2012年度 ナノマイクロ領域での欧州産業技術調査(その2:セミコンヨーロッパ2012および国際MEMS/MST産業化フォーラム)
2012年度 ナノマイクロ領域での欧州産業技術調査(その2:セミコンヨーロッパ2012および国際MEMS/MST産業化フォーラム)
2012年10月8日から11日まで、ドイツ・ドレスデンで開催されたセミコンユーロに参加しました。ドレスデン(Dresden)はドイツの東の端、ザクセン州の州都ですが、この地域はSiliconSaxonyとも呼ばれ、キマンダ社、GLOBALFOUNDRIES (グローバルファウンドリーズ)社などの電子デバイス製造拠点や、多数のマイクロエレクトロニクス関連の研究所があります。昨年も同じイベントに参加しましたが、併設されている「国際MEMS/MST産業化フォーラム」は、世界有数の企業や専門企業、および産業技術を主体とする研究所から実用化が始まろうとしている最先端のデバイス、MEMSを支える最先端の装置や材料技術、世界中のMEMS産業動向調査等が2日間で全容を理解できるフォーラムであり、私の知る限り最も充実しているものと思います。
写真1. セミコンユーロの開催されたメッセドレスデン
写真2. セミコンユーロ受付ロビーの正面玄関
最初に「国際MEMS/MST産業化フォーラム」を報告します。このフォーラムは8日と9日の2日間で19の発表がありました。
(1)応用セッション 9件
最初にBosch SensortecからConsumerMEMSと呼ぶ、スマートホンやゲーム、携帯コンピュータに利用されるMEMSの発表がありました。これらのMEMSの代表は多軸の加速度センサーや傾斜センサーです。私も15年前に仮想現実の研究テーマで圧電素子を使った加速度センサを用いて位置や動作を検出した経験がありますが、ドリフトがあって静止状態を検出出来ませんでした。10年前にはMEMSセンサーがありましたが、静止状態を含む動作を検出しようとすると最低でも5個以上のセンサーが必要で、価格が1万円以下になることはないと思っていました。ところが今は、3軸の加速度センサーと、3軸の電子コンパスを数ミリのチップに集積するレベルになっています。更にこれらのデバイス開発は「最先端の技術的な挑戦」であるとの報告があり、例えば加速度センサーで使うMEMS構造体の変位は4fm(これはSiの格子間距離の0.00001)また、検出する容量変化は2zF(10の-21乗F)であり、周辺の回路技術も高度になっています。またSiTimeの水晶発振素子を置き換えるMEMS共振器の発表がありました。実用化当所は水晶に見劣りする特性もありましたが、5年間で性能を250倍あげ、現在では全ての特性において水晶を上回っているとの報告です。これらはブレーススルーではなく、地味な改良によって成し得たとのことです。問題になっていた温度特性も内部温度センサーの補償によって-40度から80度までで、25ppm以内に抑えてありました。wiSpry社のRFMEMSはMEMS可変容量デバイスという極めて簡単な構成ですが、可変容量、可変フィルター、可変ゲインアンテナと様々なFRMEMSに適用できるとの発表です。STマイクロは、iNEMOと呼ぶ32bitMCUを搭載した9Dセンサーや、今後はポータブル音響システムに様々なMEMSが搭載されるとの発表がありました。
写真3.チェアであるBosh Senontec のLammel氏
(2)MEMSファンドリ 2件
MEMSファンドリ企業であるSilex社から興味深い発表がありました。1985年に起こったPCを中心とする第一次ITイノベーションブームに対して、現在の第二次ITイノベーションブームは、デバイスの出荷量で2桁のボリューム拡大があるとのことです。よってアイデア、研究開発、量産まで如何に早く展開出来るか?がビジネスの成功には重要であるとのことです。ある意味では、設計会社からMEMS開発研究所、MEMSファンドリが揃っている(特に欧州)では、アイデアさえあれば、あっという間に(市場を席捲できる事業を)立ち上げることが可能な環境が整ってきたわけです。またフィンランドの電子デバイス、およびシステムの研究所であるVTTは、研究開発が終了したデバイスを少量生産するためのファンドリを最近始めたとのことです。VTTの新たな取り組みも、研究開発から実用化までの時間を短縮したいとの強い希望の現れと考えられます。
(3)MEMS最先端技術 6件
技術セッションの中で特に興味深い内容は、DebiotechのJewelPUMPと呼ぶインスリンポンプでした。これまでも小型ポンプはありましたが、MEMSで作成することで圧倒的に小さくなることの他に、加工や制御の精度が圧倒的に上がって、従来の小型ポンプの流量変動が10%以上(場合によって30%以上)が5%以下になるとのことです。このDebiotechはMEMSを含む最先端技術のライセンス会社で、自ら製造販売するのではなく、ライセンスするようでした。また今回は3次元実装に向けた技術開発の発表もあり、低温で実装することでストレスが少ないMEMSの開発が可能とのことです。特に低温接合では、海外の企業の研究者も条件出しにそれなりに苦労をしているように見受けられ、技術的にも装置企業の先進性も日本が一歩リードしている印象を受けました。
