2012年度 ナノマイクロ領域での欧州産業技術調査(その1・研究所訪問)の報告
2012年度 ナノマイクロ領域での欧州産業技術調査(その1・研究所訪問)の報告
MEMS協議会の事業の一つとして推進しています国際交流事業では、国際マイクロマシンサミットへの参加や、マイクロマシン展での国際マイクロマシン・ナノテクシンポジウムの開催、国際ビジネスワークショップの開催等に加えて、現在19機関ある国際アフィリエイトと連携した海外産業技術調査を行なっています。
今回、ドイツ・ドレスデンで開催されたセミコン欧州および、国際MEMS/MST産業フォーラムへの参加に合わせて、オランダとドイツの研究所の見学とヒアリングを行いました。
ご存知のように、欧州ではナノテクやMEMSに対する継続的で旺盛な投資が行われ、かつ大学や研究所が所管する大型研究施設に世界中から多くの企業が参加・連携し、既に沢山の産業化のシーズ、多くのベンチャーが育っています。今回訪問したオランダやドイツの3つ研究所は、それぞれ異なった生い立ちや、研究および産業推進の戦略を持っており、大変参考になりました。訪問した3つの研究所の概要を以下に示します。
1) High Tech Campus Eindhoven・Holst Centre(IMEC分室)オランダ
オランダ・フィリップスの半導体・マイクロシステム関連の研究所が母体になり、研究所の施設・研究者とエンジニア、その専門スキルを使って企業初オープンイノベーションを行う施設。2005年から開始したが、既に100社の外部利用、8000人の参加者がある研究体に成長した。
2) MESA+ Institute of Nanotechnology(Twente大学) オランダ
バイオMEMSとマイクロTASを早くから研究開始し、当該分野で世界を牽引する研究所。その中で生まれた新技術を元に多くのベンチャーを創出するツエンテモデルと言われる大学初の産業推進を行っている。
3) IMTEK University of Freiburg ドイツ
フライブルグは、ドイツ南部のフランスとスイスの国境近くにある小さな街であるが、逆にハイテク都市(フランスBesanconやスイスNeuchatel)が多いこの地の利と、ドイツの中でもSouth Westと呼ばれるハイテク産業地域と大学が連携したマイクロ産業施設の機能を持つ、HSG-IMITを持つ産業界のための研究所。
1. High Tech Campus Eindhoven・Holst Centre(IMEC分室)オランダ
オランダ南部のアイントホーフェン(Einhoven)-ここはオランダ・フィリップスの企業城下町ですが-郊外の広大な敷地にあるハイテクキャンパスHTCEは、比較的新しい研究所で、オランダ・フィリップスの半導体・マイクロシステム関連の研究所が、その企業戦略(エネルギーや医療に経営資源を集中)を変更したおりに、当該研究所をオープンイノベーションによって(その研究施設と研究人材、研究スキルを)活用するための施設です。写真にありますような膨大なキャンパスに、8インチまでのCMOSと6インチのMEMSライン、様々な研究施設、フィリップス社の半導体子会社であるNXPや既に100社あると言われる参加企業のオフィス、半導体やMEMSの評価や信頼性の試験センター等々・・さすが世界のフィリップスの研究インフラとその研究員・スキルを最大限活用した研究所で、既に外部から参加者は8000人と言われています。また管理法人であるHigh Tech Campus Eindhoven(HTCE)は不動産会社が所有し、そのメンバーは僅か17人であり、研究所の管理運営等の殆どの活動を外部への受託で賄っています。
またMEMS関連研究所であるホルストセンター(Holst Centre)はオランダのTNO(応用科学研究機構)とベルギーのIMECが共同で設立した研究開発所であり、オープンイノベーションを掲げ、アイデアと競争優位技術を駆使したグローバルな研究所です。海外28カ国からの参加があり、世界の大学や研究所39カ所と連携、23の企業とパートナーを組んでいます。IMECの分室としても知られ、特に有機デバイス、印刷電子技術、超低消費電力技術、エナージハーベストやセンサーネットワークの研究に強みがあります。今回ご案内を頂いたホストはProf. Cees Admiraal ( Business Development Director, High Tech Campus Eindhoven)です。このHTCEのAdmiraal教授、Holst CentreとNXPの研究員、マネージャの方々をお呼びして2012年11月15日につくば産総研、集積マイクロシステム研究センター、オランダ大使館と(財)マイクロマシンセンターおよびNMEMS技術研究組合にて合同の国際ワークショップを開催予定しています。是非、御参加ください。
http://beanspj.cocolog-nifty.com/mems/2012/09/tia-n-mems-umem.html
写真 1 広大なキャンパス
写真 2 右がProf. Cees Admiraal
写真 3 既に多くの企業が利用
2. MESA+ Institute of Nanotechnology(Twente大学) オランダ
