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2013年10月18日 (金)

2013年度 MEMS欧州産業技術調査の報告 その1 (フィンランドとロシアのMEMS関連機関)

MEMS協議会の事業の一つとして推進しています国際交流事業では、国際マイクロマシンサミットへの参加や、マイクロマシン展での国際マイクロマシン・ナノテクシンポジウムの開催、国際ビジネスワークショップの開催等に加えて、現在19機関ある国際アフィリエイトと連携した海外産業技術調査を行なっています。

今回、ドイツ・ドレスデンで開催されるセミコン欧州および、国際MEMS/MST産業フォーラムへの参加に合わせて、フィンランドとロシアのMEMS関連機関の見学と訪問Meetingを企画・実施致しました。

ご存知のように、欧州ではナノテクやMEMSに対する継続的で旺盛な投資が行われ、かつ大学や研究所が所管する大型研究施設を用いて、様々な企業がMEMS事業化に向けた取り組みを強化するとともに、多くのベンチャーが当該施設によって巣立っています。特に北欧やロシアでは広大な国土に点在する老朽化した建造物や社会インフラ、パイプライン施設等をメンテナンスするためにMEMSセンサやそのセンサネットワークが必要と言われています。日本でも近年特に社会課題に対応したMEMSセンサが注目を浴びています。今回訪問するフィンランドやロシアの関連機関は、特に社会インフラへのセンサネットワーク構築に対する取り組みが熱心であり、訪問して最新の技術や取り組み状況に関する情報交換を行うことは大変有効と考えました。以下に今回の欧州調査の概要を記載します。

(1) VTT Technical Research Center of Finland (Espoo市)

VTT(正式名 VTTテクニカルセンター、フィンランド)はヘルシンキから西に20kmのエスポー市にありますが、実際にはエスポー市の東端にあるため、ヘルシンキのダウンタウンからタクシーで(空いていれば)15分余りの自然豊かな場所にある、3100名の職員を有する北欧最大の研究施設で、早くから全世界を顧客としたオープンイノベーションに熱心です。VTTの研究テーマは電子工学、エネルギー、情報通信等の全方位に渡っています。特に電子デバイスの研究開発では実績が多く、1960年代から半導体、1980年代からCMOSやBiCMOS、更に1990年代からMEMS、また半導体や電子デバイスとMEMSの技術的融合が行われ、特にパッシブデバイスと半導体を集積した一種の集積化MEMS(Integrated Passive Devices IPD)に力を入れています。

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写真 1 VTTのマイクロナノ領域の研究施設

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写真 2 10月初旬であっても(ヘルシンキは)すでに霜

今回の訪問でのホスト、面会者はResearch Professor, Dr. Aarne Oja でした。今回のMeetingでは、Senior Scientist, Team LeaderのDr. Tommi Suni、博士コースのMsc. Viljanen Heikki、更にクリーンルームの見学を含めてAkiko Gädda様が対応してくださりました。Dr. Aarne Ojaによる全体の説明、Dr. Tommi SuniによるTSV技術を含む3D技術の説明、最後にAkiko Gädda様によるクリーンルームの見学でした。

 VTTのご紹介では、VTTは純粋に国立の研究所から1960年代から開始され、初期のMEMSの研究開発は1970年代の後半から開始したとのことで大変長い歴史を持っています。最初は半導体の研究から開始しましたが、半導体は競争相手が多いので比較的早くからセンサーやMEMSの技術を取り入れて行ったようです。また光学やバイオと言った技術開発も盛んで、MEMSとの組み合わせも息の長い研究テーマとなり、現在の光学式エタロンを用いたCO2ガスセンサーに繋がっています。また半導体CMOSとの集積化や実装技術への取り組みも熱心で、TSV技術や三次元ICへの取り組みに繋がっています。更にVTTは早くから企業との連携やベンチャーの育成を行っていて、これまで当該産業領域(MEMS)で30のスピンオフベンチャーを育成しており、これらの企業はVTTの研究施設を使った少量生産を行って、サンプルや製品を出荷しているとのことです。