また、このフォーラムでは少々異色と思われますが、生体整合材料をプラズマ成膜にて様々なデバイスや部品に付与する発表があり、MEMSへのバイオ、医療応用を強く意識したものと感じました。またウルトラ低価格MEMSという発表では、CMOSの配線領域にある多層配線材料(金属や絶縁膜)を使って機構MEMS作り込むもので、新たなチップ面積の増大なしにMEMSが実現でき、5年程度前から台湾の研究者が盛んに研究していた構成に似ています。複雑な構成のためヤング率等の物性が予測できないので、ある程度作りこんでいく必要があるとコメントされていました。最近のMEMSは、多軸で複数のMEMSセンサーが搭載され、その出力を同一パッケージのCPUである程度処理することを考えると半導体チップも結構大きくなります。よってこのような方法は安価な量産MEMSには向いている領域もあると感じました。
写真4.DebiotechのJewelPUMP
(4)MEMSマーケット 2件
MEMSマーケット予測では、MEMS分野の二大調査会社であるiSuppliとYole Développementから発表がありました。2010年からスマートホン向けのMEMSが急激に伸びていますが、2015年位に価格が下がって一旦飽和し、その後比較的安定なマーケットの伸びが期待できるとの予測を示しました。加速度センサーや傾斜、位置センサー、圧力センサー、マイクロホン等のコンシューマMEMSの価格が下がる為に、市場予測を数パーセント下げる必要があるということです。また今後伸びが期待できるMEMSマーケットは自動車用、産業用、バイオや医療用とのことです。具体的には、RF-MEMS関連が2016年に160Mドル、TV動作用のモーションセンサーが2016年に475Mドル、情報提示デバイス、MEMSスピーカ、タブレットに導入される環境やバイオセンサー、MEMSドラッグデリバリー、MEMSエネルギーハーベスティング等が有望とのことです。
この「国際MEMS/MST産業化フォーラム」の特徴は、産業化のセミナーとして参加者が特に興味を持ちそうなテーマを挙げ、世界中から発表者を贅沢に集めていること、大学からの講演は少なく、殆どは企業や、産業技術に特化した研究所からの発表である点です。
次に「セミコンユーロ」ですが、規模としては昨年と同規模ですが全体としては半導体の停滞に対して、三次元実装を含むMEMSが大きな比率を持つようになったと感じています。数字の上でも、最近の3年間でMEMSの市場が18%伸びている(iSuppli)こと、更に欧州の半導体製造装置に市場占有率が過去最低であった時の8%に対して昨年は24%に伸びたとの報告がありました。これらから全体に明るく、初日の夕刻に幾つかの会場で楽団を添えてのワインパーティが開催されていました。
写真5. テクノアリーナでの講演の様子
昨年と同じくテクノアリーナと呼ぶ100名程度入れる無料のセミナーが2会場あって、個別セッションを並列で行なっていました。私はこの中で、Process technology、 Advanced Process Controlと3D IC のセッションを聞きましたが、どれも最先端の技術発表で立ち見が出るくらいの好評でした。特に今回は、Advanced Process ControlというIT技術を駆使した品質管理を始めて聞きました。最近の命題は「如何に装置の稼働率を上げるか?」がテーマになっていて、装置単位のメンテナンスの必要時期や故障を事前に予知することにIT技術を使っています。このために製造装置に様々なセンサーをつけて、その膨大な情報から、装置メンテナンスの必要性をアラームしたり、装置の故障を事前に予測するものです。これらは製造装置内部のセンサーネットワークですので、センサーネットワークに守られた装置でセンサーが製造されていることになります。また、3D IC のセッションでは、やはりTSVを使った実装方法に集中していました。特に欧州を代表する幾つかのMEMS企業では、何処も最先端のTSVの検討が(ある程度は)終わっていて、何時でも生産に入れるような印象でしたが、明確に市場導入を明言した発表は無かったと記憶しています。
写真6. フランフォーファのIZMは三次元実装ウェハー展示
最後に各ブーズを回っての感想ですが、まず殆どの研究所は印刷電子技術(Printed electronics)を重視しています。特にフランフォーファ研究所のIZMは三次元実装に注力し、12インチのTSVウェハを展示していました。TSVに関する実験設備はメッキからCMPまで揃えてあるとのことです。但しIZM自身がファンドリーサービスは行なっていないとのことです。またノルウェイのベンチャーである、ThinFilm社から印刷可能なメモリデバイスが展示されていました。印刷された電極材料の間に高分子強誘電体材料がサンドイッチ化されていて、電圧で書き込み、同じく電圧印加の容量変化で読み出すとのことです。即ち強誘電体メモリの印刷電子版です。ThinFilm社によると材料研究や材料を扱える企業が鍵を握っているとのことでした。これから様々な材料の特性を利用したセンサーを集積するとのことで、複数の企業との協力体制で事業化を進めるとのことです。(MEMS協議会 三原孝士)
写真7.ThinFilm社から印刷可能なメモリデバイス
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