2011年 北米MEMS研究動向及び研究機関運営に関する訪問調査報告
海外のMEMS関連研究機関における研究開発動向及び研究所運営方法(政府のサポート、企業のサポート等)の調査を目的として、カナダ、米国の研究機関を訪問調査しましたので、調査結果を報告致します。
北米には多くの研究機関が存在しますが、本年は日本では比較的知られていないが特徴ある研究機関、企業としてカナダ・アルバータ州の大学、ベンチャー、ファンドリーと米国 Sandia研究所を訪問調査しました。
なお本訪問調査はMEMS Executive Congress(米MIG主催)参加と合わせて行いました。
調査結果を以下にまとめます。
◎カナダ・アルバータ州MEMS関連機関
アルバータ州政府はマイクロ/ナノシステムの研究機関、企業の育成を重点政策として多額の投資を行っています。特にアルバータは石油資源が豊富で財政が潤沢にあり、投資先としてマイクロナノ関連の技術開発、産業化促進が選択されたそうです。今回はその中からMEMSに関連する研究所、企業を訪問調査しました。
■州立アルバータ大学 NanoFab @エドモントン市 アルバータ州
http://www.nanofab.ualberta.ca/site/
○運営
・マイクロ/ナノシステム研究のためのデバイス試作拠点として1999年、NanoFabを設立。
・アルバータ州政府から投資4回、合計約40億円を受けてデバイス試作設備を導入、更新。
・標準的なMEMS試作ラインをベースに個別デバイスに対応したリソグラフィ、成膜装置、エッチング装置を備える。評価用実装設備、各種解析装置も備える。
http://www.nanofab.ualberta.ca/site/?page_id=39
・Siウェハサイズは4インチ、6インチ両方に対応可能。
・現在のユーザはカナダ国内の大学、企業。将来的にはオープン化を検討する。
・スタッフは技術者、オペレータ合わせて10人。
・現在の登録使用者は約100人。割合は大学90%、企業10%(12社)。
・基本は設備の時間貸しだが、スタッフがデバイス設計、プロセス面で研究開発に協力する。
・成膜装置等、コンタミの影響が大きい設備については大学用と企業用と分けてそれぞれの要求レベルに応じて管理する。例えばある成膜装置は主要ユーザのMicralyne社専用として管理している。
・ユーザ使用料はアカデミックレートは一般の3分の1。
・収支は支出が設備管理とスタッフ給与で$1.5M/年、収入はユーザ使用料で$0.5M、政府補助が$1M。
・支出の55%はスタッフの給料、45%は設備の管理。
・企業のプロトタイプ試作及び信頼性評価までサポートする。
・スパッタ等成膜装置は大学用であっても使用できる材料を決めている。鉛等有害物質系は認めていない。
・フォトマスクは設計からマスク作製まで内部でできる設備を有する。
・MEMSの設計シミュレーションも行う。LEDIT,ANSYS,Intelisuite,COMSOLを使っている。
・SEM等評価設備もそろえる。
・IPに関し、NanoFabはサポートなので共同で新規アイデアが出ても要求しない。
○研究内容
・EB加工、Boschプロセス等のマイクロ加工技術を応用したMEMSデバイス開発
・開発例:マイクロピンセット、RF-MEMSスイッチ、PDMSマイクロフルイディクス、ナノスケールFET、X線マスク他
■Precisely Microtechnoloy Corp. @エドモントン市 アルバータ州
http://www.preciseley.com/index.htm
■ Micralyne社 @エドモントン市 アルバータ州
○運営
・純MEMSファンドリーではDALSA、Silexと並ぶ世界トップ企業。
・Alberta大からのスピンアウト。1998年設立。
・6インチプロセス、8インチ化計画中。
・同じ建屋内にあるACAMPは政府系、技術開発サポート機関でパッケージ技術を担当。
・アルバータ大NanoFabと連携。同大の研究設備を活用している。
・ビジネスモデルは量産受託だけでなく、技術開発から共同で実施するのが特徴。
・従って事業開始時の少量量産も受託する。
・Si汎用デバイス、MEMS汎用プロセスだけでなく、マイクロTAS等のガラス基板も扱う。
・日本企業からの依頼も受けている。アマダも顧客の一つ。
・パッケージ、試験方法も同時に開発する。
・IPは開発ステージで分ける。量産委託ならプロセス改善してもすべてユーザに帰属。
・共同開発なら「寄与率に応じて」を契約に含める。
