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2008年9月22日 (月)

革新的な研究開発を行うにあたって

BEANSプロジェクト研究員の皆さんへ

BEANSプロジェクトでは、新産業を創出するための世の中にない新しい製造プロセスを開発することを目標にしています。でも、世の中にない新しいプロセスを開発すると言うのは良いのですが、どのようにすればよいのでしょうか?なかなか難しい問題だと思います。そこで、20年前に私が海外留学(UC Berkeley/UC San Franciscoのバイオエンジニアリング学科)した時に恩師であるStark先生から言われた教えを紹介ますので、参考にして頂ければと思います。

Stark先生は眼球運動研究の権威で、私が留学した時にはUC BerkeleyのOptometry学科の教授でした。アメリカでは検眼のための学科(Optometry)があり、そこの博士号を習得したOD(Optometry Doctor)がメガネを作っています。日本とは状況が少し異なっております。Stark先生はOptometry学科の教授でしたが、私が留学した時にも、九大の心理学の教授、名大の医学部の助教授、東大の工学部の助教授、フランスや中国の先生等世界各国の幅広い分野の先生が客員教授として来られていて、まさに異分野融合の研究を実践されていた先生でした。

私がそのStark研にはじめて訪れたときに、Stark先生から言われたのが以下の4つの教えです。

(1)常識に捕らわれず、物事の本質を見る研究をしなさい。

 工学者ならノイズは嫌なもので、それをなくそうとする。でも、ノイズの本質はブラウン運動であり、なくすことはできない。では、それで諦めていいかというとそうではない。筋肉はブラウン運動を効率的に特定の方向に変換することで筋肉運動を実現している。ノイズもそのように考えれば、ノイズを利用する新しい概念が生まれるかもしれない。

(2)生物を見習え、でも真似をするだけではダメである。

 新しいことを生み出そうとしてもなかなか新しいことを創出するのは難しい。その時生物の構造や機能を参考にすることは大いに役立つ。生物は長年の進化の過程で、彼らの環境に適した構造や機能を獲得している。したがって、自分のやりたいことに近い生物の構造や機能から学ぶべきことは多い。ただし、生物と人工物は全く同じではないので、ただ真似をするだけではダメで、その根本原理を究明して、人工物に適したように再構築することが必要である。ライト兄弟は鳥のように空を飛びたいということで飛行機を発明した。はじめは、鳥のように羽ばたく機構を開発していたがダメで、飛行の根本原理である揚力の原理を究明し、それを利用することで、鳥とは全く異なるが空を自由に飛べる飛行機を発明した。鳥と同じような羽ばたく機構だけにとらわれていたなら飛行機は発明できなかった。

(3)夢・ビジョン・情熱を持て、でも自分が生きているうちに実現できるものを。

 自分が何をやりたいか(夢・ビジョン)を先ず考えよ。そしてそれに情熱を持て。特に、新しいことをやる場合には、実現できるかどうかわからないので、困難が予想される。困難にぶち当たったときにそれを打開する原動力になるのは情熱である。情熱があり好きなことには困難があっても立ち向かっていくことができるものである。とはいっても、自分の生きている間に成果が出ないのもむなしいものである。自分が生きている間に実現できるようなテーマを選ぶべきである。新しいことが実現できるかどうか判断できないのではとも思うかもしれないが、よほどの天才でない限り、全く新しいことは創出できない。過去に誰かが同じようなことを考えているものである。その意味では過去のサーベイをすることは大事である。サーベイをして類似研究の状況を把握し、自分が生きている間に実現できそうもないと思うものはテーマとして避けるべきである。過去に類似の研究はなされて結果は出ていないが、それは周辺技術が確立されていなかったというものもある。周辺技術のその後の進展により実現の可能性が出てきているものもあるだろう。そのようなものをテーマとして選定すべきである。

(4)サイエンスの探究だけでなく、世の中の役に立つ研究をせよ。

 自分はサイエンス的に眼球運動のメカニズムを解明したいということで研究をしてきた。でも、サイエンスの探究だけでなく、自分の研究が常に世の中の役に如何に立つかを考えてきた。眼球運動のメカニズムの解明は直接的には、眼振や斜視の治療に役立つが、それだけに留まらず、人が物を認識するときにどのように眼を動かして見ているかとの観点から、認知心理学をはじめとする心理学の分野やパターン認識や認識工学等の工学の分野にも貢献してきた。教え子が開発したヘッドマウンティッドディスプレイをはじめとする人工現実感の研究も工学分野への応用の一つである。このように、常に自分の研究が世の中にどのように使えるかを考えることで、研究の幅が広がるものである。

以上、Stark先生の教えについて紹介しました。世の中にない新しいBEANSプロセス開発の一助になれば幸いです(武田宗久:BEANS研究所 副所長)

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