台湾のMEMS関連研究所、および企業訪問2012
台湾・新竹市にて2012年4月24日から25日に開催された第18回マイクロマシンサミット(Micromachine Summit 2012)に前後して、新竹地区のマイクロ・ナノ関連の研究所、及びITRIから起業し大成功を収めている企業の見学、更にマイクロマシンサミット終了後に追加イベントとして、台南市のITRIサウスのMEMS研究施設の見学と情報交換会を実施しました。参加者はMEMS協議会国際交流委員会委員長の下山東大教授を中心に5名の派遣団です。
<新竹地区の研究所>(4月23日)
(1)Nano Devices Laboratory (NDL)
Nano Devices Laboratory (NDL)は半導体(ナノテク、MEMSを含む)関連産業の開発者や大学・研究所に最先端の研究用実験施設やデバイスの評価装置の利用を提供することを目的に1988年に設立されたもので、毎年5000人が(セミナーやトレーニングを含めて)利用しているとのことです。所有設備は6インチMEMSと8インチCMOSで、研究から少量生産に最適なサイズで処理しています。ナノデバイスや電極を含む半導体材料の分析、評価、高周波デバイスの評価、光半導体を含むMEMS/NEMSが研究テーマであって、丁度ナノエレクトロニクスとMEMSを融合したような研究所です。驚きはその研究設備の充実ぶりで、例えばHigh Frequency Technology Centerには4つの実験室に各4台、計16台の最高200GHzまでの高周波プローブが並んでいました。それぞれ周波数帯や機能、評価チャンバーが異なっているものの、高価でノウハウが必要な高周波プローブシステム(通常は1研究所に1台を所有)が並んでいる様は、その充実振りに驚きました。
写真 1 NDLのビル
写真 2 NDLの記念写真コーナ
写真 3 NDLの広いCR見学場所
(2)Chip Implementation Center (CIC)
Chip Implementation Center (CIC)は、半導体やMEMSの設計と、実装およびシステム評価を行うために1992年に設立された研究機関で、公益的な研究とサービスを提供する研究所です。スタッフの人数は117名で、研究職は60%とのことです。年間350の利用件数があり、利用の割合は24%が設計、53%が実装・テストとなっています。特に設計を行う、或いはそれを支援するスタッフが多いことも、日本とは全く違います。昨年度は266の設計案件があったようです。また標準的な、TSMCとコンパチのCMOS(0.35um-2Poly、或いは0.18um)の試作、ファンドリサービスもあって、2011年は150種類のチップが試作されたとのことです。
写真 4 特徴的なITRIのビル
(3)Industrial Technology Research Institute (ITRI)
世界の半導体ファンドリであるTSMCを生み出した研究所で、世界的にも産官学連携が有名なITRIです。1973年に設立された5000人の研究者を有するこの研究者は、その38年の歴史において、10,000の特許を蓄積し、165の新規企業を作り、その中でも最大のベンチャーがUMC、TSMCです。ITRI内の展示コーナを見学するコースが有りましたが、少々驚いたのは、研究テーマは決してハイテクばかりではなく、アイデアさえあれば直ぐに具現化出来そうな技術や、社会ニーズから出てきた技術(例えば100Vで利用するLEDやスプリンクラーのノズル)もありました。これこそITRIの強みであり、産業を生み出す原動力と感じました。何年か前にITRIを訪問したときに、「ITRIには長居は出来ない、早くベンチャーを興して外に出るのがITRIの制度である」と聞いたことがあります。ITRIの電子機器部門の成功は米国でも評価され、調査団が来たようです。尚、ITRIの研究資金は70%が政府系、残りの30%は企業からです。
写真 5 ITRIの展示コーナ
写真 6 AMPのLin会長によるランチでのご挨拶
(5)Instrument Technology Research Center (ITRC)
Instrument Technology Research Center (ITRC)は、ITRIと粗同時期である1974年に創立された、デバイスではなくシステムを志向した研究所です。見学ではリモートセンシングによる環境計測や、分光分析装置、真空技術を使った薄膜製造装置等を見せて頂きました。