・09年の東京開催マイクロマシン展に出展した。
○開発、量産デバイス
・TSV、ウェハレベルパッケ-ジング等MEMSの標準プロセス、パッケージングはすべて揃う。
・扱うデバイスの分野は、光MEMS、MEMSセンサ、ライフサイエンス。
・標準的なSi基板MEMSデバイスからガラス基板を用いたマイクロフルイディクスまで幅広く受けるのが特徴。
・個別のプロセス開発も受託する。
・有機半導体デバイスの開発も行う。現在有機層の配向成長を共同開発している。
・その他新材料も積極的に取り込む。
■ 国立Sandia研究所 @アルバカーキー市 ニューメキシコ州
○運営
・1949年設立、マンハッタン計画をルーツに持ち、国防のための研究所として設立。
・エネルギー省、国防省からの資金で運営。
・設立時の主な研究分野は核兵器、エネルギー、防衛システム。
・職員はPhD取得の新卒。企業からの転身は無い。
・訪問のためのセキュリティは厳しく、事前の身分照会、目的審査があり、訪問時も最初に入国管理局に連絡して入国審査の確認を行う。
・入所にはカメラ、携帯、PC、メモリーの持ち込み不可。
・検門所には軍隊が立つ。
・電子デバイスは、耐放射線半導体デバイス他軍事用デバイスの研究から始まって現在は蓄積技術を民生分野にも応用。
・現在の開発デバイスはCMOS(サブミクロン)、化合物半導体(レーザ)、MEMS。
・Sandia研のシーズ技術と民間のニーズとマッチした分野で共同開発を行っている。
・日本ではあまり知られていないが、共同開発パートナーは米国に限らず、海外機関も可能。
・現在メキシコの大学、シンガポールの企業と共同研究をしている。
・外部機関と共同研究を行うが、共同研究先であっても外部機関の人はSandia研内には受け入れられない。装置の高度な維持管理と機密防止のため。
・全設備に専用オペレータが付きコンディションを厳密に管理する。
・設備メンテ、品質管理は、大手メーカの半導体工場と同じレベルを維持している。
・よってここで試作されたデバイスは信頼性評価まで行う。データ再現性のレベルも高い。
・ミシガン大等米国の大学との共同研究は多い。
・米国企業との研究事例も多く、その内容は公開している。
・日本は原発保全システム用耐放射線デバイスのニーズが高いと予測する。
・Sandia研は耐放射線に関し多くのノウハウを保有し、日本に協力することができる。
○開発デバイス
(MEMS試作ラインを見学)
・設備は6インチMEMS試作ライン。量産にも対応できる最新自動機を揃えるので、研究開発から少量量産まで対応する。
・MEMS/CMOS積層型等のトレンドとなっているプロセス技術を保有。マイクロ化学分析、画像センサ、ナノテクノロジ応用電子デバイス等、様々な分野のデバイス設計技術も保有。
・デバイス設計、シミュレーションソフトは自前で作成。
・開発中のMEMSデバイスは主に高付加価値型で低コスト民生用の実績はあるが少ない。
・技術開発の狙いとして小型低コスト化、小空間で動作するアクチュエータ、ユビキタス向け、アレイ化、集積化を謳う。
・開発デバイス例:
マイクロ化学分析チップ、光MEMS、SiナノワイヤFET、放射線センサアレイ、CMOS一体型圧力センサアレイ、AlN膜RFフィルタ、イオントラップ型量子コンピュータ素子等。
今回の北米研究機関訪問全体を通して、MEMSやマイクロナノシステムは今後さらに応用分野が広がり市場も拡大するという期待のもと政府から大きな支援を受けて各研究機関がデバイス開発に取り組んでいる姿を見ることができました。
アルバータ州では政府が音頭を取って、研究、技術開発のサポート機関を設立し、ベンチャーの育成、ファンドリーの支援を行っており、マイクロナノシステムの研究から産業化まで地域内においてトータルで成長していけるようなシステム作りを実践しています。
日本でも現在マイクロマシンセンターが中心となってMEMSの技術開発サポート機関の設立やファンドリー事業拡大の施策を進めていますが、今後さらにアルバータのように研究から産業化までトータルで成長していけるよう提言をしていきたいと考えます。
米国では軍事用に開発した技術の民生への応用が国策として行われており、Sandia研究所でもMEMSにおいて民生への転用を積極的に推進していました。要素技術を高いレベルに高めて、幅広い応用展開やメジャーな分野での競争力強化に展開していけるようなプロジェクトの提言をしていきたいと考えます。
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