2012年米国MEMS産業動向調査(その1)ミシガン大学WIMS訪問調査報告
米国MEMS産業動向調査を目的として2012年11月2日にミシガン大学WIMS(Wireless Integrated MicroSensing & Systems)を訪問しましたので、調査内容を報告いたします。
米国のMEMS産業の現況に関し、大手企業は引き続き好調を維持し、キラーアプリを目指して多くのファブレスベンチャー企業が今も続々と誕生しています。これらの好業績をサポートするのが米国の大学のMEMS研究機関で、大学でありながら本格的なMEMS試作ラインを備え、研究開発からプロトタイプ試作まで幅広くサポートできることを特徴としています。その中でもミシガン大学WIMSはすべての面で大規模にMEMSの研究開発を進めている代表的な大学です。今回は、研究開発の方向性、企業サポートのシステムについてヒヤリングを行ってきました。
ミシガン大学 WIMS (11月初めで紅葉はほとんど終わり、東京の真冬並み)
WIMSの概要は次の通りです。研究領域は組織の名称にありますように集積型のワイヤレスセンサシステムを指向しており、開発デバイスはMEMSセンサの他に通信回路、低消費電力回路、小型バッテリー、実装パッケージング技術の開発も行っています。アプリケーションは医療・ヘルスケアシステム、スマートシティ、環境センシング、情報通信システム等への適用が考えられています。
試作設備は、約5000m2の広さの部屋に6インチのMEMSの標準試作ラインを中心に各種実験装置が展開されています。特徴的な設備はi-lineステッパ、EBリソグラフィ、CNT成長装置、STSの垂直エッチング装置Pegasasが3台等に加え、最近拡散炉、CVD等20台を新規に導入されました。企業の試作から、学生実験まで幅広く使われるため、コンタミが厳重に管理されたラインと多種の材料を許容する実験装置とを用意して多様なニーズに答えられるように管理されています。なおCMOSチップが必要な場合は、WIMSで設計して素子試作は外注するとのことです。
クリーンルーム MEMS試作設備 (STS Pegasasが3台並ぶ)
研究資金は大学からの交付金、企業からの共同研究資金、寄付の他、DARPA、FDA、NSF等公的機関からの競争的資金があります。現在の研究プロジェクトは50、成果指標の中で特筆すべきは、2000年から今日まで12のスタートアップ企業が生まれたことです。これはいかに実用化を目指した研究開発を重要視しているかを示しています。
企業とのコラボレーションを推進するにあたり留意されている点は、企業ニーズと大学が提供できるサービスをしっかり見据えて双方のメリットを明確にしてから取組んでいることです。大学からは研究協力と設備貸与の他、特徴的なこととして、共同研究に学生を参加させることが可能で(企業の希望に応じて)、プロジェクトが終了すると、その学生はその企業に就職するケースが多いとのことです。共同研究の目的の中にリクルートも含められるということで、これは企業、大学双方にとってメリットと考えられます。
研究開発の基本方針はMEMSデバイスを含むワイヤレスセンサ小型モジュール設計、製造技術を基盤技術として、様々なアプリケーションに展開しています。モジュールの中にはMEMSセンサの他、RF-MEMS、無線インターフェース、小型パッケージング、低消費電力回路設計等が含まれます。アプリケーションは、医療・ヘルスケア用センサ、環境センサ、構造物診断システム等で、医療。ヘルスケアのテーマの占める割合が多いようでした。
主な研究テーマをあげますと、人体埋め込み型の眼圧センサ。これはわずか1.5mm3の容積の中にMEMS圧力センサ、センサ信号処理回路、無線回路、太陽電池含む小型電池が集積化されています。この中で通信回路と小型電池は汎用モジュール化して他のセンサでも共通的に使えるようにしています。このモジュールは容積わずか1mm3でMichigan micro Mote(M3)と名付けられています。無線回路の低消費電力化にも取組み116nWまで達成しました。他にRF-MEMS(チューナブルフィルタ)、人工肺臓onシリコンチップ、各種人体埋め込みセンサ、小型ガスクロマトグラフ、他多数のデバイス、モジュールが研究開発されています。
以上、全体的には大学でありながら、経営的なマネジメントシステムが取り入れられている印象を持ちました。すなわち社会ニーズ/企業ニーズを見据えた実用的なテーマ設定、企業の大学への期待/大学からの企業への期待を明確にしたWinWinの産学連携関係の構築、優秀な研究リーダ育成、企業家精神旺盛な学生の育成、これらの要因が合わさって、理想的なスパイラルアップ(研究蓄積→企業とのコラボ促進→研究資金→新規設備導入→研究蓄積)がなされて現在の立派な研究機関へ成長できたものと考えられます。また米国に限らずMEMS産業の発展への寄与が大変大きいと感じられました。
産学連携担当 Dr. Andrew Oliverとクリーンルームの前で
参考:http://wims2.org/
阪井 淳
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