2014年 第20回「国際マイクロマシンサミット」ブラジル、サンパウロ開催報告
ご存知のように、マイクロマシンサミットは、年に1回、世界各国・地域の代表団が集まり、マイクロマシン/マイクロナノテクノロジーに関する課題などについて意見交換する場です。通常の学会と異なるのは、各国・地域が代表団を組織して集まるというところであり、質の高いまとまった講演と、影響力のある人々と意見交換できることが特徴となっています。最近では各国の紹介は比較的短時間で終了し、実用化・産業化の状況話題提供はもちろんですが、合わせて全世界で課題になっている環境やエネルギー、スマートシティ(社会インフラモニタリング)、M2Mと言った最新の共有の話題を、具体的なテーマに沿って発表する場になっています。また過去3年は今まで行われてこなかったパネルディスカッションが開催され、参加者が熱心に発言されています。このように当該分野での各国の状況が短期間で鳥瞰できる格好の場となっています。また近年の傾向としてMEMS分野が高成長を継続する産業分野であるとの認識から、産業発展の伸長の目覚ましい国が加わり、企業にとっても新規なマーケットを開拓する良い機会にもなっています。
本年(2014年度)はブラジルのサンパウロ市にて、5月12日から14日まで開催され、日本の代表団長である東京大学・下山勲教授と事務局として三原が参加しました。今回のサミットのトピックスは、”Sport & Health, Environment and Energy, in addition to Smart System Integration”となります。今回はラテンアメリカではじめての開催であること、第20回と言う記念すべき会であることです。今回のオーガナイザーはカンピーナス( Campinas)大学、FEEC/UNICAMP のJacobus W. Swart教授でした。尚、会場となるサンパウロと最終日のテクニカルツアの開催されたカンピーナスは100km離れていますが、カンピーナスへは事務局が専用バスを用意してくれました。
最初にサンパウロですが、人口は1,100万人以上でブラジル最大のメガシティです。2011年の統計では、近郊を含む都市圏人口では2,039万人であり、世界第8位、南半球では第1位の都市とのことです。文句なく、南半球のビジネス・人材・文化・政治などの中心で、特にビジネス部門で高評価を得ています。地球上では日本の真反対に位置するわけですが、実際に渡航してみて、これを初めて実感しました。ドバイ経由で渡航しましたが、ドバイでの待ち時間を入れて、自宅からホテルまで実に38時間かかりました。またサンパウロについて時計を全く直す必要がなかったのはちょっと感動です。すなわち時差は12時間です。ご存知のように2014年はサッカーのワールドカップがブラジルの各都市で行われ、サンパウロも中心都市のひとつですが、なかなか日本から情報を得られない都市です。旅行雑誌を探しましたが1冊しかなく、サンパウロに関する記述も4ページくらいしかありません。その意味ではサンパウロは遠くて、あまり身近ではない都市です。
サミットはサンパウロの中心部(ダウンタウン)から南西に10km程度離れたBlue Tree Morumbiと言う高層ホテルで開催されました。会場(ホテル)にはサミットの前日に着き、そのままレセプションに参加しましたが、もう20年になると本当に同窓会のような雰囲気でみんな和気藹藹に笑談されていました。
写真 2 レセプションの様子
今回のサミットの参加者は18の地域,20ヵ国から58人のデレゲイトでした。各国の概要報告を行うカントリーレビューは初日12日の午前中、13日の午後はセッションテーマHealth and Bio Microsystems として7件、同日の夕刻はMNT for sports and health, environment and energyをテーマとしたパネルディスカッションとバンクエット、13日の午前中は、セッションテーマChemical, Environmental, Pressure and RF Microsystems として7件の講演、休憩を挟んでセッションテーマMNT Applications and Marketsとして7件、13日の午後はセッションテーマMNT Applications and Program and Initiatives として7件の講演、同日の夕刻はMNT Opportunities for Latin Americaと言う題目の第2回目のパネルディスカッション、その後はバスでカンピーナスに向かいました。
