロボットの働いている姿を見ることが出来るかも知れません。
研究施設の見学も、クリーンルームを始め、試作中の小型ロボットの実験室を見せて頂きました。MEMSのデバイス開発は勿論、バイオ関連、マイクロTAS、医療MEMS等々の幅広い研究をされています。その中でも強く記憶に残ったのは、10年前のマイクロマシンプロジェクトを思い起こす小型体内ロボットの研究開発です。カプセル内視鏡や、ロボットサージェリ、カテーテル、それらのアクチュエーション等の研究開発が今も脈々と進められていました。
バルセロナ大学・ナノマイクロ研究所(National Centre for Microelectronic CNM)はスペイン最大のシリコンベースの半導体やMEMSの研究所です。ECのフレームワーク研究やスペインの研究開発プログラムを実行すると同時に、バルセロナ大学との連携によって多くのMEMSセンサー(バイオ・化学センサー)やマイクロ分析器の研究開発を行っています。
今回訪問したLuis A. Foseca Chacharo博士(ルイス博士)は、マイクロマシンサミットの常連的なMEMSの研究者ですが、SiNERGYと言われるエネルギーハーベスト技術と、その材料技術を中心にした取り組みをされています。材料としては、ナノワイヤー、帯電デバイス、圧電ピエゾ素子、スーパーキャパシター材料等が含まれます。
ご存知のようにバルセロナはスペイン2番目の都市で、カタルーニャ州の州都、観光都市です。バルセロナ大学は、市中心から一つ山を越えた25km北の小高い丘の上にあります。CNMはバルセロナ大学のキャンバス内にありますが、純粋に国立研究所であって、大学の敷地内に場所を置いているのみとのことです。研究所はクリーンルームと一体化した巨大な建物でした。スペインにはマイクロシステムの研究所は地域別に3つあって、バルセロナはシリコン、マドリッドは化合物半導体、セリビアはアナログ・MixedICとのことです。年間経費は約15億円、180人の技術者・研究者と80名の設備管理者とのことです。1500m2の規模のクリーンルームを持つので研究所としては大規模と言えます。内部を見せて貰いましたが、大変良く整備された施設で、CMOSラインとMEMSラインが2系統あるものです。
研究紹介では、スペインらしく化学センサーやバイオセンサーの熱心な研究紹介がありました。フランス、イタリア、スペインでは農業大国としてワインやオリーブの品質管理や流通管理技術に特に力を入れ、化学センサーも力を入れています。化学・バイオセンサーでは、マイクロホットプレート、共振器&カンチレバー質量センサー、赤外線光学式センサーの研究紹介がありました。また集積化MEMSやCMOS回路技術の専門家も多く、センサーネットワーク用の消費電力ICも開発され、無線チップや特殊ADC等の開発もされています。更にルイス博士の専門領域に近いあらゆる種類のエネルギーハーベスト技術も興味深いものです。特にナノ材料との組み合わせで熱電素子の研究に熱心でした。
説明の必要がないくらい有名な半導体・MEMS等のフランス最大の研究所(CEA-LETI/MINATEC)であって、MEMSに限定すると欧州最大規模です。フランスのCEA(フランス原子力・代替エネルギー庁)の付属機関であり、最初は放射線の検出器を開発するのが目的であったと聞いています。そのLETIは、フランスアルプスに囲まれた大学都市グルノーブルに1967年に設立された電子情報技術研究所であって、欧州を中心に世界中の研究所や企業と連携して今日では国際的な科学研究拠点として認められています。1700 名の研究者と、270名の博士課程の学生を有し、これまで50のベンチャー企業の基礎をつくり、約370社との共同研究を行っています。研究施設は、200mmと300mmのウエハー規格に基づく、研究所としては世界最大規模のクリーンルームを所有しています。
窓口になって頂いた、アルカモネ博士(Dr. Julien Arcamone)はフランス大使館LETI日本代表のBruno PAING様からご紹介頂いた産学コーディネータの方ですが、もともとマイクロシステムの材料の研究者でまだ若いにも関わらず、研究者からコーディネータに転身されています。最初に驚いたのは、レセプションコーナで待って出迎え頂いたあと、LETI事務所で1時間位の情報交換を行いましたが、7割以上はアルカモネ博士の質問攻めでしした。日本のMEMSの産業の業容や課題、研究開発の状況や研究所の動向等です。LETIは日本に事務所を持っていて、毎年シンポジウムを開催しているので日本のことは十分判っていると思いますが、さすがに国際的な研究開発受託をビジネスにしている熱心さが伺えました。