未来デバイス研究会

2009年5月 8日 (金)

未来デバイス研究会(その5)プロセスインテグレーション


 これまで紹介したグリーン、ホワイト、およびブルーデバイスの実現を支えるためには、従来のトップダウンプロセスとボトムアッププロセスを融合させた新たなプロセス技術群が必要になるわけで、この検討はプロセスインテグレーション分科会(委員長:首都大学東京システムデザイン学部 諸貫教授)にお願いしました。同分科会では、未来デバイスのアプリケーション実現に必要なプロセス基幹技術群を次のように整理しています。

(1)三次元ナノ構造の製造技術
 リソグラフィとエッチングを組合せることで、いわゆる2.5次元構造(円柱など)が製作され、これのさらなる高分解能化も当然求められるでしょう。しかし、例えばテーパや自由曲面などの三次元加工要求に現状技術で十分に対応できるとはいえません。周期ナノメートルレベルの微細三次元構造の加工技術開発が必要となります。

(2)大面積
 ポスターサイズレベルの大面積の応用に対しては、印刷技術を適用すべきであり、これにより高速で大量の生産が可能となります。一方で、印刷技術の中でも一品物に対応可能なのがインクジェット技術です。スループットは落ちるもののカスタマイズされた製品設計に個々に対応するプロセスとしては有望と考えられます。この技術においても使用する材料に研究余地が残されており、将来的にはバイオを含めた微小デバイスそのものを付着させることも考えられます。自己組織プロセスによる構造形成においても面積拡大が重要な課題のひとつと考えられます。

(3)界面制御
 固体表面の濡れ性などを場所ごとに変えることができると自律的な組立てを行うことができます。例えば水に機能デバイスを分散させ、ここから基板を引上げることで親水部のみにデバイスを固定することなどが期待されています。様々な機能デバイス組立てに適用するためには、表面修飾を含む多くの技術開発が必要です。また、分子レベルの分解能でこれを行うためには、界面制御を極めて微細に行う必要があります。

次世代プロセスのイメージ図

(プロセスインテグレーションWG委員)
  諸貫 信行 首都大学東京
  芦田  極 産業技術総合研究所
  橋口  原 静岡大学
  寒川 誠二 東北大学
  銘苅 春隆 産業技術総合研究所
  不破  耕 株式会社アルバック
  五十嵐泰史 沖電気工業株式会社
  水田 千益 株式会社数理システム
  田中 浩一 ソニー株式会社
  川原 伸章 株式会社デンソー
  益永 孝幸 株式会社東芝
  橋本 廣和 株式会社フジクラ
  友高 正嗣 富士電機システムズ株式会社
  久保 雅男 松下電工株式会社
  浅海 和雄 みずほ情報総研株式会社
 
 なお、上述のプロセスインテグレーション分科会の活動については、諸貫委員長による 広報誌第62号(2008年1月号)の記事 から一部抜粋しました。(青柳@BEANS本部)


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2009年5月 7日 (木)

未来デバイス研究会(その4)ブルーデバイス


 グリーン、ホワイトに続いて、今回はブルーデバイスの紹介です。ブルーデバイス分科会の委員長は、東京大学大学院工学系研究科の三田准教授にお願いしました。同准教授も、やはり「未来に責任を持てる」バリバリの若手研究者で、竹内先生や三木先生などと同世代です。三田先生は、この研究会の後しばらくフランスに長期出張していましたが、現在は帰国してBEANSプロジェクトで活躍中です。
 
 本分科会では、より人間らしい快適な生活を実現するため、視覚触覚を超えた「五感」を伝送することのできるセンサ・アクチュエータ、さらに第六感-といっても予知能力や仏教用語の六根(五感+意根:心)ではなく、赤外線やテラヘルツ波によるイメージングなど、人間の五感ではセンシングできない物理量・化学量をセンシングするデバイス群を「ブルーデバイス」として、その創出を目指すべきと提案しました。
ブルーデバイスの応用範囲は情報通信・履歴監視・案内まで幅広い
 
 ブルーデバイスの実装形態は下図に示すような「タグ型」「携帯端末型」「大面積シート型」の3種類で、それぞれの特性に適した場所で活用されますとしています。
・タグ型:
 スーパーの「値札」や、それをさらに小さくしたような形状。食の安心デバイスのように、対象に貼りつけて長期に記録を取る場面で活用。
・携帯端末型:
現状の携帯電話のイメージに近い。携帯電話内部の部品は時代とともに小型化するが、操作性から端末自体の大きさはこれ以上小さくならないので、空いたスペースにブルーデバイスを集積化し、五感伝送デバイスとして活用。
・大面積型:ポスターなどの掲示物中にデバイスを集積化・またはポスター自体を電子デバイス化。動く等身大ポスターや同時通訳付き案内板などに活用。
ブルーデバイス実装の3形態