最初に特別講演として、イタリア団長のPaolo Dario教授がMEMS Microsystems and Micromachine: a Technical and Historical Overview of the World Micromachine Summitと言う題目で講演されました。ご存知のようにこのマイクロマシンサミットは、マイクロマシンセンターが提案して始まった、単なる学会ではなくて各国、各地域の本技術・産業領域に関する国策・政策や教育等も幅広く捉えて行こうとするものです。同時に技術や、産業的なトピックス、最新の学術的な発表にあります。すなわち、2日間で世界中の取り組みが大局から詳細の至るまで鳥瞰できます。第1回から第20回までの開催地を良い機会ですのでリストアップします。
初期の頃は、この技術領域のことを日本ではマイクロマシン、欧州ではMST(マイクロシステム)米国ではMEMSと呼んでいたことや、それぞれの地域での技術的な進展等のお話がありました。その中でもボッシュプロセスが開発されて、この分野が技術的にも産業的にも一気に賑やかになったこと、スマートホンによって市場の大きな拡大があったことのトピックス紹介がありました。
カントリレビューでの幾つか興味を持った講演をご紹介します。まず、ドイツですが、団長は日本に年に3-4回来日されているENAS のThomas Gessner教授です。ドイツはラテンアメリカ、中国に次ぐ6名のデレゲートが参加され、MEMSの活況ぶりをアピールされていました。まず、2012年度はSTマイクロがMEMS売上でトップでしたが、2013年度はBoshが売り上げで1位であったとのことです。Boshは自動車用のMEMSから開始しましたが、最近は国際的な視点にたって、産業用から民生用まで幅広い領域で開発や生産拠点を広げ、確実に売り上げを伸ばしています。またSIEMENSが、その技術的な底力を発揮してセンサー、特殊MEMSからシステムインテグレーションまで幅広く事業を行っています。また開発とファンドリで 存在感を見せるX-FABに関しても、そのOpen Platform Technologiesとの題目で幅広いMEMSに適用できる事例が示されました。
続いて中国ですが、なんと8名の参加で、ラテンアメリカに次ぐデレゲートを派遣しています。日本と同じ時間がかかる長距離渡航なのに8名の参加があるとは脱帽です。また発表のなかでも大変積極的な投資をMEMS分野で行っているとのことで、6インチが中心の4つの研究開発ライン(蘇州サイエンスパークは1部8インチ)と、製造ラインは4拠点、SMIC(Semiconductor Manufacturing International Corp.,)は8インチラインを立ち上げたとのことです。また100以上のベンチャー企業が既に巣だっているとのことです。
ラテンアメリカの紹介では、やはり地元と言うことで14名のデレゲートの参加がありました。ブラジルが14名、メキシコが2名です。ラテンアメリカは5.7億人の人口、中でもブラジルが約2億人、メキシコが1億人です。約6億人の中心はやはりブラジルです。あとでカンピーナスの研究所の訪問の時にもコメントしますが、ブラジルの科学技術や産業技術は、ラテンアメリカ特有の技術戦略がいくつもあって、それを一貫してやり抜くことでラテンアメリカのデファクトスタンダードにすることです。例えば深海での石油探査や石油掘削です。なんと海面下2000mの深さで海面から地中深く7000mの石油探査が出来るということですので驚きです。またブラジルで大きな産業であるバイオエタノールや航空機(世界第三位)の話題もありました。
米国からの発表は昨年の発表と近いものですが、最近のDARPAが強化しているマイクロシステム関係のプログラムとして、「Laser UV Sources for Tactical Efficient Raman」および「Direct On-Chip Digital Optical Synthesizer」が上がっていました。特に後者は最近注目を浴びている超小型原子時計に関するものと思われ注目されます。またミシガン大学が得意とするマイクロガスクロマトに関しては超小型ポンプを組み込んだようです。ミシガン大学は本当に長期的視野で研究を重ね、かなり実用化に近いデバイスが出来上がってきています。また興味深いデータとして、各国のGDPに占めるRD投資の割合と、研究者、技術者の人口に大変綺麗な相関があることが示されました。GDPに占めるRD投資の割合が高い国は、イスラエル、日本、フィンランド、スエーデン、韓国、米国、デンマーク、ドイツ、台湾、スイスの順です。その中でイスラエルは、極端に科学者人口が少なく、スエーデンは科学者人口が多い国です。