 VTTの研究プログラムはHigh Performance Microsystems(HPM)と言うタイトルで
  1) MEMS Sensors
  2) Microspectrometers
  3) RF Modules
  4) Radiation Detectors
の4つの項目があります。特に2)と4)は独自性の高い研究開発が行われています。更に、産業化への貢献として
  1) 技術と知的所有権のライセンスアウト
  2) VTT発のベンチャー企業のよる実用化
を推進しています。

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写真 3 VTTに隣接する先端技術産業育成施設、歩いて数分VTTの敷地内にある。Ei4

写真 4 Dr. Aarne Ojaとシリコンインゴットの前で

更にVTT MEMSFabと言う独立した法人があって、VTTの施設を使ったMEMSの量産(実際には少量生産と考えられる)やVTTで開発されたMEMSデバイスの実用化支援を行っているようです。サービスの内容としては、6インチMEMSラインを用いたコントラクト製造(ファンドリ)と設計支援とのことですが、やはり半導体やナノテクの研究所が全面的にバックアップしているのでポリシリコンやナイトライト、シリコンフォトニックス、超伝導デバイス、薄膜RFデバイスと多岐に渡っていることも特徴の一つです。

次にTSV技術に関して個別紹介がありました。VTTのTSVは、貫通配線方法に以下の4つの手法が準備されています。
  1) Doped PolySilicon
  2) Cu Thin
  3) Cu Liner
  4) Cu Thick
 何れも、シリコンの精度の高い加工技術と用途にあった配線方法を所有しています。

最後にクリーンルームを見せて頂きました。総面積2600平米で規模としては最大級です。この施設は3つに分かれており、
  1)CMOSライン
  2)MEMSライン
  3)大学等のアカデミアが利用するライン
の3つがあります。それぞれ、6インチの装置が整備されており、研究開発から汚染を気にする半導体の開発まで大変良く整備されていました。それぞれの専有ラインに、専用装置があるので、3つの研究ラインが1箇所に集まっている感じです。

VTT Web Site:
http://www.vtt.fi/
http://www.vttmemsfab.fi/ 

(2)Russian MEMS Association

今回のホストであり、Russian MEMS AssociationのExecutive DirectorであるDr. Denis Urmanovは、2013年中国上海で開催された国際マイクロマシンナノテクサミットにロシアの団長として参加されました。その時にロシアにてMEMS産業を推進させていること、特にロシアでは広大な国土に老朽化した社会インフラが沢山あって、これらを、MEMSを中心としたセンサネットワークでメンテナンス、更に補修を行う必要が或ことを力説されていました。このRussian MEMS Associationは2010年に設立された比較的新しい、民間が運営する非営利団体で、MEMSの研究開発からセンサーシステムの実用化、更にネットワーク化を行う幅広い活動をしています。その組織の母体となっているSovtest ATEはロシアの企業で、半導体や電子機器の評価を行うテスターを中心に製造販売やソフト開発、委託開発、或いは海外の装置を展開する事業を行っています。ここ数年、ロシア国内でもMEMSやセンサーに関する関心や需要の高まりから、このSovtest ATEや、そこを母体とするRussian MEMS Associationが中心になって、欧州の研究所、VTTやフラウンホーファー研究所等と連携を取ってMEMSの産業育成を推進しています。今年の7月に東京ビッグサイトで開催されたナノマイクロビジネス展に、このSovtest ATMのテステング関係の責任者であるRYKOV氏が来日され、日本との協力関係を希望されていました。さらにMEMSの波でご紹介したように、9月26日にSovtest ATEのVladimir Lisov副社長がマイクロマシンセンターを訪問され、MEMS産業の現状や課題に関して情報交換のMeetingを持ちました。