オランダの東部のドイツとの国境近くの比較的小さな町であるエンスヘディー(Enschede)の郊外の、やはり広大な敷地を持つTwente大学の中にあるMESA+(メサプラス)は、マイクロTASやナノバイオを強みとする世界でも有数のナノテクの研究所です。オランダを中心に世界的なバイオや製薬企業が多いことから、早くからマイクロTASやバイオMEMSが発展して来た経緯があります。またマイクロTASの父と言われるProf. A. van den Berg(マイクロマシンサミットに於けるルクセンブルク地方の団長)が長い間研究の主導をされて来られたことも良く知られています。またMEMS+の所有する大型研究拠点であるNANOLABは、1250平米の大型クリーンルームに、CMOSやMEMS、ナノテクの最先端装置を有しています。研究領域は広く、ナノテク(材料分野と計測を含む)とバイオMEMSに関することは殆ど網羅されていると思います。
今回のホストは、van den Berg教授でした。教授が協調されていたのは、世界的にも認知されているツエンテモデルと言う、大学の研究シーズをまだ若い博士が起業する産業化のスタイルです。当該研究領域で既に35のベンチャーが生まれています。成功の秘訣は若い研究者(博士)の活力を引き出し、支援する全てが揃っているとのこと。即ちエンジェルを含む投資家、知財や営業、経営を支援する専門家が長期的に支援するとのことです。確かに大学に最も近い鉄道の駅から大学までの間には数十社の企業オフィスが立ち並んでいますが、全て大学との連携があると言うことです。今も34の研究グループでは新規な産業化に向けた取り組みをしているとのことです。実際にvan den Berg教授が関与され、ベンチャーを立ち上げたマイクロ流路を使ったPOC血液分析装置を見せて頂きました。
研究施設であるNANOLABは、大学の研究所としては整然として良く管理されたものです。18名の技術スタッフで管理運営され、400人が利用しています。また年間運用資金は約9億円で、その内の40%は産業界からの資金が拠出されています。成功の秘訣は若い研究者の知恵を有効に使うこと、28-29歳で学位を取った研究者が1-2名で会社を起こし、最初の2年間は2.5万ユーロ、その後の3年間は20万ユーロの資金を標準的に調達してベンチャーを開始するようです。欧州ではベンチャーを支援する様々な公的な取り組むがあることはよく知られていますが・・それにしても日本とは大変な違い、と正直に思いました。
写真 4 MESA+外観
写真 5 van den Berg教授
3. IMTEK University of Freiburg ドイツ
フライブルグは、ドイツ南部のフランスとスイスの国境近くにある小さな街ですが、写真にあるような、何とも味のある時計台に見られるように古都を思わせる街です。The Department of Microsystems Engineering (IMTEK)は カールスルーエ研究所でMEMSの先駆的な研究をされてきたProf. W. Menzがフライブルグ大学に異動されて設立された研究所で、今では21の学部と、300人のスタッフを要する大きなMEMS、ナノテクやマイクロデバイスの研究所です。
今回のホストはマイクロナノ加工技術やナノインプリントを先導される、Prof. Dr. Holger Reineckeです。教授は、元光学計測関連の企業で技術者であり、ドイツのマイクロナノ領域の工業会であるIVAMの設立メンバーの一人、ドイツらしく様々な経歴の持ち主です。何故こんなに小さな街にと言う解は、むしろその地の利でした。フランスのハイテク都市BesanconやスイスのNeuchatelやZurichと車で数時間の距離、更にドイツの南西部はハイテク企業300社を抱えるビッグクラスターである、Microtech SouthWest と言う団体の中心に位置しているとのことです。
大学内にあるIMTEKは、4-6インチのMEMSのクリーンルームで、350人の研究員と、1300人の学生が利用、年間経費が約14億円の研究施設です。更に特徴的なのは、このIMTEKはFreiburgから車で2時間の標高1000mの小さな町Villingen-SchwenningenにあるHSG-IMITと言う産業界が共同利用する開発施設およびファンドリ施設の技術支援を行なっていて、Reinecke教授もこの施設のスタッフです。1988年から開始し、約5年かけて20-30億円(最初はドイツ政府からの出資)で施設や装置を整備し、最近の運営費は年間約10億円(内3億円は運営、他は装置整備と人件費)、その内80%は企業からの売上、4-6インチのウェハで年間10-20万ウェハーの処理能力があり、小ロットからある程度の量産までこの施設で製造しているとのことでした。利用者の60%が20-100名の従業員の小企業、ここから生まれたベンチャーは5社と少なく、むしろドイツ南西部の専門企業が大型施設を持たなくても、最先端の研究開発とある程度の生産が可能であることが最大の強みであるとのことです。(MEMS協議会 三原孝士)
写真 6 時計台と路面電車の街
写真 7 IMTEKの外観
写真 8 Holger Reinecke教授と
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