メタマテリアル国際会議(META2012仏)参加報告
2012年4月19日~22日にフランス・パリで開催されたメタマテリアルに関する国際会議(META2012)に参加しましたので、その内容を紹介します。
メタマテリアルとは人工的に設計された構造で自然界にある材料ではなし得ない物性を持たせたもの。特に伝搬波の波長以下の周期構造を駆使して伝搬波の進行方向制御、遮断、閉じ込め、遅延等を自由に制御できる構造をさします。10年前はまだ注目度が低かったですが、理論や必要な加工プロセスの研究開発が進歩して現実性が増し、最近注目を集めている分野です。
この学会で取り扱う分野は、電磁メタマテリアル、プラズモニクス、フォトニック結晶、音響メタマテリアルで、それぞれの分野における理論・シミュレーション、デバイス試作・評価、製法に関する発表がありました。総発表件数は約540件、参加人数は約500人、発表の国別内訳は仏140件をトップに、仏、米、独で260件と半数を占めました。
一方アジア勢は中国30件、韓国20件、日本15件と発表件数では欧米が圧倒していました。この要因としてメタマテリアルはまだ基礎研究フェーズにあり、欧米の方が基礎研究人口が多いこと、合わせて理論研究が盛んなこと、デバイス開発を目指した場合、電子デバイスの設計技術、ナノオーダの加工プロセス技術が必要になりますが、欧米の大型研究機関、大学では総合的に取り組む環境が整っていること等が考えられます。
発表内容の全体動向ですが、本分野はまだ基礎フェーズだけ全体に理論や新しいアイデアの原理検証が大多数を占めた。上記4分野中では、プラズモニクス、フォトニック結晶に関しては1970年来研究が進められてきた分野であるため、デバイス試作・評価に関する発表も多く見られました。デバイスの種類としては、光アンテナを用いた赤外光、テラヘルツ波の受光素子に関するものが圧倒的に多く、これらのデバイスが最も実用に近いことが伺えました。
注目される発表を紹介します。
英Southampton大からメタマテリアルの動向の紹介がありました。メタマテリアルやメタの定義に関しては決定されたものはなく、人によって、分野によって異なります。ここでは「メタマテリアルからメタデバイスへ」というタイトルで言葉の定義と開発動向を紹介していました。
「メタマテリアル」とは用いる電磁波の波長以下の構造を設計することによって新たな物性を備える人工物質。
「メタデバイス」とは電磁波の波長以下の構造で生まれる新しい機能を備えるデバイスと定義しました。
メタマテ応用デバイスの例として、超電導メタマテ、量子メタマテ、MEMS&NEMSメタマテ、非線形&スイッチングメタマテ、メモリメタマテ、メタマテ発光素子、センサメタマテをあげました。それらを実現するための基本技術として負屈折メタマテ、散乱メタマテ、カイラルメタマテ、人工磁性、変形光空間をあげました。Southampton大ではこれらの分類に基づいて様々なメタデバイスの研究開発を行っています。
Rice大学からナノアンテナを用いた近赤外スペクトル検出素子の発表がありました。
プラズモン現象は光の波長以下のナノサイズのメタルにサイズに応じた共鳴
周波数の光を照射すると自由電子が励起され光電場増強が起こるものです。受光素子として応用する場合、励起した電子を外部に取り出す必要がありますが、Rice大学ではAu/Siショットキダイオードの構造を応用して受光素子として動作させることに成功しました。(右写真)
またナノアンテナのサイズを変えることによって受光スペクトルのピーク波長がシフトすることも検証しました。(右写真)
UCBerkeleyから局在表面プラズモン(LSPR)を応用した超高感度ガスセンサの発表がありました。SPRを応用した化学・バイオセンサは実用化されており、さらに応用範囲を広げようとしている。ここでは水素ガスに感応して物性が変化するパラジウム粒子と金のナノアンテナを組み合わせて、水素ガスの吸着によるわずかな光物性の変化を、反射光の波長のシフトとして捉えて、高感度化できることを検証しました。右写真上図はパラジウム粒子単体の場合で、水素の吸着によって反射光がわずかに減少しています。
一方下図のように三角形の金のナノアンテナをパラジウムに近接配置させることによって光照射した時の電場増強が起こり、反射光のスペクトルの明確な変化として捉えることができます。
阪井
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