ここで、Russian MEMS Associationのあるクルスクと言う都市は、モスクワから約500km南にある小高い丘の上にある中規模の都市です。ロシア南西部に広がるクルスク州の州都で工業都市、冶金、機械、化学工業が盛んでクルスク市にある国立南西大学はロシアで3本指に入る理系の大学とされています。人口は約40万人、ソビエト連邦時代には、クルスクは付近の豊富な鉄鉱床の存在から重要視され、ロシア南西部の鉄道の中心地となり、第二次世界大戦中にはドイツ軍と赤軍との間で大規模な戦闘(クルスクの戦い)が行われた場所でもあります。

丁度、私がクルスクを訪問した時に国立南西大学にて理学祭が行われており、そのお祭りに参加させて頂きました。日本の大学祭と違って高校の文化祭のような雰囲気で、ダンスや歌謡等の賑やかなものでした。最初にロシアの科学技術がどのように発展したかを、貴族の衣装を来た学生による寸劇で表現されていたのはとても印象的でした。その式典に学長のSegey G Emelyanov様のご挨拶が、学生が飽きないような工夫のもとにされたのも印象的です。この式典の後、幾つかの教室で学生による理学実験が紹介されていました。Er5

写真 5 Dr. Denis Urmanov(ウルマノフ様)と一緒にEr6

写真 6 国立南西大学のナノテクノロジー研究セン ター長のクズメンコ教授(左)Er7_2

写真 7 国立南西大学の理学祭での寸劇

私は(はるばる遠方の)日本からの来客として学長室に通され、Segey G Emelyanov(エメリヤーノフ)様と、ATEのマルコフ社長と一緒に面談の機会を得ました。産官学連携のハブとして機能しているマイクロマシンセンターに興味を示され、学術分野での日本とロシアの連携を希望されていました。その学長へのご挨拶と前後して、国立南西大学のナノテクノロジー研究セン ター長のクズメンコ教授の研究室の見学や、ロシアの産官学連携、日本での産官学連携の状況等を情報交換する場を得ることが出来ました。また副学長の方ともお話をさせて頂きました。(名刺がロシア語でSpell Outできません)

その後、Russian MEMS Associationに移動しましたが、この事務所はSovtest ATEのオフィスの中にあります。ここではDr. Denis Urmanov(ウルマノフ)を中心に情報交換をさせて頂きました。

1) ロシアでは本学術領域は、まだ大学レベルの研究が中心である。

2) しかし、実際には応用分野は沢山あり、既に様々な場所でMEMSは利用されている。

3) ロシアの企業、例えばSovtest ATE等はシステム開発やシステムの評価等を行っている。

4) 今後の本格的なMEMSの普及に向けてネットワークと産業推進、人材育成を目的にRussian MEMS Associationを設立した。

5) Russian MEMS Association・SovtestATEが海外の研究所、Leti,VTT、フラウンホーファー研究所と共同でMEMSやそれを使ったモジュールを開発している。

6) 日本にはMEMSの人材育成の依頼をお願いしたいと思っているが、言語や文化の問題があって簡単ではない。

7) 一般財団法人マイクロマシンセンターで行っている国際標準化や展示会活動に関して興味がある。

日本からはマイクロマシンセンターやMEMS協議会のご紹介、ナノマイクロビジネス展のご案内および国際標準化の取り組みを紹介致しました。特にマイクロマシンセンターで行っている人材育成と、国際標準化に関して強い関心と期待を寄せておられました。

Russian MEMS Association

www.mems-russia.com 

 

以上、フィンランドとロシアの研究所を訪問した結果を報告しました。印象深い国ですが、長い歴史があるように、今後の産業国際交流も長い年月で考える必要があります。昨年と同様に今年度も、国際交流や情報収集結果を基に国際産業調査報告会を開催予定です。皆様のご参加を期待しています。(MEMS協議会 三原 孝士)

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写真 8 国立南西大学・理学祭でのエメリヤーノフ学長(右から2番目)Er9

写真 9 国立南西大学での情報交換会でのメンバー(右2番目 ATEのマルコフ社長、左端は副学長様)Er10

 

写真 10 ENASと共同研究されたセンサーモジュール、2次電池を搭載する。

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