イタリアは研究開発投資効率が高い国であるとの紹介がありました。イタリアは先進国の中では、GDPに占めるRD投資の割合と科学者人口が少ないと言う統計データがあります。しかし研究者単位の論文数と引用数が世界一となっています。また人口あたりの起業家件数の割合も先進国では最も多く、これらが高い効率の証明であるとするものです。
日本からの紹介は、社会課題を解決するためのセンサーネットワークの研究開発の状況に関して下山団長からお話がありました。
サミットMeeting最終日の13日の夕刻は、(殆ど全員)バスに乗り込んでカンピーナスに向かいました。カンピーナスはサンパウロの北西、約100kmに位置する日本のつくば市のような研究学園都市です。ブラジルでは日本や欧州のような高速鉄道はないので都市間交通は大型高速バスとなります。次の14日にカンピーナスの研究施設やカンピーナス大学を見学しました。最初の見学研究所はCPqD通信研究所です。カンピーナスの丘の上の熱帯灌木地を切り開いたような壮大な研究所です。建物は精々3階建ての低層の研究所ですが、最初に軍の研究所を兼ねていたようで地下道で繋がっているとのことです。研究所の規模は博士を450人含めた1300人の規模で、研究開発は政府の予算で行い、技術を企業に移転すること、ベンチャー企業を創出することがミッションです。最初に技術展示室を見せて貰いましたが、一般の方にも興味を持って見て貰えるように大変凝った展示で、鉱山資源が多いブラジルらしく鉱山をイメージした展示室を使って、半導体や光ファイバーの材料である岩石や水晶から説明する徹底ぶりです。技術展示で興味を持てたのは450MHzを用いた高速無線通信インフラであるLTE技術とそのインフラ網でした。現在ほとんどの国ではLTEは、プラチナバンドである920MHzと2.4GHzを使っており、450MHz帯は業務用やアマチュアバンド、リモコン等に使われていますが、ブラジルではこれをインフラ系無線のメインのバンドにしています。これはブラジルを始めラテンアメリカの広大さにあり、少ない無線局でより広い範囲をカバー出来るためです。この方式をラテンアメリカが使っています。すなわち、ブラジルはラテンアメリカの産業のハブであると言えます。これは航空機や鉱山資源、エコ燃料等や資源探査等にも言えることで独自の発展を遂げていると考えられます。
2番目に見学したのはCNPEMと言うSORを用いた材料・ナノテク研究所です。日本で言えばSpring8やフォトンファクトリーをイメージしますが、このSORはラテンアメリカで最初に建築された施設とのことです。見学コースでは施設の全体を見渡せる場所があって、その構造が良く判ります。
その後、カンピーナス大学付属のナノテクMEMS研究施設であるUNICAMPを見学しました。今回のMMサミットのオーガナイザーである、Jacobus W. Swart教授は、この研究施設の教授です。ナノテクの研究施設、電子顕微鏡やAFM等の研究施設を一通り見た後、MEMSの実験室で幾つかのセンサーの実演もありました。興味深いものは電子オレンジと言われる無線センサーを組み込んだオレンジ大のボールです。温度センサー、衝撃センサー、加速度・モーションセンサーと無線&電池をモジュール化して、その外側をシリコンゴムで固めた構造です。これを用いてオレンジの流通過程をモニターするものです。電子バナナは無いのか?とのおバカな質問をしたところ、ブラジルではバナナは大きな産業ではないと上手く切り返されました。(笑)
MMサミットでのブラジルのデリゲートである、サンパウロ大学のMorimoto教授(日系三世で日本語は出来ません)にお世話になって、研究所見学の翌日にサンパウロ大学を訪問しました。カンピーナスを早朝に出発して高速バスでサンパウロ大学に向かいましたが、英語表記が無いなかで高速バスに乗るのにMorimoto教授を始め、現地のスタッフの方にも早朝にピックアップして頂いて、バスに乗せて頂く等・・・感謝感激です。サンパウロ大学では、マイクロシステムの研究室、プリント基板の製造工程の他にNishimoto教授の海洋研究所の見学もさせて頂きました。そこは、様々な研究投資を得て、海洋におけるバーチャルリアリティシステムや自由に波を生成可能な大規模な水槽もありました。
以上で、ブラジルの報告は終わりますが、下山団長のチーフデレゲート会議の結果によりますと、来年2015年の開催はドイツのベルリンでチェアはドイツのチーフデレゲートであるThomas
Gessner教授、そして2年後の2016年は日本での開催が決まりました。
日本での開催場所は、まだまだ時間があるのでゆっくり考えたいと思いますが、出来れば沢山の方々が日本に親しんで頂けるような場所が良いと思います。
(MEMS協議会 国際交流部 三原 孝士)
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