<新竹地区の企業>(4月26日)
(1)Asiapacific Microsystems Inc. (APM)
Asiapacific Microsystems Inc. (APM) はUMC、TSMCのMEMS版というべき存在です。 創立者で会長のLin(林)氏は大阪大学に留学された、日本にも大きなパイプがあり、またIRTIの副所長もされた方です。2001年にITRIのMEMS設備(の一部を)払い下げて作った会社は、当初はITRIのMEMS研究者が中心になって、独自MEMSデバイスを製造・販売する企業でした。設立当初に私も訪問しましたが、当時バブル状態であった光MEMSからRFMEMS、マイクロ流体まで何でも開発されている印象でした。その後、ファンドリーを開始して、徐々にその比率を増やし、3年前に完全にファンドリーに移行したとのことです。その時に技術とスキルを持った重層な技術者を抱えていたので、プロセスを逆提案できるファンドリーとして世界中から引き合いがあったとのことです。2010年度は純ファンドリーとしては世界3位、6インチCMOSコンパチで、年間生産可能量は120,000枚(ホトリソ換算)、ユーザは米国35%,日本12%、欧州と続きます。半導体のノウハウを受け継いで品質管理を完全な形で行なっているようです。
(2)Taiwan Semiconductor Manufacturing Co. (TSMC)
もう説明の必要がないような、世界中に認知度が高いTSMCは世界トップの半導体ファンドリー企業で、売上は15Bilionドルの規模です。ギガファボと呼ばれる12インチラインが新竹サイエンスパークに3工場あるとのことです。見学会は非常に厳しいセキュリティの中でビデオ説明と、MEMSの責任者によるQ&Aでした。MEMSのファンドリーは10年前から開始したとのことで、0.13umルール、6-8インチのラインを使い、年間13Milionの処理が可能とのことです。MEMS担当のスタッフは200人で、CMOSとの集積化を特徴にしています。CMOSとMEMSの組み合わせは、配線部を可動構造体として使うデバイスや、ウェハー実装で実現する物等様々です。 最近ではMEMSプラットフォームと呼ばれる方法で、2000前半は立ち上がりに5年以上かかっていた開発から量産までの期間が、現在では1年で完了するとのことです。またTSVに関しても進んでおり、CSPやCMPも揃っているようです。
(3)United Microelectronics Corp. (UMC)
UMCも同じくITRIから派生したファンドリですが、歴史的にはTSMCよりも古く、1980年に設立(TSMCは1987年)とのことです。12インチライン2本を含む、10の工場を持っています。特に顧客は米国45%、アジア46%となっています。また65nm以下の設計ルールが全体の50%以上と最先端施設を使っています。MEMSに関しても、RFMEMS,ジャイロ、カメラ用途、AFMと幅広いファンドリーを8インチ規模で行なっているとのことです。
(4)King Yuan Electronics Co. (KYEC)
今回の企業見学で圧巻だったのは、TSMCやUMCの工場の大きさは当たり前ですが、それ以上に台湾の実装やテスティングといったサプライチェーンの連続性と、その規模でした。KYECはICテスティング受託最大手です。1987年創立から徐々に拡大し、4つの工場に4500人の従業員、売上750Milionドルの規模です。ワンフロアに約300台、1施設に1000台のテスターが並んでいるのは圧巻です。ウェハーは6,8,12インチ対応、ウェハー状態でテストを行なったあと、提携する実装企業でパッケージしたあと、再度IC/LSIテスティングや信頼性評価を行うとのことです。年間100の顧客から約1000種類の評価を委託されているとのことです。
(5)Advanced Semiconductor Eng. (ASE)
ASEは実装に特化した受託サービス企業です。実装はダイボンディングとワイヤボンディングが中心です。他社に先駆けて銅配線を安定に使い熟すことで、性能価格比が20%以上も上げることが出来て優位に立ち、年間2倍のペースで生産量が増えたとのことです。実装装置がフロアに300台並び、ビル全体で2800台、グループ全体で7000台と世界最大の規模とのことです。全世界に17施設を持って40,000人の従業員、売上は4.4Bilionドル、実装の種類は約300、年間7Billion個実装しています。(単純には平均単価は50セント以上?)