(ブルーデバイスWG委員)
  三田 吉郎 東京大学
  杉山 正和 東京大学
  染谷 隆夫 東京大学
  木股 雅章 立命館大学
  杉山  進 立命館大学
  一木 正聡 産業技術総合研究所
  樋口 誠良 オムロン株式会社
  最所 祐二 松下電工株式会社
  入江 康郎 みずほ情報総研株式会社
  出尾 晋一 三菱電機株式会社
  平田 隆昭 横河電機株式会社
 
なお、上述のブルーデバイス分科会の活動については、三田委員長による 広報誌第61号(2007年10月号)の記事 から一部抜粋しました。(青柳@BEANS本部)

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2009年4月23日 (木)

未来デバイス研究会(その3)ホワイトデバイス

 前回のグリーンデバイスの話に続いて、今回はホワイトデバイスの紹介です。ホワイトデバイス分科会の委員長は、やはり「未来に責任を持てる」バリバリの若手研究者である東京大学生産技術研究所の竹内准教授にお願いしました。同准教授は現在BEANSプロジェクトの中でLifeBEANSセンター長として活躍中です。
 
 本分科会では、20年後の少子高齢化社会を見据えて「最期まで元気」をキーワードとして、誰もが長く働き自律して生活できる環境づくりに貢献できるような健康・医療のためのデバイス(ホワイトデバイス)を提案しました。
 
(1)超小型体内埋め込みデバイス
 体内の各所に長時間埋め込み可能な超小型デバイスです。腹腔や消化器官内に滞在し、自律的に自走することで積極的に腫瘍やがん細胞などを発見し、治療することができます。このため早期発見率、治癒率が劇的に向上するでしょう。また、電源の要らないカプセル型のデバイスも考えられます。これらは、肝臓の門脈に、また腕部の静脈内に存在することが可能で、体外からの観察によって造影剤のように機能するので、カプセル周辺の血糖値や温度、圧力などの情報を24時間モニタリングできるようになります。糖尿病など、血液からの情報を慢性的にモニタする必要がある場合は、このような超小型カプセルによって患者の負担を激減させることができます。
 
(2)生体機械ハイブリッドデバイス
 生体分子や細胞などが融合したハイブリッドなデバイスです。生体材料や機能的高分子材料を用いることで生体情報や環境情報を、従来のセンサに比べ、高速・高感度にセンシングすることができます。これらは、生体に馴染む材料や機構から成り立っているので、生体と機械とのインタフェース(BMI(Brain MachineInterface)など)の強力なツールとなるでしょう。たとえば、生体分子として膜タンパク質などが活性を維持したまま人工膜上に再構成され、匂いセンサや味センサなどの超高感度化学量センサとして機能するものが考えられます。また、神経細胞がフレキシブル基板上に培養され、これらを脳表面に当てることで、細胞が脳内に軸索を伸ばし、所望の細胞と結合できるようになるかもしれません。これらの制御可能な培養細胞を通じて、組織電気・化学的な信号を計測したり、刺激が行なえれば、生体との適合性の高い、高精度なインタフェースができると考えられます。
 
(3)シート型健康モニタリングデバイス
 体表面に湿布のように貼り付けることによって、健康を管理するデバイスです。階層に無数のセンサやアクチュエータなどが埋め込まれているので、貼った部分の体内の情報を表示したり、体内への投薬操作や傷口の治癒促進など簡単な作用を施すことができます。たとえば、シート表面には、薄型超音波センサアレイが集積化され、裏面には平面フレキシブルディスプレイがあるデバイスなどが考えられます。これによって、取得した情報を素人でも2次元の大面積で観察できるようになるでしょう。また、侵襲なく貼り付けることができるため、健常者でも血流や心臓の様子などを判断でき、健康管理に利用できます。手術時に医師が容易に体内を観察できるツールにもなるので、医療技術の向上にもつながります。
20年後の健康と医療技術を支えるデバイス群

(ホワイトデバイスWG委員)
  竹内 昌治 東京大学生産技術研究所
  芳賀 洋一 東北大学先進工学研究機構
  小西  聡 立命館大学理工学部
  興津  輝 京都大学医学部附属病院
  鈴木 隆文 東京大学大学院情報理工学系研究科
  松本 壮平 (独)産業総合研究所
  岩崎 拓也 みずほ情報総研 株式会社
  長谷川友保 オリンパス 株式会社
  細野 靖晴 株式会社 東芝
  藤田 博之 東京大学生産技術研究所

 なお、上述のホワイト分科会の活動については、竹内委員長による 広報誌第60号(2007年7月号)の記事 から一部抜粋しました。(青柳@BEANS本部)

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2009年4月22日 (水)