百聞は一見にしかず・・で早速、クリーンルームを、しかも着替えをして隅から隅まで見せてくれました。私が見た研究所の施設としては世界1(クラス)です。LETIのライバルはIMECと言い切っていましたが、IMECのMEMS開発はホルストセンサーで実施しているいので、間違いなく研究拠点から言うと世界1(クラス)と思います。しかも、MEMS専用のCMOSライン(と言うよるサーフェスMEMSライン)とMEMSライン(後工程と言うよりバルクMEMSライン)があって、その施設間をクリーン着を着たまま(かなり長い)自動リフトで移動します。これは初めてで“たまげた”と言う感じです。このCMOSとMEMSのラインは特殊な規則を作ることで双方向にウェハを行き来することが出来るとのことでした。尚、ナノエレクトロニクス施設は別にあるとのことです。
LETIを一言で言うなら由緒正しい正統派研究所と言うイメージです。IMECのような連携を重視するのではなくて、あくまでも研究所主体です。基本的にはLETIが基本技術を揃え、また研究のリーダ、研究管理も主体的に行います。その戦略の違いが特許戦略に表れていて、LETIは自ら特許を所有して、相手にライセンスする方向です。このため、これまで2200の特許を所有しています。また基本的に、当該特許もバックグランド特許も排他的な供与は行わない方針で、コア技術保有の考えが浮かびます。(ここがIMECと最も大きな差と言っていました)
LETIの研究開発予算は、250Mユーロ、20%が政府、40%が競争的資金、40%が産業界からと産業界の比率が大変高いです。連携企業は370社、フランスが20%、他のECが40%・・またLETIの上位組織はCEAで、CEAの研究子会社はマイクロシステムのLETI、新エネルギーがLitenがグルノーブルに、ソフトのLISTがパリにあるとのことです。またLETIの活動はシリコンデバイスが50%、(デバイス)システム関連が30%、光学関連が20%とのことです。クリーンクールや装置のメンテスタッフは勿論のこと、単なるデバイスや材料開発以外にそのデバイスを用いてシステム化する技術者も多く、実用的な研究開発が行われています。また気になった研究所と産業界の人材交流ですが、①産業界との人材交流や異動は頻繁に行われ、②スタートアップ会社創立も盛んとのことです。特に②を開始する場合は、研究所への復帰権利が基本的に5年間は保証されるとのことです。
セミコンユーロの講演会で知り合ったマイクロカンチレバーを用いた化学センサーでLETIから起業したApixanaylics社のColinet博士に、LETI訪問の後企業訪問を急遽行うことになり、LETIの内部にあるベンチャー棟に入ったApixanaylics社を訪問しました。非常に微小で多数のマイクロカンチレバーと、市販のキャピラリーカラムを用いて、分析と検出の出来るシステムで、既にプラットフォーム評価システムは販売を開始したとのことです。私もカンチレバーも用いた化学センサーの研究者でしたので、話が大変盛り上がり、この欧州調査も気持ち良く完了することが出来ました。欧州の研究所には、私一人の訪問にも関わらず、沢山の方々に時間を取って頂きました。この機会を借りて感謝したいと思います。この詳細な情報は、来年(2015年)1月にマイクロマシンセンターで開催されるMEMS海外産業技術動向調査報告会で報告致します。是非、沢山の方々のご参加をお願い致します。(MEMS協議会 三原 孝士)
| 固定リンク
« 畜産センサ研究コンソーシアムが提案した「生体センシング技術を活用した次世代精密家畜個体管理システム」がSIP(戦略イノベーション創造プログラム)「次世代農林水産業創造技術」に採択 | トップページ | ロシアMEMS協会・MEMS関連企業一行の産総研MEMS関連施設(MNOICを含む)訪問 »
「国際交流」カテゴリの記事
- JCK MEMS/NEMS 2022 参加報告(2022.10.26)
- 2019 第25回「国際マイクロマシンサミット」(中国,西安) 開催報告(2019.05.23)
- 第7回海外調査報告会を盛況に開催(2019.02.25)
- 国際会議 MEMS 2019 参加報告(2019.02.01)
- 2018年MMC十大ニュース決まる(2019.01.04)
「産業・技術動向」カテゴリの記事
- 「2021年度 分野別動向調査報告書」発行について(2022.09.29)
- MMC創立30周年記念講演会(1月28日)開催報告(2022.02.02)
- JCK MEMS/NEMS 2019 参加報告(7月16日-18日)(2019.07.24)
- 米国研究開発動向調査(2018.11.15)
- 米国研究開発動向調査(2018.03.02)
コメント