更に驚いたのは規模だけではなくて、実装は非常に沢山の種類があって、ハイテクの塊であることです。既にウェハーレベル実装やTSVの領域に入っており、このような最先端技術と市場を持っている企業がMEMSのユーザになる日も近いと感じました。
<ITRI サウス>(4月27日)
(1)ITRI-South/ Microsystem Technology Center (MSTC)
MMサミットの4日間の濃厚なスケジュールが終わった後、ITRIのブランチ研究所であり、MEMS研究開発を中心に行なっている台南市のMSTCを訪問しました。台南市は新竹市から台湾高速鉄道で約70分南に下った海岸寄りの都市で、台湾の首府であった時期もあって、「台湾の京都」とも言われる観光都市です。MSTCでは大変な歓迎を受け、研究施設の訪問と、MSTCの研究所長クラス(MEMS、ナノテク材料関連)5名の方々との情報交換会を開催して頂きました。研究施設の見学会では、「窓越しに設備・装置や作成したウェハーを見せて終わり」というケースが多々見られますが、5から6の研究グループ単位で、その研究施設の入口に2帖程度の展示コーナがあって、しかも常設展示のようなMEMSの機能が判るようなモデル展示がされています。即ちMEMSを使って何が出来るのかを実際に体験する場で、研究員が熱心(しかし余り専門的にならない)に説明されていました。例えば、加速度センサーを使ってGPSと連動したナビゲーションの実験等です。これは我々も大いに見習うべきと思いました。理由を聞くと、ITRIでは企業の設計者が使って見たいと思うことから交流がスタートするので、技術を説明するよりも利点を説明するほうが意味が有る、とのことです。研究の内容としては、携帯端末に搭載する加速度、モーションセンサーは勿論ですが、MEMSマイクロホットプレートを用いたガスセンサーでは、ヒータの加熱速度の違いを利用してガスの種類を特定化可能なセンサーも、既に小型システムへ組み込んでデモされていました。
写真 7 MSTCでの情報交換会
写真 8 MSTCの皆様との記念撮影
情報交換会では、Chun-Hsun Chu MSTC所長から、挨拶とMSTCの全体紹介、沿線と研究内容のご紹介、またMSTCから起業したベンチャー企業等の話、特に重点施策は①地域産業貢献、②セラミック等のナノ材料の地域産業、③再生可能エネルギー、④研究サービスや試作・初期ファンドリー支援とのことです。 MEMS OpenLabでは、6-8インチ施設、ウェハーレベルPKGと迅速プロトタイピングを売り物にしているとの説明です。またNano-materials CenterのAlbert Shih所長からナノ材料、特にセラミック無機系材料や、自己組織化ナノ材料の研究テーマのご紹介、日本からは下山先生から日本のMEMS関連プロジェクト紹介、今仲MNOIC所長からMNOIC紹介、佐藤氏からMemsONE紹介、三原がMEMS協議会活動の紹介をしました。特にMemsONEはMSTCの研究者の方も良くご存知で、その機能に関しても調査・検討しておられ、英語版が出来れば使ってみたい、連絡して欲しいとのことでした。
情報交換会の席上で、日本企業の台湾への工場や研究開発施設の誘致(TJ-Park)の話題もありました。台湾のMEMSを含むマイクロエレクトロニクス全体の見学を見て感じることは、大学レベルの基礎研究、ITRIを含む公的研究機関の多重的なサポートや人材の確保によるMEMSの設計から機能確認、APMやTSMC/UMCといったファンドリー、更に大規模で多様性のある実装、評価の受託企業群・・・すなわちこの台湾は、決して大きくない国(高速鉄道とタクシーで2~3時間でどこでも行ける)場所に、何でも揃っている・・国家であると、感じました。日本のように一時期大量に作って同じものを世界に販売するよりは、共同開発や受託開発なので少なくても英語が堪能な国際的な人材が多数必要です。(多くは留学、海外Uターン研究者で構成)ドバイやサウジの国際化も驚きでしたが、台湾は別の意味で(より現実的な意味で)大きな感銘を受けました。(一般財団法人マイクロマシンセンター・MEMS協議会 三原 孝士)
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