未来デバイス研究会(その2)グリーンデバイス

 MEMSフロンティア未来デバイス研究会の話の続きです。本研究会では、20年後の社会における重点課題として「環境・エネルギー」、「健康・医療」、「安全・安心」の3つの領域を挙げました。そして各領域で活躍するであろう未来デバイスをそれぞれ、「グリーンデバイス」、「ホワイトデバイス」、「ブルーデバイス」と命名し、これらのデバイスの製造プロセスの「プロセスインテグレーション」とあわせ、4つの分科会を設置し、それぞれの分科会で議論を重ねました。
MEMSフロンティア未来デバイス技術の全体像
 まず、グリーンデバイス分科会ですが、委員長は30代の若さの慶應義塾大学理工学部の三木先生にお願いしました。20年後の社会に登場するの未来デバイスについては、まさに若手研究者がチャレンジする課題です。本分科会では、次のようなグリーンデバイスを提案しました。
 
(1)エネルギー・ハーベスティング
 光・熱・振動・バイオ等の未利用環境エネルギーを有効に利用し、エネルギー供給します。例えばセンサーネットワークなどの分散されたセンサデバイスに、オンサイトで電源供給することができます。また体内埋め込み医療デバイスの電池交換が不要となり、患者のQOL向上につながります。3次元ナノピラー構造による超高効率な有機太陽電池、ナノコンポジット、ナノポーラス構造による超高効率熱電変換素子、また環境から取得したエネルギーを必要になるまで蓄えておく高性能蓄電デバイスなどの開発が期待されます。
 
(2)オンサイト環境浄化
 自動車や湯沸かし器から排出される二酸化炭素や、家庭から出る排水など、一度排出されてしまえば極低濃度になり回収浄化困難なものを、排出源において高濃度のままオンサイトに浄化します。汚染物質を分離するナノポーラスフィルタや、有害物質を浄化する微生物利用などのバイオ技術応用が期待されます。
 
(3)超高感度環境物質検出デバイス
 極微量の環境物質を、高感度かつオンサイトに検出します。計測システムも小型化され、分散して配置されセンサネットワークのノードを形成します。例えば、金や銀などのナノ構造を利用したSERS (SurfaceEnhanced Raman Scattering:表面増強ラマン分光法)が期待されます。
 
(グリーン分科会委員)
  三木 則尚 慶應義塾大学理工学部
  宮崎 康次 九州工業大学生命体工学研究科
  安達千波矢 九州大学未来化学創造センター
  下山  勲 東京大学大学院情報理工学研究科
  石田 敬雄 独立行政法人産業技術研究所
  古田 一吉 セイコーインスツル株式会社
  古賀 章浩 株式会社東芝
  三宅  亮 株式会社日立製作所
  最所 祐二 松下電工株式会社
  高野 仁路 松下電工株式会社
  安達 淳治 (財)マイクロマシンセンター
  福本  宏 三菱電機株式会社
  塚田 修大 株式会社日立製作所
 
 なお、上述のグリーン分科会の活動については、三木委員長による 広報誌第59号(2007年4月号)の記事 から一部抜粋しました。(青柳@BEANS本部)

 

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2009年4月20日 (月)

MEMSフロンティア未来デバイス研究会の話

 話は少々古くなりますが、現在のBEANSプロジェクト発足の原動力となったMEMSフロンティア未来デバイスの研究会(2006年度)について簡単に紹介します。
 
 すなわち、近年のナノテクノロジー、バイオテクノロジーといった新分野における著しい技術進展の状況を踏まえ、MEMS技術とこれらナノ・バイオを融合させることにより、MEMS分野に不連続なイノベーションを生み出すことができないかと考え、マイクロマシンセンターが2006年度に機械システム振興協会から受託し、MEMSフロンティアとしてのナノ・バイオ融合による未来デバイス技術に関する研究会(委員長:東京大学藤田教授、副委員長:セイコーインスツル(株)古田部長)を立ち上げました。 



 この研究会には、未来へ挑戦する気概を有する産学の有識者、技術者、若手研究者が結集し、長時間にわたり大いに議論をたたかわせました。この時の議論した内容が後のBEANSプロジェクトに継承され、そしてこの時苦楽を共にしたメンバーの多くがBEANS研究所の各拠点において中心的な役割を果たしています。

 もちろん、国プロのように大がかりな研究開発プロジェクトの発足にはいろんな方々の力添えが必要であることは言うまでもありませんが、このような研究会がプロジェクト発足の大きな原動力になったことは明らかです。将来BEANSプロジェクトが多大な成果を生み出し、研究会のメンバーの名が歴史に刻まれることを願っています。

   研究会が提案したBEANSが取り組むべきデバイス・アプリケーションとマイクロナノ統合技術
 
 研究会が提案した未来デバイスの内容については、後日記事をあらためて紹介します。(青柳@BEANS本部)

  → 研究会調査レポート 目次 要旨(PDF file;50ページ)



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